第五号 ひとヨ織りなす一生ム

「アンドロアの題目、とても単純かつ根本的、いわゆる産み増えよなのさ」

 地獄鳩なかカウンターうえ置かれたハッカクのそう切り出した。

 聞くのつまらなそな徒怪きり。

 音予さん寂しそう丸い背で麺だくさんの作っている。

 店外、夜雨にしとしといっている。

「ナノマシンの集合体であるアンドロアは、人大のがひとりあれば分裂し増える」

「そりゃあ凄うございますな」

「ふたりが、四人、四人が十六……って鼠算なわけ」

「ほえぇ」

「ただ産まれるにもじっくりしていて、数揃うまで時のかかる」

「あぁそう」

「増えるたアンドロアたち独自ネットワークで互いある情報まったく共有している」

「ふぅん」

「で、いくら増えようも一体であり、このうえナノマシンの単細胞生物な性格も相まってシック論を克服している」

「つまり」

「ただ馬鹿みたい増え続ける機械というわけ」

「おまけ強大でしたな」

「ちょうど一体でドランカァドひとりぶん。で自身ほか生物の滅ぼすよう仕込まれている」

「それがあれ、いくらいましたっけ」

「あの柱ひとつまとまった姿で、あの嵩から推測すれば、ざっと八十億弱」

 机叩いてうるさく、しまい咽るほど笑う。

「とんでもないの作りましたなぁ」

「僕の作ったんじゃない。対抗策に真似てやってみたけどあんな怪物まで及ばないガラクタまでさ」

「生き物なく、白紙となった星でどうすると?」

「なお増え続ける。他惑星も占領していき全宇宙のっぺらぼうって算段」

「のっぺらぼうでなんの楽しいか」

 こんど机の叩いたこと、憤まんからだった。

「蜜運ぶミツバチへ、そう訊ねてみなよ。生態なんだよ、そういう」

「で、なんの証明されましょう」

「さぁね。世界の生物なくも廻る。ひとつの思想から統一された世界つまらない」

 まぁ、とハッカクの声ふてくされたものにして、

「どれも当りまえ、ただ人よったらこういうの実証したくなる馬鹿だっている。考えの多く蔓延ること実に愉快で、不愉快だね」

 まったく、と人らしき嘆息だった。

 さすが明るくなれない徒怪なお模索する。

「電脳さん、こちら味方ならハッキングとやらでどうか」

「独自ネットワークつったでしょ。口硬い身内だけの完全閉鎖場、僕では通用しない」

「となればいよいよ……」

 不穏まみれな話断ち切るよう音予さんどんぶり置いた。

「食事時、あの娘、呼んできてくれるかね」

 すこし凄味もって言われ、徒怪したがって雨へ出ていった。


 店の外すぐそば。

 アカロの左腕と刀の諸手ぶらさげ立ち尽くせ、雨浴びるままだった。

 生臭さに水臭さ混じって、不快だった。

 雨音なかうぅぅぅと低く響こう室外機の耳へ気になってゆく。

 流れるの、雨だか、涙だか。

 引き戸いきなし開くに、徒怪だった。

 にかにか笑っていて、しかし作意ある顔つきなの騙せていない。

「聞いていたでしょうな」

「なんの?」

「店内の」

 隣り来て徒怪いっしょ濡れてくれる。

「ねぇ衿巻さん、寂しい?」

「そちらこそ、どうですかな」

「酷だね、それ」

「お互い様で」

「私、またなんにもなくなちまった」

 徒怪の懐かしく雨天あおいだ。

「かつてそうした少年へ出会ったことのありまして」

 雨足少し弱った。

「家族なけりゃあ、なんでもカァッとなったなら殴る。ゆえ嫌われもんで」

 アカロただ聞く。

「あるとき悪辣な大人と諍いして、すこぼこ青たん放題で酷い。私の助太刀し撃退してやって善いことした気分、少年へ手の伸べたら……」

 なんと、とし俯いてから、

「手の弾いて私まで殴ろうする始末」

 嘘ぽさなく、ほんのり笑む少女姿の年長者だった。

「『何で殴りますかな』

 私問いましたら、少年おなじみ怒って、

『殴ってもらたってなんもねぇ。俺だけの怒りで、俺だけの拳だ。黙って見てろ』

 こう恨んでくる。

 この少年とったら命よか、その刹那ある納得だけだったんでしょうな」

「だから、なんなの……」

 ここから憤怒まかせ、アカロの発する。

「だからいなくなってもいいの! 納得したってどうわかるの! 残された私に納得なんてない!」

 叫ぶあとの静けさ雨降りに埋まった。

 形見の腕を威勢から潰してしまいそうであったの堪え、そのぶん歯噛みした。

