ド乱かァ奴
外レ籤あみだ
前編
第一乱 誰にでも在る人
黒いなか、扉が開く。光線さした。
黒拭われ、明るみ、人のシルエットの起き上がる。
「どうも長かった。約一万六千年か」
起き上がった誰かの、凛々しく力溢れるも冷徹そうだった。
「人は変わった。さて、同類も目覚めた。予定通り」
シルエット、光向け歩む。永くかかったなんの辛さも思わせない。
「よって我々は使命を始動する」
こう神々しさへ呑み込まれた人影あと黒いなか、もうひとつ影。
さきの影違い風鈴よな一抹さびしい優しい声で、
「使命に従います。待っていてください、ドランカァド」
校長室へ呼び出され、
なんて金のかかった扉だろう。黒くって漆っぽい。洒落てなく、成金的。
そういう扉重たく開ければ表彰状ずらり、居並ぶトロフィーどれしろ金ぴか。
こういうのに緊張覚え、入るなり委縮。
委縮していたら、賓客の机、ソファーよかさらに部屋奥で執務机まえ、革張り椅子にふんぞる校長が、黒髪きっかり七三、無感動だった。
普段からむつかしい顔するうえ、背後ある窓の逆光に陰っておっかなく、なお委縮。
「ノックはないのかな。それだと社会で生きてゆけまい」
忘れていた。しまったで、久地美あたふた、涙込み上げて顔熱い。
「あぁ、あ。やり直します」
「構わない。それより……」
表情からなんら読み取れない。
造り物めいた視線の久地美を上から下へ痛い指摘含め眺めていく。
「撥ね放題な頭髪、陽気でか緩むネクタイ……」
「すいません」
「すみませんだ。あと制服の上着しず、カッターシャツは袖まくり、裾だし」
「すみません」
言われたこと整えるまえ、底なし空洞な瞳たら次に下っていく。
「スカートなら膝頭晒して短い」
さらに下って、
「長靴下の片方はよく履けて伸びきっている。ただもう一方へしゃげている」
再び頭まで一気登ってくる。
「なにより落ちつきなく打たれ弱く、騒ぐ視線」
目合った久地美こと虚しく覗き総括して、
「どこからとっても頗る怠けているね。君」
こう言って、溜息もない。
「まぁ、君のような生徒には縁遠い私の場所だし」
「え? ええ……」
嫌味すら淡々とあって、より凄まれている印象のした。
息苦しい。久地美もうふたたび瞬きするなら、涙零れそである。
「顔の赤いけど、病かな」
「い、いえ。えっと、緊張で」
「そうか得意の仮病でなくか?」
「あの……ぐへぇ」
我慢ならなく、うわずった。
「泣くのは勝手だね。いまのうち泣きつかれてくれ、このあとの手続きに邪魔だから」
「あの……ううう、いきなり呼んでなんなんですか?」
校長あらたまるまでもなく、やはり無で、
「君、今日限り、退学だよ」
「へえ?」
涙むしろ引っ込め血の気まで退く。
青くなって久地美わめく。執務机を諸手たたく。もはや緊張振りきれて、詰め寄った。
「なんでですか! 思っている通り私だめです! 仮病で休んだり、成績も崖っぷち、でも単位だって一応足りて、すれすれどうにか三年生に……」
「一年前よりわが校のやりようは変わった」
久地美へ釘する校長、なんら訴えの逼迫さに効いていない。
「成績の良い生徒だけ残そうということだよ。競技系にも強くなったので、校風をより確固とするため、そういう細かい生徒の整理も行う」
「横暴です! まえまで普通校で、一年たらず進学校にひっくり返るなんて!」
「君は学校を仲良しこよしでよろしいと踏んできているな」
「だって、ゆ、友人の輪だって高校の……」
「勉強は学生の本分であり、これへついてこれないならば学校へ居る意味とはなにかな」
「だから友達の……」
「君に幾人か友のいるだろ」
さきより、多く話頭を挫かれ、しかしこの静か重たい語気へ黙らさられてしまう。
泣きたくなってしまう。
校長ようやく動き、机の引き出しより幾枚か資料取り出し、机上へ撒いた。
生徒らの資料らしい。
数人よく知っている顔の写真あって、この顔と笑ってした昨日の話題まで蘇ってきた。
それ見くだせ、校長あっさり、
「この子らは君同様に退学だよ」
「へ?」
威勢まったく失せ、きょとん丸い瞳。
「類は友呼ぶ。大方の君の友人とおぼしきは処分対象だ。あと……」
おもむろ皺なくパリッとした紺の上着の懐から、録音機だし、再生する。
聞こえてくるの蘇った昨日の声で、しかし性質うって変わってとても荒んでいた。
『そうだ! アカロ! 赤闢久地美で、アカロって愛称の子いて、私の退学なら、あの子もって思うんですけど。ぐずだし、馬鹿だし、泣けばなにもかもしてくれるって思ってる。私の手伝ってやっと学校にいるような子ですよ。
