第二戦 どこにもいない心
日付またいですぐ。
いくつか自販機あたって釣銭の取り残された十円ひろえた。
絶滅しかけな電話ボックスどうか頼って、実家かけて不通。
電子音つぅう、つぅう。
聞き飽きたアカロの寂しい灯りなか俯て、ボックスの出た。
せっかくの十円も忘れて。
項垂れでれば、うす暗い塀へ寄りかかって寛一の憤った溜息。
爪先の貧乏ゆすり大っぴら。
「待たせといて、しけた顔もって帰ってくるんじゃねぇ」
「ごめんなさい。でもやっぱり帰れないんだなって」
「また泣くか?」
「はいぃ」
俯きのあげれば、目尻なみだ溜め、しゃっくり。
「勝手しやがれ」
そう憤怒ままどこか去ろうとしているの袖引っ張り止める。
「放せや」
「嫌だ! 私の助けてくれるんじゃないの!」
「あぁ? なに言ってやがる」
「学校のとき、警察署でも、いまでも電話の待っててくれて。味方でしょう」
「俺の惨めなまんまの奴と、暴力対し癇に障っただけだ」
あっさり袖の振りほどかれる。
なお食い下がって、
「私まだ惨めなの!」
「テメェもうテメェだけで充分なんだ。俺とて、俺で足るんだよ」
「そんなぁ。じゃあ私のこれからどうやったら」
ここで腹たら飢餓に鳴いた。
潤む視線の腹へ下げ真からどうしようと撫でるも、しかしまたぐぅう唸った。
気にしない寛一どこかへ歩もうとす。
口論こう終わって別離しそう。
すれば路地さきカッ、カッ、ゆるり足音せ、アカロ耳に憶えあり。
深夜闇からこの快音だと不気味。
不気味の電話ボックスの灯り届くところまで木製靴の出てきて、オリンだった。
「無事でしたか、おふたりとも」
寛一の鼻かすか鳴らし、戦おう構えから、
「また辛気くせぇロボットかよ」
と、まだ面識なかった彼女へ三白眼。
「オリン! どこ行ってたの? 大変で……」
反対に天の助くで、アカロよろこばしく泣きつこうとする。
されど近づく手まえ寛一の邪魔だ一言から横腹蹴られもんどり返れ地にのたうち回る。
のたうち尽きて、蹴られて不服残っている。
「なんなの!」
「こいつの人じゃねぇ」
「あんたこそ人でなしだよ!」
「いえ、ドランカァドの言うとおりです」
自供あって、アカロたら文句の出ばな折られ、すっかりぽかぁん。
「私は製造名オリカラン、通称オリンです」
え。
えええええぇ!
夜静か破っれる響き上げ少女の吃驚だった。
俯いた街灯ならんで、明暗まだらの下町で三つ人影。
道みち話し先導するオリンの、鈴よう声キレイだった。
思って聞けば、人聴かすため作られた声帯めいて、寛一こと盾にアカロはオリンを警戒した。
「私どもロボットのあなた方、つまり人類おいて敵です」
街灯あかるみ出て、闇へ入る。また明るみ、暗がり、繰り返し。
「私ふくむ数体のロボットは数千年まえ宇宙より飛来し、長く眠っていました」
いい加減ひっつかれ面倒らしく、寛一の突き放す。
「しかし、ここ五年のうち目覚め、ようやく星の侵略へ」
つぎ掴まっていれば、いよいよ一撃食らうやも。
そう感じ、ただ気がきでないアカロせめて彼の影入る。
「また彼らの侵略にて、人類こそ支配あるい滅ぼさねばいけない対象です」
「オリンもそうなの?」
人さま陰越し及び腰に問う。
「いえ、私の別な使命受けています」
「別って?」
「ドランカァドの探し、人類助けよと。ですのでいまあなた方の案内しています」
安堵あって、アカロこんど気後れなく彼女の隣り肩ならべた。
「なんだぁ。宇宙とかよくわからないけど、じゃあ味方だね」
「わかりません」
明るみで先導者たら立ち止まる。
情乏しい澄まし顔ゆえ、ロボットらしくなんら起伏も感じさせない。
けれどどうも影の具合だろ、アカロの彼女より塞いだもの汲み取った。
「私へ与えられている情報少なく、これだけなのです」
もしかすれば、あなた方の明日の敵や知れません。
夜道まだ長そう続く。
喋りかけられなく黙ってしまい困ってしまう。
そこで黙したふたり置いてけぼり、ひと足さき闇入る寛一だった。
「はやく案内しやがれぇ」
オリン、首傾げ聞く。
「いいのですか?」
「テメェからついてこいっていったんだろうがぁ」
「罠であったら、どうでしょう」
チッ。
煮えだし浮かぶ気泡小さくひとつ裂けるよな舌打ち。
「明日の敵はあした殴る。ぐずついて仕方ねぇ奴なら味方でも今のうち殴るぞ」
アカロいまだオリンわかっていない。
ロボットのどうだか到底わからない。
といえこの折やはり影具合か、澄まし顔なか柔らかい微笑みの色さしたよう映った。
「オリン、連れてってよ。私も行くとこないんだ。罠だって仕方ないよ」
ともかく映った明るさの逃さぬよう、アカロ笑ってみて言う。
彼女ひとつ頷く。
さて、また明暗まだら、三つ影渡ってゆく。
先導のカッ、カッ。
こころなし軽い足どり。