「生きててほしかった私は、虚しくなったよ」

 すると徒怪よりもうひと話、

「昨日、夜この場のこと」

 と始まった。

「その荒くれた少年に『あの少女、同行させましょうか?』こう聞きました」

 雨滴絞り切ったよう、水溜まりの澄んだ。

「勝手しやがれと少年こたえたんですな。ほんで舌打ちやって『どうせアカロも俺も、殴りたいやつ殴る。そんだけしかねぇんだよ。バカ師匠』なんてわかった風でしたな」

 フッと微笑んでしまう。

 当人からアカロなんて呼ばれたの一度たりなかったな。

 なぜだかそう思いだした。

 ほんとう呼ばれていないこと思いだすうち、そうかとなった。

「私は納得してない。殴るべくを殴っていない」

 こうアカロ表情に覚悟やどるの察せたか、徒怪ずぶ濡れた身体の犬みたく振り回した。

 しずく飛沫いて、アカロかかる。

 そうやって乾いた徒怪ガハハ。

 やりかえし、アカロ同じようした。

 されど徒怪かろやか躱してしまえ、

「さあ夜食の時間ですな」

 こう暖簾くぐりつ、手招いて来る。

 さっぱりした少女の腕も刀も忘れなく、古く懐かしい明るさへ歩んだ。

 どんぶり一杯泣けるまで美味く。

 なにより温い。

 音予さん涙で感化受けたか、

「年取れば寂しさ慣れちまっていけねぇねぇ」

 と一縷泣かれる。

 この一筋たら、とても若く涼しく透明色に垂れていた。

 このあと彼女ひっそりアカロの傍おいた刀へと手の合わしてあった。、

 やがて昨日、今日を橋わたす真夜中。

 暗雲晴れる。

 ひとつ天のいただきさびしい満月に、これ囲いどす黒い空ばかし続いた。


 その日、深夜三時ごろ、擦り硝子越し月明りの柔らかく白い裾さし込む地獄鳩なか。

 月の裾ふんづけ、刀、腕の連れてアカロこっそり出ていこうとした。

 カウンターうえ、ほったらかしな端末ふっと明るくなった。

「さっきまであった人の抵抗むなしく、アンドロアの世界散って本格的猛威だとさ。今日だれも眠れぬ夜だね」

 気持ちなく現実読みあげるハッカクに、アカロなんら返事しない。

 ただ立ち止まる。

「僕って君の愛するからさ。もしやしたら君へ意地悪おもわれようも言わせてもらうよ」

 洒落っ気の捨てたから、つい誠実のみ残って真実味こもった。

「諦めて僕と、いや君のみでも逃げないかな」

 戸まで手のかけた。

 ハッカク声いっそう熱心し早口。

「宇宙船もう一機隠してある。乗員の四人あって、この銀河ならどこへだって逃げられる。あと例の星爆弾やってしまえば……」

 ガラガラ開ける。

 月明り斜めに、より多く入って店内へ伸びる。

「わからないな。君の奴ら倒さねばならぬ使命や、いわれない。彼やられた恨みかい?」

 黙りこくる背にまだ語って縋る。

「いやなんだっていい。しかし摂理ならアンドロアほう正しい」

 アカロひとつ落胆息。

「だってそうだろ。無理な意志ため命ないがしろする君、かたや存続ため一貫しようとする彼ら」

 生まれの歪んでいたとし、生きることへ従っているほう真っ当だ。

 そうハッカク結論だった。

「君まさかひとつの神意アンドロアへ勝るとも劣らぬ正義の持ち合わせあるのかい」

 アカロようやく口開け、

「黙って見てろよ」

 そうあっさり一蹴。

 出ていく。


「それただの開きなり、逃げの台詞だよ」

 残され苛立ちハッカク、呟いた。

 引き戸の閉まって、しょせん携帯端末で暗いなか明々しているだけ。

 そこへ二階より徒怪あって、笑う。

「乙女心あつかうってのは難儀ですな。色男」

「倦怠期ってやつじゃないかな。こうした暗黒乗り越え、愛深まるだそうだよ」

「ほんとう宇宙船なぞないんでしょうな」

「なくっても作ったさ」

「電脳体でしたか、動けなくって不便ですな」

 意地らしくされ、ハッカクやっと降参。

「まぁ、断ってくれなきゃ、僕の惚れた彼女でないね」

「心情は理論を超越して初めて面白く意義もたらすとでもいいましょうか」

「いいねぇ、論文書いてごらん。そんなの戯言あつかいさ」

 アハと一笑せ、徒怪つけていた金剛石とりだして示した。

「論より証拠、私のおかしい策のっかりますかな?」

「なんだいそれ?」

「馬鹿騒ぎ(ドランカァド)そのもの」

 金剛石なか複雑かつ美しき光線入り乱れて、なにもかも魅入るよう輝いていた。

 

