第2話 言葉の刃
「ふあぁぁ……!」
今日も今日とて仕事~
日課の毎朝納豆タスクをクリアし、時間までテレビのニュースを見る。
『今日の深夜、三十代の女性が感電したような状態で発見されました。』
「ぬ?」
『幸い命に別状は無いとのことです。
築根さん、最近増えてますね、不審な感電事件。通称雷鳴事件。』
女性アナウンサーがこの番組の名物キャスターの築根さんに話を振る。
「そうですねー、近くの電線等にも異変はないようですし、原因が分からない今、夜の不要な外出はお止めください。」
「……これが昨日のハゲが言ってたやつか。」
頭に相談しとくか。
「なに?最近起きてる雷鳴事件?」
「はい、昨日言った通り俺はその事件のせいで安藤組に喧嘩売られました。どうすりゃいいでしょうか?」
「気にしなくて良いだろ。」
「………は?」
「別にお前やってないだろ?」
「え、えぇ。もちろんです!あの時頭に約束しましたから。」
「なら良いじゃねぇか。俺達松井組は無関係だ。気にするこたぁねぇ。お前はそんなことよりも、さっさと今日の仕事始めろ。」
「承知しました!」
解決はしてないけど、気が楽になったからいっか。
俺はいつもしている仕事。頭の子どもの家庭教師としての小テストを作成する。二人が学校に行っている間に問題を考えるのが平日の俺の仕事だ。
「よーう、調子はどうだい左近?テレビに報道された気分は。」
「そうなのか?」
「人違いだ!」
話しかけてきたのは頭の子どものそれぞれのお守り役、祈理嬢担当の鈴木元と道理坊担当の笹塚徹。
「ま、御愁傷様って感じだな。かたぎには分からないだろうけど、俺達裏の人間からしたら【雷鳴】イコールお前って認識が強いからな。」
「そうだよなぁ……俺はあの時の一回しか暴れてないし、今は部屋に籠ってるってのになぁー。」
「それだけ左近が一目置かれてるってことだ。」
「そ、笹塚の言う通り。」
「あぁー……困るんだよなぁ………」
「とか言いながらテストは作るんだな。」
「そんくらい片手間で出来ないとな。」
「そいつはすげーや。」
肩を竦めておどけた態度の元。
「おっと、そろそろ時間だな。それじゃ俺らは行くわ。」
ちょくちょく世間話をした後、スッと立ち上がる。
「おう、何事もなくな。」
「当たり前だ。」
うるさい奴ら(片方だけだが)がいなくなり、ラストスパートをかける。
「「ただいまー!!」」
我ら松井組の元気印が同時に帰ってきた。
「おぉーい!手を洗えー!」
元の声もいつもより大きくなってる。これこそ松井組って感じがする。
しばらくして元気印が俺が待つ部屋に入ってきた。
「ねー左近!見て見て!今日のテストの結果!」
「どんなもんだい!」
二人して見せてくれたのは、どちらも百点の答案用紙だった。
「…………うん、問題ないね。二人とも良くやったね。」
俺は二人の頭を撫でる。
「えっへへ。」
「褒められたぁ!」
「おいこら!手を洗えって言ってるだろ!」
その時、障子を荒々しく開ける存在が。
「きゃー!元が怒ったぁー!」
「逃げろぉー!」
「あ!待て!」
……大変そうだな。
いつものわちゃわちゃが収まり、二人は俺の前で正座して、学校の宿題を終わらせる。
「じゃ、今日も小テストがあります。」
「「う!」」
どうやらテストの答案用紙を見せてきたのは、褒めてもらいたかったのと、今日の小テストがなくなるという一縷の望みをかけた物だったようだ。
そこまで甘くはないんだよ。そうしないと俺が給料減らされるし。
「先週授業でやってるところだから、大丈夫だよ。」
「「はぁ~い。」」
計測から二十分。
「はい!終わりー。もう一回手を洗ったらお菓子食べて良いよー。」
「終わったぁー!」
「僕が先ー!」
「あぁー!ダメー!」
二人が部屋からバタバタと出ていってしばらく、元の「走るなぁ!」という声がまた屋敷に響いた。
さて、採点するか。
サク、ムシャムシャ、ガサッ、ゴクッ!
今日の自由に食べて良いお菓子が入った皿がほとんど空になり、勢い良くジュースを飲み干す二人。ジュースも二人で500mlだから速く飲んだ方が多く飲める。だが、先に飲みきるとお菓子を食べるのが大変になる。これは二人の頭脳戦でもある。
「「御馳走様!!」」
ニコニコ笑顔で手を合わせる。お互い満足そうで何よりだ。
「それでは点数を発表します。」
ゴクリ……と緊張感が二人に走る。
「二人とも満点です。
はい、ご褒美の飴だよー。」
「私リンゴー!」
「じゃあ僕ブドウ!」
ホッ……としたような雰囲気が伝わってくる。もしここで点が低いと、俺から頭に報告することになり、お父さんからの説教が怖いのは今の時代も一緒みたいだ。
「じゃあ、ゲームしよ!」
「うん!元と徹呼んでくる!」
道理坊が部屋から出ていった。
「あれ?俺は?」
二人が好んで遊んでいるのは、四人でバトルするタイプの対戦ゲームだ。
祈理嬢、道理坊、元、徹、そして俺。人数オーバーだ。
「左近は下手くそだから見ててね!」
祈理嬢の笑顔で放たれた言葉の刺に、俺は意気消沈した。
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