繫華街にて、ビル囲われる小道。
よく換気扇まわって低い音の立ち込めている。
所々ある簡易に固定した光源晒す醜さ怖い。
錆びつく自転車の壁凭れ、いまにもしな垂れそうだった。
ポリバケツ酩酊ぎみ横倒れて、臓物よなゴミ吐いている。
おまけ、どこからか下水臭い。
アカロままならず鼻摘まむ。
しかし案内人や、寛一の躊躇いなく進むため、わさび食らったよな涙目にも進む。
酩酊バケツこと跨ぐ。
より奥で、近い向かいの壁へと赤く暖簾掲げる中華店らしいのあって、
『地獄鳩』
そう黒字から殴り書き豪快だった。
「じごくばと?」
「じごくきゅうです」
オリンより読みの訂正され、アカロ、あぁそう。
どうでもよかった。
装飾の配慮いっさい無し、むしろ汚れて怪しくしている。
引き戸の擦り硝子から零れる明るさすら、黄ばんで古びている。
戸の開け、オリンやわらかくただいまと人ぽかった。
地獄鳩なか、狭く打ちっぱなしの床や、しみ垂れた白黒い映画ポスターなぞ年輪のあった。
もう深夜、がらんとしたカウンター席の並んで、それぞれ座布団あったりなかったり。破け綿の白く零れている酷いのもあった。
で、カウンター向かい厨房で白髪に割烹した婆さんある。
荒木の皺に出来物、その年嵩なかで眼光やけに若くらんらん。
それがオリン覗く。
ついで連れ合いふたり見て、歯のない口でもごもごやった。
けっきょくなにも明確な言葉なく、黙認なんだか胴鍋ぐつぐつやって仕込んでいる。
黙認あたりまえよう、オリンの、アカロ、寛一を促し店へ入れた。
アカロこのまさしく滅入る雰囲気で気圧されるも、鍋さすいい匂いし腹の唸った。
三人、カウンター並ぶ。
「ここで私は居候させていただいています。うえで部屋もありますので、三人寝れます」
「じゃあ、今日のところなんとかなるね」
「宿なんぞいらねぇ」
アカロありがたくなる隣り、寛一の直ぐ言ってしまうと、店の出ていこう引き返す。
「ちょっと、オリンの話だってあるだろうし」
「外で待つ。話のそっちでやっとけぇ。けったくそな事情なぞ、喧嘩にいらねぇ」
「では、ひとこと名前くらいどうですか? ここまで私も彼女も正しく聞いていません」
これへだけ頷けたらしく寛一のチッとし、
「鐃丸寛一」
と改めて名乗る。
知っていたといえ、なんとなしアカロうれしくなって、
「ちなみに私、赤闢久地美!」
「聞いてねぇ」
暗いほう出て引き戸さっさ閉めてしまう。
憤りこもった悪態で、アカロおっかなくなれ、嬉しさも吹っ飛べ泣きたい。
「今更だけど、なんであぁ感じつんけんどんなんだろ」
「ドランカァドには自己中心性、いわゆる傲慢があると前もっての情報にあります」
「というよかドランカァドってなに?」
「なんでも星ひとつ壊せるエネルギー身うち秘めた超生物だと。私の星でもむかしいたとか」
「まぁ、普通ない力だったけど」
「それよかいまのうち、どうロボット倒すかです」
アカロの本題入ると、嫌に情けなく肩下げて聞く。
「なんで倒すなの? 逃げれば……」
「安く逃してくれるものでないんです」
「そっかなぁ」
「警察署でも敵対したのでしょう。ニュースで知りました」
「私らやっぱりお尋ね者?」
「あなた方ふたり、あと刑事ひとり。ただ未成年で写真まで出されていませんでしたよ」
「あぁ、あの人も逃げれたんだ」
どこかほっとなった自身いて、恨むべきなはず不思議だった。
「ロボット側のまだ人社会へ完全に根の張っていない」
「学校いっさいロボット尽くめだったけど」
「この一年、あの高校よってあらゆる賞そうなめされ、他校遠く及んでいないんです」
「八百長とか」
「いえ、恐らく他校なかロボットいないため、圧勝されたのでしょう」
「ずるだなぁ」
「裏の返せば、学校ひとつ、警察に数人いるか、まだそれ程しか力伸ばせていない」
「ならば、なおさら逃げよう」
「先伸ばしたところ、いつか袋小路に遭いましょう。伏兵の人に混じって幾らいるやら」
「そんなぁ」
ぐぅうう、腹のよく響く。
アカロ、恥ずかしく腹抱えた。話ほとんど分からないうえ、こうも空腹だとなぁ。
それ救うよう、湯気立つどんぶり差し出される。
カウンター越し、婆さんからであって、怪しい様相こそ変わりない。
けれど登る優しい湯気で鼻孔くすぐられ、
「食べていいんですか?」
とアカロ問えば、割り箸まで手渡してくれる。
さっきまで泡だくさんしていた鍋の、もはや静まり返っていた。
勢い込んで箸割って、左右ふぞろい持ち難いもアカロ構ってられない。
溢れそな唾飲む。
いただきます。
麺類よで、どんぶりなか挟んで滝なりに引き上げる。
その滝のさまに食べようとしたところ、戸惑う。
麺の太かったり、細かったり、蕎麦だったり、饂飩だったり、拉麺だったり。