 月光下。

 白き塔こと中央とし、この眼下、また白なる大海とも見紛うアンドロア群であった。

 あたり草木ひとつなし。

 ただ平坦に硬き地面であった。

 そこ踏みしめ、ひとり少女の泣くも冷めた顔つき搭めざし進む。

 まず彼ら波頭の気づけ、ほんとう独りぼっちへあまりな大波で迫ってくる。

 しかし尻込みでなく、アカロしゃんと立ち止まった。

 持っていた左腕のいったん地へ置く。

 それからもう片方持ったる刃から、自身ある左腕、肩口からばっさり斬り落とせる。

 不可解だったか、迫るのっぺらぼうら迫り止して様子見。

 彼女、刃咥え、彼のであった左腕ひろい上げる。

 そして自身失くした左腕代わり、接合。

 なんなくくっつけば、もうアカロの腕であった。

 アカロの手であった。

 またふたりの拳であった。

 先頭いたアンドロアから、感動なく訊かれる。

「自傷行為か、我らに向かうことまた自害行為か、生態背く人よ何者か」

 咥えた刃の右腕まで戻せ、アカロこわく顔して、

「ドランカァド、あんたらを殴りに来た」

「無謀にして無為で愚行。なにより生きている。よって始末する」

「聞こえなかったかな。こんなんも理解できないポンコツ、黙って殴られろってんだ!」

 大海もはや打ち付けようこと容赦ない。

 アカロとて、ひとり容赦なくぶつかりゆく。

 白い海呑まれようも、海の裂く。

 裂けたところまた別な白で渦巻き始める。

 一斉なだれ込む。

 どんな角度にも絶望あふれかえっている。

 もうここまでとしても、アカロ、刃構え、左拳の振るおう諦めない。

 泣くことの、わがままの、止しやしない。

 間違っているか。

 正しいか。

 くだらねぇ。

 生きていけるか。

 いなくなるか。

 つまんねぇ。

 寝言は寝て言う。

 あいにく私は不眠不休のドランカァドだ。

 だから生きている今だけは、この那由他で一瞬間な今だけは、

「私は殴りたい奴を、心ゆくまで殴る!」

 そう響かせ、殴って壊して蹴って斬って。

 けれど白に塗りつぶされようときだった。

 別方角から降った隕石ようなのたくさんある。

 凄まじく地鳴り、アカロ潰そうとしたどれしろこの煽り受け、吹き飛ぶ。

 続いて、遠い近いなく、各所で同じよう強力な影落ちてきて海の裂けた。

 流星群よなそれら正体、ただ人であった。

 背広着ていたり、エプロンしていたり、子供であったり、老躯であったり、女であったり、男であったり。

 ただみな様々豊かに、わけなく笑っていた、怒っていた、泣いていた。わがままに。

 どうなってんの? これってまさか……。

「一期の夢、ただ狂えっていいましたでしょ」

 そう声のあと、呆然ぽけぇっとなっているアカロの背へと、硬質なもの投げつけられる。

 振り返れ、徒怪であった。

 またその後ろあらゆる人々からなる黒山たくさん。

 背に当たった物らしい端末の拾えば、嫌な電脳体の声で、その心とびきり明るそう。

「アカロちゃん、こりゃ壮観でないかな! わかるかい! いまここに、いやきっと世界中」

 誰もかれも、とここで徒怪の引き継いで、

「こんにち限り、全人類ざっと八十億、みなドランカァドなんですな」

 ガハハハハハ、月にも届くまで愉快そう。

「どして、そなことに?」

 アカロ、危うく刀の取り落としそう。

「あの金剛石さ!」

 ハッカクたら興奮余って饒舌だった。

「恐らく、あれの複雑かつ特殊なスペクトル構造から発せられる波動当てられると、人ら一種催眠状態なって、その催眠たら人の精神へと作用し、いわゆるドランカァドたる思考態の再現する。よってその力の得る」

