俺と同じ異名のやつ

麝香連理

第1話 誰お前?

 闇が広がる路地裏に、二人の男が入る。

「こんな時間に一人か?」 

 片方が指を指した先にいたのは、路地裏の更に奥にいた一人の人影。

「いい的になっちまうぜ?」

 二人はへへへ…と、下卑た笑みを浮かべながらナイフを握る。

「おう!金目のもんだせや!」

 つき出されたナイフを見て、人影は右手を高く上げた。

「おいおい!そこは両手だろ?そんなのも分かんねぇ……」

 片方が言いかけた時、すぐ近くでバチッ!という音と一緒に、視界の端に白い光が見えた。

 ドシャ………

「っ!て、てめぇ!電気系統の異能力か!?」

 確認すると、相方が何も言わずに倒れていた。片方は自分が持ちえない異能力を持っていた相手に、驚きを隠せないままナイフを握る手が震える。

タッ

 人影が近づく。

「く!お、俺らは安藤組だぞ!?分かってんのか!?」

タッ

 さらに一歩近付き、人影の周りに光が走る。

「っ!クッソォォォォ!!!」

 男は相方を瞬時に担ぎ上げ、路地裏から出ていった。




━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━






「スゥー……ハァー………」

 煙草うまーー。この胃に悪い感じがたまんねぇな。

 今日はあと、約二十分の休憩だな。休憩したら頭の夜食買ってきて、仕事は終わり、今日も一日何事もなく平和だったなぁ………

 ザザザッ……

 俺がそう思っていると前から何人もの人が歩いてくる。フラグか?予想通りというべきか、そのグループは俺の目の前で足を止めた。

「見かけない顔だな。なんか用かい?」

「貴様が【雷鳴】だな?」

 一番前を歩いていた貫禄のあるハゲが話しかけてきた。

 まぁ、この職業柄貫禄のあるハゲなんて溢れるほどいるのだが……

「それがなんだ?」

「認めたか……部下が世話になったな。」

 ………?

「なんの話だ?人違いじゃねぇか?」

「いーや、この前部下がやられた時、雷の異能力とぶつかったと聞いた。」

 えー最近能力使ったか?………いや、このハゲが言ってるこの前が俺が思ってるよりも前ってだけか?

「確かに俺は雷の異能は持ってる。悪いがお前らどこの組のモンだ?」

「舐めてるのか?」

 ハゲが後ろの一人に目で確認をとった後、青筋が浮き出た状態で圧をかけられた。

 その時に組の名前を言ったってことか………んー心当たりが無さすぎる。いつも組の名前を聞く前に潰してるからなぁ。そうすれば知らぬ存ぜぬを突き通せるしな。だから、そんなしくった時は絶対覚えてるはずなんだが………

「悪いが、覚えがない。」

「貴様……!!!

 ……そうか、ならば答えよう。俺達は安藤組だ。」

 怒りを圧し殺してハゲが告げる。

 …………待って?今安藤組って言った?そんな日本のトップに俺が喧嘩を売った?そんなバカな……

「悪いが心当たりが全く無い。」

「ほう、まだシラを切るつもりか?巷で話題だぞ?夜な夜な【雷鳴】が徘徊し、通り魔のように電気の異能力を使ってるってな。」

 ………はぁ!?だ、誰だ!?俺に化けてる奴は!?

「その【雷鳴】と俺は別モンだ。一緒にしないでくれ。」

「それは無理だ。うちのシマのかたぎにも被害が出てるんでな。可能性は潰すべき……そうは思わねぇか?」

 くっ!一理あるがそれでやられる俺の気持ちも考えろや!

「お前ら!囲むぞ!」

「「「「「おう!」」」」」

 合計八人……めんどくさいが仕方がない。お前ら、身体がついてこれるといいな?

 バチッ!

 俺は全身に雷を纏わせ、光の速さで移動する。

「がっ!?」

「ごべ!?」

「うっ!」

「ぶべ!?」

 一先ず四人片付けた。

「な、なんて速さだ……」

「これが……【雷鳴】………!」

「まだ終わりじゃねぇだろ!?」

「まさかこれを使うことになるとはな。」

 ハゲが手をかざすと、たくさんのシャボン玉が出現する。 

 警戒のために、一度移動を止める。

「来いよ。」

 ハゲの分かりやすい挑発だ。乗るわけには……

ぐわ!?

「いった!」

 腕がシャボン玉に当たったか!……にしても触れると痛みを伴うシャボン玉とか、子どもの前で異能力を自慢できなくて可哀想だな!

「ふ、おまえら!投げれるもん投げろ!」

 下っ端どもが、ナイフや転がってるゴミクズなんかを手当たり次第に投げてきた。それによって、シャボン玉が連鎖して爆発し、俺に迫ってくる。

「まずっ………」

 どこか!逃げれる………!上だ!

 全身に出来るだけの雷を纏わせ、最大速度で飛び上がる。

「なに!?」

「反撃だ!クソヤロー!」

 シャボン玉に当たらないように、不規則な動きで一人一人潰していく。

「てめぇ!安藤組がこのまま黙ってると思うなよ!?」

 最後の一人になったハゲが、最悪の捨て台詞を放つ。

「喧嘩売ってきたのはてめぇらだろうが!」

 怒りをこめて、渾身のドロップキックを浴びせた。これで八人全員が沈黙したな。


「めんどくせー敵だったな。

 ……っ!!!!あと五分で頭の夜食タイムじゃねぇか!速く買わなきゃ!」

 そうして、俺は今日二度目の異能力を使用した。

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