汁こそ豚骨らしく、だのに命であろう麺たら多種に富んで、絡まりあっている。
「なにこれ?」
「うちただひとつの商品であり、名物、麺だくさんです」
オリンからであった。
「食べれるの?」
「私のロボットであり、動力なら光合成へ似ています。ゆえ食のいらなくわかりません」
空腹せめぎ合ってくれば、持ち上げた麺ゆきさき決めかね宙ぶらりん。
「うちの客さん、食べていますので品質悪くありません。価格も三百と安い」
安いので、腹足しに食ってるだけでないのか。
内心疑って、しかし婆さんさせる催促めいた見つめにやられる。
空いた腹くくって泣く泣け、ずるずずずずぅ。
よく噛む。
喉通せ、
「美味い!」
疑い晴れ、すればすきっ腹へ忠実し箸の急いだ。
直ぐどんぶり汁まで干され空っぽ。底で鳳凰図あざやか。
婆さん水一杯よこしてくる。
アカロは心から受け取って、一気やってぱぁあああ! とごちそうさま。
詰まった腹の太鼓にし、食った、食った。
「もうすこぶる美味い豚骨ラーメンだった」
感想したらば、婆さんもう一杯だしてくる。湯気立つうえ割り箸の橋かかっている。
なんだろう、もう食えない。受け取ってアカロの婆さんほう窺う。
婆さん顎で、引き戸の示した。
「そうだ。鐃丸にもあげよう」
わかったアカロ持っていってやろうとし、オリンの制した。
「ドランカァドは食事のしないそうです」
「そうなの?」
「体内あり余るだけエネルギーあるようで、恐らく空腹もないでしょう」
「けど美味しければよろしい」
「そういうものですか?」
「食べてみりゃいいじゃん」
「さきも言ったよう私とて……」
無愛想して婆さん、言い訳がましい彼女まえもう一杯出し、
「良い契機だ。あっしより感謝と思って食ってくんな」
「
「あっし、話苦手なんだよ。まぁ食いな」
ロボらしきよくわからなそな傾ぎするも、箸割って手の合わせ啜った。
「美味いとは、こういうものですか?」
婆さんの音予さん、もうだんまり戻ってオリンへ背の向け皿洗いのやる。
その曲がった背に、オリン問い目やってパチパチ瞬く。
こうしたやり取りへ苦笑のあって、アカロの温いどんぶり持ち短い出前へ。
外出るなり、小路の壁もたれる寛一あって剣呑で見られた。
泣き虫こう強力に横目されるだけ涙したくなって、なけなし勇敢ふるう。
「これ、置いとく」
置かれた麺だくさんのどんぶり見て、アカロへ睨み戻して、
「いらねぇ」
「腹へんないんだって?」
「だったらなんだよ」
「あのお婆さん、音予さんの作ってくれたんだ。せっかくだし」
「知るか」
アカロこれから堰の切れそになって、鼻のすんすん。
寛一あざわらう。
「泣けば思うままどうでもなるってか?」
だがなんの気まぐれだろ、いいぜぇ、とした。
「その食うもん、置いとけ!」
「ほんとう!」
「食うかはしらねぇ」
堰の踏ん張って泣かなかった。
どころか早ばや表情の入れ替れ、にっこり嬉々とし足もと置いておく。
「ほんじゃ、鐃丸あんまり強がらずなかで寝なよ」
「俺の寝やしねぇ」
はいはい、そですか。適当ながせ満足いってアカロひきかえった。
古びた灯りのいまだと懐かしさのあって、闇ただひとつある温い焚火のそれであった。
地獄鳩の奥で、風呂のあって湯気登る白さおかげか、浴槽思うよか小奇麗であった。
アカロのひとしきり身体の流水で洗う。
湯舟へ熱さ注意しつつ足さきからゆたり入ってゆく。
浸かりきってしまえば、疲れ尽くめの身体いっせいだらしなくなって、ふはぁ沈む。
脱衣場に誰か足音のし、声でオリンとわかる。
「久地美さん、着替えの置いておきます」
「ありがとうね」
風呂らしい反響で聞かされる自身声たら、いかにも緩んでいる。
それから衣擦れる音のあって、オリンの入ってくる。
裸でつくづく見れば確かに精巧できすぎで、染みひとつない肌であった。
肌当たった湯気の白露らしくなって彼女その肌滑って大粒。
「ロボットって、水気だいじょうぶ?」
「ここの人類とはかけ離れた技術の産物ですので。といえこの星にも防水加工などの……」
「そう勉強なったからいいよ」
「わかりました。あと背中流しますよ」
「え? 脱いだくせ、そのため入ってきたの? 風呂は?」
「洗浄済ませてあります。服の濡れて困るためこうしています」
はぁ。とよくわからない受け答えに思う。
「ともかくじゃあ、お言葉あまえて」
アカロの湯船出て、風呂イス座した。
前の簡単に自身で泡立てたのち、後ろで手拭い受け取るオリンの気配だった。
ほどよい力に背の押されて、のんびり擦られる。
「久地美さん」
白く温もるなか、オリンのどこか重たく言う。
「実はひとつお伝えすべきことが」
「なに?」
「あの学校で、時間ないなか私のろくに不正ついて調べのできませんでした」
「まぁ、すぐ吹っ飛んじゃったし、警察もあった」