「頭痛い。つまりみんなドランカァドなれるってこと?」

 アカロの携帯端末こと投げ返し、徒怪うまく受け取る。

「まぁ、実際とこ金剛石の砕かねばなりませんし、催眠そのものとて効くの一時の一度きり」

 徒怪の指一と立てて、それから左右、十と広げた。

「しかもその周りいるせいぜい十人の限度でして」

「いやなんでさっさ使わなかったの?」

「もしドランカァドなく異星人攻められた最終段のものだったためですな」

 あたり見れば白いのと対峙しつつ、皆酔ったよに感情溢れていた。

 これ呆れてアカロなお問う。

「で、なぜ十人限度から、八億倍まで膨れられるわけ?」

「いやはや、ネットワークとは便利ですな。敵さんも利用するわけです」

 ここからハッカクうるさい。

 徒怪も嫌か手放し、やはりアカロの持たされる。

「僕のハッキングよってあまねく電子機器乗っ取り、金剛石の割れるさま、その波動を流布した」

「はぁ、またつまらない学だなぁ」

「ちなみに戦いの終わってしまえば流布したのいっさい消させていただくよ」

「はぁん、そりゃまたなんで?」

「戦争なる火種かもだしね。興味あれ、アカロちゃん傷つきそなこと失くしておきたい」

 これぞ愛さ、と冗談か誠かの判然しない洒落っ気だった。

 呆れ切った。

 八十億まで昇った神理アンドロア

 これ対し全人類ドランカァド八十億。

 八十億の大馬鹿ども。

 ほんと、おかしすぎて、夢みたいで、涙出てきた。

「さて、みなみなさま一夜限りの夢、正直者で狂い咲きましょう!」

 徒怪の大手振って、大号令。

 黒山どんちゃん騒ぎぶつかってゆけ、白海あくまで秩序だって襲い来る。

 アカロこの先陣駆け抜けつつ、泣き笑って、

「馬鹿バカしくたって、まだ終わってないんだ。終われないんだ!」

 

 曙もう競りあがってきて、薄明るくなって月隠れだそう頃合い。

 白対する黒の、互角であった。

 双方に多く砕き、多く散る。

 戦いだらけ破壊尽くしなか、アカロひた走る。

 ポケットで端末から情報のある。

「アンドロアも、ドランカァドおなじで肉体の八割うしなえば、肉体の自壊する」

 アカロ、まえから殴りかかるのっぺらぼう、拳骨あられよう降らせ白の一片たり残さない。

「またいわゆる王制でね。中枢核の持つの一体あって、こいつよってナノマシンいっさい動く」

「その王さん取れば、囲いやるまでもないってこと?」

 この野郎め、そう怒っていたおっさんの白より殴られ消し飛ぶ。

 おかえし、主婦らしいの殴り倒せ、のちその場崩れ泣きじゃくった。

 わぁあああああ!