「またさき逃げてしまったこと、こう巻き込んでしまったこと謝りたく」
背中加わる力も謝るに強くなった。
だからアカロなるべく穏やかに、
「まぁ、やだけど。どうせオリンのこなきゃ、始末されていたかもだから謝らないで」
「しかし……」
「みんな失くしたのは、間違いなく私の繋ぎとめる努力なかったから」
「割り切れるものですか?」
「昔っからなんも出来ない駄目な奴だ。だから出来ないで当たり前なのかもね。だから端っからなんもない。そんなん慣れちゃったよ。だいじょうぶ」
慰めに言っていて自分の落ちこませてしまい、目元拭う。
小さく丸くなった背中与えてくる力もなくなっていた。
「これの気休めなるか知れませんが」
オリンこんど優しさ含んで言う。
「あの学校で、唯一あった収穫として、あなた話しあった友人の録音、あれ作り物でした」
思わず振り返れば、オリンただ真っ向から目合わせて勇気づけるつもり。
「おそらくみんな分つくって、退学のより効率化させたい思惑だったんでしょう」
もしく、作ったロボットの底いじわるさやも。
としたうえで、
「とにかく人だと聞きわけ出来ませんが、私の耳よれば間違いない偽物……おや?」
アカロともかく彼女へ抱きつけ、その肩越しうぅう、うぅ泣いた。
浴室の熱さか、ロボットと思えぬほど人肌な温みであった。
「あの、私の洗浄終わって、また泡のつくので離れて……」
言われきるまえ離し、アカロよかった、よかったと泣き笑った。
その反響われながら快活で耳残った。
失くしたって、私まだきっと在る。嘘か、ほんとうかもきっと大事じゃない。
そう思い、いきなり笑うから心配げなオリン向かって、
「ありがとう。失くしたかどうかなんて、私が勝手で決めれるんだ!」
そうですか。とオリンふしぎそうまん丸い目だった。
こののち風呂上り、店の二階の廊下を挟み、二部屋。ひとつ音予さんものだった。
もういっぽうオリンので、テレビだけ畳じべた一台置いた質素だった。
そこ敷布団やってアカロ寝付く。
オリンどうやら機械らしく、部屋隅に突っ立ち省エネらしく俯いた。
遅れあそばせ、長き一日終い。
部屋の明るさ消し、夜同化して、おやすみ。
窓から朝の差し込み、気だるい目の擦ってアカロ階下へ。
ずうずずずず。
と賑やかであった。
店うち満席。
麺だくさん会社員らしき男どもよって忙しなく啜られていた。
食べつくせば、硬貨の三枚置き去った。置き去ったあと新顔来る。
繁盛だと、厨房みやれば割烹着したオリンしゃんと湯切りしていた。
この姿で目の覚め、そば休憩に座っていたよう音予さん、つたなくも喋った。
「あの子、いい子だよ。朝手伝ってくれんだ」
「あ、泊めていただいて、どうも」
「いいさ。人のいた方が」
「お婆さんのオリン雇った?」
「娘もなく、夫もはやいない。あっしにゃちょうどよかったんだ。気立てもいい」
「はぁ……でもまったく他人で」
「年の取れば戦べくは寂しさだけさ。勝てるならなんだていい。なんだってする」
「なんだかわかる気もします」
「あんさん若いだろ、もっと独立していな」
綺麗ごとでいな。
よっこらせ、婆さん壁ついて立って曲がった腰伸ばせ、厨房でオリンと代わる。
手慣れた手つき、あるべきところあるべき姿で朗らかな忙しなさへ代わった。
さて、数時間して大方の客さんそそくさ出勤していって、がらん。
で、割烹外したオリンから、ロボットの心当たりあると言われる。
さっそく二階もどれ、干してあったもうない学校の制服だらしなく着た。
多少なまがわき冷たいも、着れんことない。
「ついて来るんですか?」
「頼りっぱなしも、よくない。それに私だってロボット釣る餌くらいなれない?」
こう言えば、オリンあまり妥当性おもえないか、是非なくただ、
「わかりませんがいいでしょう。どちらせよ泣きつかれそうですので」
と、無表情で意図なくも嫌味だった。
「それもう私ことわかってんだ」
とアカロにっかりした。
引き戸開け、暖簾潜る。
寛一きのう同じくあって、ただ足もとどんぶり底のあざやか鳳凰図だった。
箸のこのうえ粗い十字に渡っている。
「うまかった?」
「捨てたから知らねぇ」
「嘘こけ、どこ捨てたの?」
「知らねぇ」
そう舌打ちあと、
「とっと殴る場へ案内しやがれ」
「よく行くってわかったね」
「ドランカァドの五感鋭さでしょう」
「ちげぇ、俺の殴りたいよう殴るため、この世はあんだよ」
「なんそれ」
ともかく三人こう言い合いつつ、陽の目ゆく。
「あ、そうだ。私のことふたりとも、アカロって呼んでよ」
「いいですよ。アカロと直します」
「なんだそりゃ、嘘ついてんじゃねぇ」
「そっちの嘘よか、ましってことで」
ロボット、ドランカァド、元女子高生でやって参ったビル街。
みあげれば太陽いたるところ映っている。
高層で窓硝子だらけ、晴天の狭苦しい。
偽な恒星たくさん環視もと、社会人ら大通り路上転がって日干しであった。
別段に命弱っていないも、どうも心的にやられて窶れて背広も褪せてみえる。
こんな干からびた人ら、なぜ転がるだろ。
「なんでもここら一帯、急から、企業買収と大量な解雇起こっているそうです」
オリン澄まし言う。
なんとなし察せったアカロの目配せよそよそしい。
「もしやして、それロボットで……」
「えぇ恐らく。ただどこいるか知れません」
寛一ここまで聞くなり、別な方へ爪先変えて歩む。
「どこ行くの?」
「こんな薄気味わりぃ竹林だ。ひと連れじゃぁうざってぇ」
「別れて探すの? でもあんたいなくって見つかったらどうすんの? 警察で取られて携帯ないし」
「大きく呼べば駆けつけてやらぁ」
「そんなぁ」
傍ら心強さ片方失え、いつもに同じ不憫なみだ目だった。
「ではアカロ、またあとで」
もう片方の味方とて、寛一ほう賛同で別方向。
「えぇえええ、なんで」
「ドランカァドの力もってすれば、きっとこのビル街ある大声なら聞こえるでしょう。また固まったところ非効率です」
「うぅう、ロボットだなぁ」
こうして仕方なくもアカロひとりぶらり。
「なにより私、あのふたり違ってロボット見分けつかんし」
かっこつけたながら足手まとい。
もはや解雇あった人々混じり、うずくまって泣く。
太陽の、はやくぐんぐん登る気のあった。
「どうかしたのか。まさか解雇くらったんじゃないだろ」
声され顔上げれば、狐よでも美しい顔の女だった。
後ろ結わえた黒髪、切れ長い瞳、スーツすらり通って、仕草ひとつひとつめりはりし、また美しさだった。
しなやかそでほんとう狐っぽい。
思ったうえでアカロ、こういうの仕事できそうな気風だと思う。
しかし狐女の左肩にてゴルフバッグ負って、似合っていない。
「あぁ、これか仕事道具だ」
「はぁ」
疑わしく見上げていれば、
「実は仕事さき向かう道へ迷ってな」
怪しく話頭の変わった。
もしやロボットでは? オリンよう美人であり、どこか冷静。
いくら思考ついて自信ないアカロいえ、疑って怖くなり目の熱くなった。
ただし次には深読みし、でも私すら怪しい思うよな行動取るかな。
こう自ら考えへすら疑問しだし、余計泣けそう。
で、この黙考を耐え兼ね、狐女からまじめで深く頭下げられる。
「いや、ここら知らないなら、すまない」
ただここ解雇者で溢れ自棄な奴もいる気よつけよ。と加えて注意だった。
ヒールの高く靴音さし、ツカツカ去っていった。
アカロなんだったんだろ、それよかどうしようで俯く。
しばらくまた、ぼぉうとビル影の僅かずつ傾いているだろうさま眺め、悲しくしていた。
またヒールの音ツカ、ツカ。
ゴルフバッグ負ったの足早い。
また数分して、ツカ、ツカ。
影、素早い。
また、ツカツカツカツカ。
もう疾駆であった。
この結末に、アカロまえ、ヒールに捻らされずっこけた。
しかし狐の落ちついた面まま、
「隣りで座ってもよろしいか?」
聞かれて、アカロおかしく破裂みたい一笑し、どうぞ隣り譲った。
抜けた人だと印象だった。
「お前も迷子か?」
「まぁ、人探しです」
「そうか、私の場所探しだ」
「ゴルフ関する仕事なんですか」
「まぁ、そうだな」
「仕事場わからなく、相談できる人だれぞいない?」
「いない。天涯孤独なうえ落ちこぼれでな」
「友達もない?」
「それの作りに来たともいえるかな」
すこし女の陰る。
「要領得ないなぁ」
「そちらこそいないのか?」
陰った取りかえし、抑揚よく聞かれる。
「どうだろう。味方ならいるかもね」
「いいじゃないか、いないものから言わせてもらう、きっと大切とせよ」
「うん」
気安くなって、ふたり名乗って、
「私、赤闢久地美で、アカロっていいます」
「うむ、また縁のあるやも。私は
アヤカそうして伸びついで立ちあがって、よしと頬叩く。
「励ましもあった。ここからまた探してみるぞ」
「頑張ってね」
「アカロどうするんだ?」
「私の待つかな。果報寝て待て」
そうか、しつこく待ちたまえ、では。さいごそう流麗な笑み残し高い音で去りゆく。
不思議でいい人だったと所感し、アカロのまた、どうしようの途方暮れ。
それの長く続かない。
なにやら遠く、影のあった。
隊列したいくつもの人影であって、大通り幅いっぱい並ぶ。
近づくつれより異様の増せる。
行進の人影ら構成まったく同じ姿である。
黒の皺ない背広した女たちで、どれも狂いなく特徴ない中性な若い顔立ちであった。
この女ら、アカロや、ほか慄く解雇者まえ並び停止。
そして平坦な声調より一斉発す。
「我々、ワーキングトンプソン社のロボット、製造名エンプティエッグです」