 ハハハ、泣いてやんの。

 それへ笑っていた青年、また白から打たれた。

「まったく飲んだくれの狂乱だね。協調性なく、よくここまで互角なもんだ」

 ハッカク、げんなり感想。

「で、ハッカク、いったいその王さんどう見分ける?」

 ともかく駆けるアカロ険しく訊いた。

 初めて名前で……と、嬉しそう言いだし鬱陶しくなるまえ電源切った。

 また勝手でつけば、咳払い改まっている。

「簡単さ、そいつの顔、目と鼻と口のある」

 いわれて、あらゆる方向めまぐしく探れ、つい見つける。

 柱てっぺん、この騒乱へ高み見物決め込む冷めた飾りよな瞳の一体。

 アカロこうして王さん睨めつける。

 向こうせよ気づいたらしく、手のかざし、ほかの白ら規律もって柱まで集まりだす。

 集まれば、柱なか同化して行く。

 同化飽き足らず、変形せる。

 変形で腕生える。

 足生える。

 なお膨らめ大陸跨がんばかりな白いのっぺらな人かたちした巨神だった。

 戦場とっぷりその体躯させる陰で暗くなった。

 神の吠えれば、星のいっさい震え、宇宙歪むよだった。

「こりゃあ、踏みつぶされちゃひとたまり無いね。下手したら星の割られるかしらん」

 ハッカクといえ、どうも戯言でない。

 ただドランカァドの圧倒されない。

 どころか、徒怪また大号令。

「馬鹿と煙はドでっかいのと高いところのすきってなもんです!」

 するとアカロとこみなみな集まって、胴上げし始める。

 人びと彼女持ち上げつつこの下で積み重なれ、高み目指す。

 この高み目指すうち、人の重なりから足の成し、胴でき、腕でき、頭でき、髪まで成れば、こちらとて宇宙うがたんばかりの巨神。

 またその見てくれ、伸びて乱れた黒髪、怒れる獅子な顔つき、ツナギ。

 どの特徴とて、鐃丸寛一のそれであった。

 そしてその頭うえ、昇ってくる日の丸背とし、アカロ堂々立つ。

 立って、向かい白い巨体のてっぺん立とうアンドロアの王と対する。

「前言撤回だなぁ。共有認知、テレパス、偶像崇拝、こりゃ、僕の、いや頭じゃ理屈にならない」

 これぞ心ってやつかなぁ、ハッカクひとつはぁと嬉しさから苦笑。

「実に馬鹿げた守護神ドランカァドだ!」

 こうしてひとつ星うえ、二柱の対決せる。

 互い悠長ながら、大いなる拳の振りかぶって、渾身かつ同時ぶつけ合う。

 頬殴り合え、破裂せ人たくさん飛び散る、のっぺらぼうわんさか弾ける。

 このとき、てっぺんの両者すら互い向け、駆けだし飛び出す。

 中空で落下するとも、拳百裂、見切り万遍ひっきりなし交わされる。

 そこで顔あれど仏頂面したアンドロアよりある。

「我らこそ永くこの宇宙統べり得るただひとつ道である。なぜここまで歯向かうだろう?」

「うっせぇ、黙って殴らせろ!」

 うらぁあああぁあああああ!

 力強く涙垂れ流す。

 アカロその拳やまさない。

 電鎖刀にも乱れ斬り。

「話にならず、答えにならず」

「やりたい放題やって、言いたい放題やってやる! たとい短かくも、長くもそれもまた生きる道でしょう!」

「そんな無責任かつ稚拙でやけっぱち許されようか」

「この世は夢よ、ただ狂え! なにが宇宙だ! なにが星だ! なにが人類だ!」

 刀のつい粉々。

 ありがとう、アヤカ、オリン。

 左腕の酷使から脆く吹き飛べ、塵芥化する。

 やっぱ私の拳でなきゃいかんよね、寛一。

 腕の生え代われ、再び百撃ため振るう。

 そしてアンドロア、もはや修復間に合わず壊れ朽ちだす。

「私は言う! 私は殴る! 誰かためじゃない! なにせよ私は私、いやぁテメェのため、テメェの納得のため、悲喜をし狂い夢見る!」

「なにをか?」

 もう地上近い。

 アンドロアすで頭部きりしか残ってない。

 そこへもっとも馬鹿らしく星すら揺らしそな拳かまえる。

「だから言ってんでしょ!」

 泣き笑って、にっかり。

「私は生きとし生けるすべてへ何度だっていう!」

 一撃、頭部へこませる。

 地まで届く。

 星すら揺らす。

 そのうらっかわまで響かす。

 そう大それたことし、凹んだ板切れよなアンドロアへ、否これから来たる何かへ。

「黙って見てろ! 私だってテメェを黙って見ててやる!」

 そう言ってのけた。

 かくしてアカロ、泣き笑い、日の出こと真っ向から見つめて、温い涙ぬぐえた。

 アンドロア辛うじて潰れた擦り切れた声さし、

「解析不能、結局ところ、私のなぜ、なぜ……ほろぼされ」

「透かしきった顔の気に入らねぇからだよ」

 泣き虫だった少女のこう見下した。

 言われてアンドロアなにやら安らかそう瞑って、

「なるほどなんと馬鹿げた理由だろう。こんな世界で増えるだけ、いやひとつの考えのみでは統一かなわない」

 世界の馬鹿に広く、酷に多彩であったか。これにて途絶えた。

 夜も明ける。

 人世、一夜も夢のあと。

 笑い、泣き、怒る。

 こんな声も聞き納め。

「ああ、殴れてスッキリした!」

 アカロこう伸びをし、歩みだす。

 白かった海の引き潮。

 黒山めいめい解散ぎみで穏やか空の進む。

 それからまた、だれもが知って、だれもわからぬ狂気みたよな日々の廻る予感があった。

 帰ったらば麵だくさんの食おう。

 こう思ってすかぬ腹のすいたようさすった。

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