まずこう自称し、
「あなたたちのもはや労働者にありません。速やかこの区画より退場願います」
と解雇者ら羽交い締め、振りほどこう人しろ無理押さえつけ、どこかへ。
アカロとて例外になく、嫌で泣きわめく。
「寛一、オリン!」
と滅多叫ぶ。
悲痛さへ感じるところなくエンプティエッグ運びさらおうとする。
すると隕石よなの降って、この隕石たるもので女ども吹き飛ぶ。
アカロ尻もちに済んで、土煙むせて、塵に目の痛い。
それでも視界凝らして、やっと隕石こそ真っ先呼べた寛一と気づける。
「ほんとう聞こえるんだ」
届いたこと嬉しくなって込み上げてくる。
「いつ会ったともテメェ、泣き虫だな」
「だって怖いんだ!」
自力立って、スカート砂ぼこり払う。
さて、何千、何万果てしもなく大通り敷かれた女の黒山なか、ぽっかり同心円。
この中心ふたりいう図だった。
寛一さき、落下撃で蹴散らしたエンプティエッグの一部見やる。
アカロも見て、目の瞠る。
割れたすっからかんの壺だった。
表情もなく顔半分をイカズチ模様ひび入って陥没し、陥没奥でなにもなく空洞。
ここら囲うほかのすら、こんな身のない輩なんだろか。
アカロさした疑義へか、彼女ら、ふたたび一斉揃えて広告よう発声だった。
「エンプティエッグは、あなたの自由な発想から機能付け替え可能です」
「気の乗らねぇ合唱がぁ、黙んねぇか!」
寛一の耳ほじって小うるさそう。
怒号効かず、広告合唱つづく。
ただし次、二手別れ交互言い合っていく。
「我々は、こんご多く付属品の発売し、これにより任意で必要な人材となります」
「また都合悪くなれば、破棄の易く腐った
「我々は従来ロボットへあった。人型なるほど心模倣、あるい心持つ事象」
「シック不可分離理。いわゆるシック論の対策の施してあります」
「また使用者より思い入れの起こり、破棄の困難化」
「いわゆるドラッド症の発生ついて軽減するよう改良たゆみません」
「これらの点こそ社会ついて、我らの優位性と考えます」
「経営者の皆さま、社会の生ける皆さまどうぞ使い捨ててください」
「これこそあなた方望んだもの」
「薄情でよく」
「口応えしず」
「煩わせず」
「なにもかもあなたへ尽くし」
「後腐れない」
「劣等で特異性ない人材の雇うよか、よほど社会効率の良いと比較します」
「私どもこそ金の卵」
「どうぞお買い求めください。この放送あらゆる世界向け発信しています。問い合わせは……」
「あああああ、うっせぇな! 金めっきの
合唱打ち切らして、寛一の風塵すら巻き起こせる咆哮。
「空の卵なんざぁ、束んなってもせいぜい憂さ晴らし割られるくらいな役割なんだよ」
そうあかしたらぁ! 黙って見てろ!
偽太陽ら見守るなか、啖呵切って、この波へ真っ向挑みかかる。
対しアカロ、四方八方、空虚な視線うち臆病に縮むんだった。
ドランカァドおける拳威力や、怪力よる突撃のあった。
されど数百の空いた穴塞ぐよう、また数百の彼女ら数よって埋めた。
気遣いだろうか、アカロどうか怯えても守られている。
ただこれゆえあまり無力思え、それも嫌でアカロの泣けた。
こう切りない奮闘強いられ、寛一それでも疲れ知らず。
むしろ怒っていくらか辺りビルの沈め、この倒壊で卵下敷きなって脆く破片だった。
そう凌いでいるうち、遠間、カッ……カッとあった。
期待もってアカロの見回せる。
音の根っこ見つけた。
エンプティエッグらの頭踏みつぶしつつ、これら飛び石で渡るよう跳ねてくるオリンだった。
そうしオリンようやくアカロもと来る。
来るなり、その無表情へ泣きつく抱擁求むも、場合でないと手に制される。
「どうやら、まったく問題ない」
「いや、寛一ずっと戦いだよ」
「勝算のあります」
言うなり、オリンすこし離れたとこビルだった瓦礫蹴って、たまごたち飛散さす暴力魔に声張る。
夕食に子供呼ぶ母親めいて、気軽かった。
「寛一さん、どうやら彼女らのこの街まるごと生産場としているようです」
聞こえたか、寛一のふたり一見。
「いくつかビルうち生産炉の見つけました。人らこのため解雇、追いだしされたようです」
横合いから飛び掛かる殻の、寛一たら片手間から砕いた。
「生産炉とてそう強度ない」
また山よう塊って奇襲あるのを、蹴りひとつで弾き返す。
「また見たところビル街より人の追いだしいっさい完了しています」
刹那、よく不服表す寛一にして珍しくニッとしていたよう、アカロ見受けた。
すると瞬くうち、ふたり前まで寛一のある。
で、ふたりとも抱えてしまう。
抱えると高く、風の痛く降りかかるほど思い切って飛ぶ。
すぐにも中空、青いなか。
真下、街のちっぽけ灰色くごみごみしていた。
寛一ここでふたり放してしまう。
それから空気の蹴って、ひと足さき超音速に街まで落ちゆく。
空の冷たさで、涙も氷そうなさなか。
アカロ、ドランカァド落ちていった街のその墜落の衝撃波より掻き消えるさま見た。
衝撃よる一陣この高度まで登る。
耳のおかしくなって眩暈。
そんなアカロのオリンは捕まえて、守るよう抱いて、大丈夫。
こう優しかった。
目算ざっと直径、一万メートルクレーター。
なんもかも、まっさらなって絶景かな。
絶景まんなか、しがみつき合うふたり急激降る。
ありさまの爆心たる寛一よって簡単受け止められた。
立ってみれば、なにもない空っぽな地で、寂しさの早くあった。
アカロ腰抜かして、息抜き。
「やはりドランカァド、人の味方です」
オリンにこう覗かれ、寛一もう不機嫌だった。
「殴って気分よさそうなもん、殴っただけだよ」
「そうですか」
「だが、もとからなんもねぇもん殴ったところ、やっぱなんもねぇ」
ここで横合いゆたりした拍手の入って、パッ、パッ。
三人むきなおれば、黒のシルクハットに洒落た黒基調に赤差し色のジャケット、ズボンで合した青年だった。
まだ若さの抜けきらず旺盛そうながら白く並びいい歯のニッカとし、無邪気。
「すばらしいね! その力強さ、奔放さ」
「テメェ、ロボットだな」
「お、いいねぇ。ドランカァド、より興味深」
好奇に輝く赤目の若者に、三人めいめい警戒色の濃くしてゆく。
「僕はハックカック。ハッカクって呼んでよ。愛称って人らしくっていいから」
ついで懐から、名刺らしいの取り出して指に弾く。
弾いたの寛一まで届く。
「エンプティエッグ機構作った、ワーキングトンプソン社、開発担当だったりする」
届いたもの読まず、砂なるまで握りつぶせ風流した。
「あれま、名刺文化として不作法あったかな。人ぽいって難しや」
「ママごと他所やれ、なんの用だぁ。殴るぞ」
「おっかな」
帽子ツバすこし人差し指から上げて、不敵笑い洒落ていた。
「でも一応さ、君ら始末きたって感じだね。不本意だけど。こう事業ぱぁっとされてはねぇ」
この言動で癇に来ただろうか、寛一の拳とこ力握り込んでいる。
「なら黙って殴られんだなぁ」
「そうだなじゃあ、一旦さこれ見てちょん」
帽子取れば、当世風で固めた髪型のまた洒落ていた。
こういうあっけらかん、苦手で怖い。
アカロなんとなし嫌悪に半歩下がった。
で、ひっくり返った帽子うちから、宙へ半透明なる映像のできあがる。
映像、見覚えあって、特にオリンみたなり、はぁ……と震え声して膝から崩れた。
そこ映るもの、間違いなく地獄鳩なか。
普段だろう音予さん黙々客へ麺だくさん振る舞っている。
いたずら笑み、弧の不気味。
「そこロボットちゃん、賢しく立ち回ったつもり残念でね。僕の頭脳かかれバレバレ。まぁ今朝わかったばかりなんだけど」
ついに諸手ついて、オリンの表情こそなく、しかし音予さん目で離さず追う。
さらにズボンポケットより、携帯の取り出し、
「どう? あえて外部通信機器、ありのまま大事とす人っぽいでしょ」
自慢げ前置き、携帯いじり、よし。
「あと一回きり指動かせ、この店こっぱみじん。どうだろ、言うこと聞いてもらえまっか?」
「邪道やってんじゃねぇ」
「憤りって直情かつ純粋そでいいやね。ドランカァド」
アカロも歯ぎしりさし、俯き悔し涙なりかけ。
「お願いします。その人なら関係ありません」
オリン、鈴よな声で映像向こうのハッカクまで頼む。
「ただなにもなく寂しくならないため、美味しいものの作っているだけなんです」
抑揚こそないながらこうアカロの心悲しくさせる懇願だった。
されど同類とったらば、ほぉんと茶化す。
「僕だって検体ひとつ失うの惜しい。といえ、まだ八十億あるし」
「そこをどうか」
「それって君の使命だから? でも君って人類ためだろ、彼女ためでないはず。またどっちらかって僕も使命なんてどうだって……」
「お願いします」
あまり言われて、ハッカク携帯の角の顎当て呑気考え、ひらめき拍子ポン。
「わかった。姿勢もよろしいし、そこから頭下げて土下座ってやつで頼み込んでよ」
真から名案といった明るさだった。
「あれって物理上なんら効果ないのに、心情で刺さるそうだから味わってみたい」
どうかな。と心底から好奇心そうだった。
「まぁ、ロボットだから真似ごとで微妙かな」
「ゲスがぁ」
殴るに堪えかねる寛一であった。
途端、硬質と硬質ぶつかり合う音で、殴るのいさめられる。
オリン、額の地へ壊れそなまで幾らも叩きつけ、
「お願いします。お願いします。この通りです。どうか、どうかどうか彼女だけは」
やはり無情そうながら、どこか力強く、なにより感情めいている。
ただハッカク疎いか気づかない。
更地なかぽつねん悲痛から反復されよう土下座。
このまわりあらゆる角度から観測し、機械の人、落胆。
「血も出なきゃ、定型文の音読で、なんもこない。やっぱ僕も君もしょせん人の真似ごと」
もういい、僕も君も人被れの
とあっさり見切りつける。帽子被り直す。
さて携帯へと親指触れかかって、
「お願いします! お願いします! どうかどうかどうか! 助けてください」
こう大きく荒げて、アカロ、彼の足もとにて土下座した。
血だって垂れるであろうだけ、頭打ち付ける。
打ったところ、じわっと熱のし赤くしずく生ぜた。
それから涙、鼻水汚く顔じゅう垂れ流して、人被れ睨み上げ、
「これは私じゃない! 私やってみたオリンの真似事だ! 馬鹿にすんじゃないよ!」
アカロ……と土下座よしたオリンこっそり音の弱い鈴よう呟く。
凄味から不意打ち食らって、ハッカクしばし表情なかった。
にわか抱腹し大口笑う。
アハ、ハハハハハあはははッははアハハ。
あと前のめり、食い入るよう睨んで変わらないアカロが様、つくづく観察やる。
そして彼つぅうひとすじ垂れる少女額の血を指に軽く拭って、
「いい! 美しい、これぞ美で、これぞ愛! 真に来た! よし手を退いてあげよう!」
意想外で、アカロきょとん睨み消えた。
ハッカク片膝つき、アカロの手の甲とって接吻あたえ、裏返して掌中へ携帯の渡した。
「美しいあなた! 僕の心奪い熱の与えた君よ。願わくばその貴い唇より名を」
「え……、アカロだけど」
大げさ劇的で、情熱な口ぶり。
「アカロさん、僕いまきっと恋の知ったのです! 人被れ心へ真なる気持ち教授いただき、ありがとう」
なおちゃんと店の仕掛け解除しておりますので、愁いせず。と言われ、はぁ生返事。
劇のまだ閉幕しず、更地うえ大っぴらな空に腕広げ、
「いやぁ人の心象の表しよう、またそれ感じれた僕なんて清々しく空の晴れただろう!」
そうしたあと、アカロほう慈しむ眼差しのし、
「どうでしょう! このまま僕と誓いの口づけ」
「嫌です」
自身でも驚く冷淡と素早さに断わった。
だがへこたれない。
「よろしい、愛は困難よって育まれる!」
「さよですか」
ハッカク除く三人もう傾頭しきり、とてつもない寒暖差だった。
そのうち終幕で、帽子取って恭しくも大それた一礼深い。
「ではまたお会いしましょう。こんど喜ばしい贈り物でもお持ち致しましょう」
のち軽快跳ねて、どこへやら去ってゆく。
跳ねる背に寛一の、
「なんだありゃ」
肩透かしなって、殴る気分も散ったよう。
すぐ渡された携帯のオリン渡せ、確かめればどうも発言嘘ない。
地獄鳩の平和らしい。
よかった。
とアカロ言おうとし、オリンより強く苦しむまで抱きつかれて、
「ありがとう」
の言葉もらった。
たといロボットとして、その抱擁どうも人肌な温もり思えてならないんだった。
寂しい景色といえ、むしろさっぱりして気分ぴったり。
ある薄暗で灯りも乏しきどこか長い廊下。
黒いシルクハット押さえつつ、足取りの弾む青年ロボットだった。
その行く手に大男阻むよう。
これ認めすぐさまなにも弾まなくなった。
この大男、白い胴着のまとって、筋骨隆とし顔掘深く厳めしい。
「おやまぁ。デルセント、喜ばしい日だ。僕らとて愛の知れる兆しだよ」
「ハットカック、貴様うらぎってよくのうのう帰ってこれる」
「君ってほんに人じゃないねぇ。下らないよ。それだから本筋じゃあ……」
「黙るのだ!」
顔ほどもある拳よって、ハッカクのほっそりした首根っこ握られる。
見合うお互い表情、無と気取った笑み。
「まったく短気でざっぱな感情だよ。彼女と大違い。動物だ」
「例の装置なら完成している。もはや隠れ蓑の社も、貴様もいらんのだ」
「ならワーキングトンプソン社解体だね。じゃあ君、元社長だ」
「許し乞えば、恋とやら直してやろう。その代わし貴様もっていた奴ら拠点の情報出せ」
「ごめんだね。自分でやるよ、そんぐらい。恋の愛へと治療する、どう臭い詩ぽい」
「戯言め。どうせこの奥ある装置壊す腹づもりだったろう」
「だったらなにさ。そもそも人類みな飼うため僕の作ったんであって」
「否、あれぞ私こと大願みちびくものだ」
くっきりした眉間皺みつめハッカクは話噛み合わなくげんなり。
「じゃあ、さっさ灰にしてくんな」
「潔いな」
「ロボット流にいって、分析よれば勝算無しなんで」
「よかろう。ならば貴様好く人間式で、辞世の句とやらやってみよ」
「いいねぇ。寂しくって乙だね」
一拍考える間、それから
「恋のなくならない、愛なら不滅、たとい僕の消えたとも、思いのいつまでも君みつめて……」
「くどい」
打ち切られ、殴られた人なれたや知れぬなにか、帽子きり遺留し、あと灰であった。
「人被れた
デルセントこう見返ることなし、暗くなる廊下渡った。
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