なんであの子より、私の方がさきなんですか? てきとうでも納得いかない! 低いなりにも、低い意地のあります。あの子からお願いします』
再生終了。それから校長のもはや冷え切った口調。
「さて、友人の輪、友達、それへ登校する意味を求むるのだね?」
久地美ないしアカロたら膝より折れて、ぼぅとなってしまう。頬涙だらだら流れて、気にならない。
その崩壊ざま一見もしず、校長また偉げ椅子もたれかかって一言。
「で、君のわが校へ通う理はあろうかな」
静かで長閑、外より姿ない烏かぁあと響かしてくる。
夢のよう黄金杯、賞状の金字照りかえって煌びやか。
こういう部屋なかで、アカロは生もの詰まった半透明なゴミ袋よう貧しくなった。
昼ひなた温いうち、悲しく蒲公英に所々みあげられる正門を出る。校長室にて学生証の置いてきて、教室まで戻れなくふらり。
学生寮、もはや荷物まで追い出されてあった。
ごみ置き場おぼえある品で満載だった。捨てられて新しいのに、ずいぶん古く思った。
またふらふら。
ぶらり、ふらり。
ドがぁ。
ぶつかって電柱の硬くって痛い。痛いので、また泣きたくなった。
熱のせり上がって、路上かまわず泣きじゃくってしまう。
「ああああああああああ! なんで、どうして!」
やだやだやだ、と住宅街の路面ねころび、四肢ばたつかせる。
癇癪した子供なそれ。行き交う人、見たり見なかったり、逸らしたり怖くなったり。
ただ誰せよ危ういから用心し、救わない。
「やだやだやだ! なにが嫌って、分かんなくなったけど! やだやだやだ!」
はて、こう泣きべそしていれば、なんと救いあって、
「あの……灰かぶりの人」
涙させる霞払って、覗いてくる正体みやれば同い年だろう少女だった。
白い髪で、おかっぱ。瞳まん丸く、虹彩の緑。肌透徹し、滑らかであった。
ジタバタ止してアカロの見入っていれば、少女ほうとて無言貫く。
ようやく正気なって、天井たる彼女に問う。
「灰かぶり?」
「いまだって、その制服にも、黒い髪にも、汚れのつけていました」
言われて、たしかに。
アカロ立ちなおって、煤けたところはたく。
すると彼女姿うかがわれて、赤く愛らしい木彫り靴、黒いズボンだるく余っている。ジャケットの袖肘まである。この上着なか白い無地のシャツ。なんとも奇抜かつちぐはぐしていた。ただすらぁと優美に身体伸びているから、やたら似合いであった。
奇抜に綺麗で、少なく気圧されながらも土まじりの涙拭う。
「えぇと、なんですか?」
「あの人を探していまして」
「人?」
「えぇ、あなたのよう見境ない人で、もっと酷い」
今日どうしても嫌味な人へ出会う巡り合わせらしく、また泣きたくなる。
しかし、嫌味で泣くなら思うつぼ。
強がってそっぽ向け、意趣返し。
「そんな人そういますかね!」
「こう酔っ払いみたいな人で」
「酔っ払い? 私の未成年ですが! 酒なんてしりゃしない!」
「いえ、酒で酔ってるんでないんです」
「はぁ?」
少女、胸まえ手握り合わせ、祈るよう。
「まるで、そう自我に酔っている」
退学あと、とんでもなき夢見がち遭遇したようだった。
こんなのかまっている場合にない。
「知りませんので」
と断って離れる。すれば後ろから、足音。いかにもあの木彫りならばやりそな、カッ、カッいう軽快音、赤い足音。
恐ろしく振り向けば、やはり美少女だった。
アカロことよくよく眺め、瞬きない。
気の取り直し、また歩む。
またカッカッ。
早めれば、カッも早くなる。
いいかげん嫌で、怒って瞳うるませ再び振り返る。
「なんでついてくるの!」
「ついてゆきたいので」
「解せな!」
「似ているあなたついてゆけば、探し人も出会うやしれません。類は友呼ぶ」
「そのお言葉もう聞きたくない!」
「なぜ、泣きそうで怒って、悲しくなっていますか?」
「浮世離れだな! あんたの見ず知らず不審だから!」
「なるほど、私、オリンです。灰かぶりさん、よろしく」
「私もう被ってません!」
「ではお名前は?」
「教えるもんですかい!」
「愛称などでもよろしいでしょう。どうせ便宜なものです」
言われ、録音機の言いぶん思いだしてしまう。
思いだしたところより更に矢継ぎばや記憶の深入りせ、つい涙ぐすぐへだらしない。
「なぜ、そう脆くなって、どうしようもなくなるんですか?」
「ぐぅう、うるさい。私だって愛称のひとつくらいあったんだ!」
「もうないんですか?」
堰のきれる質疑だった。
心身へばって、体裁なく号泣かん高い。
あああああああああああぁあああぁああぁぁ!
「うぅぅうう、ない! なんもかんも、たった一日でなくなったんだ!」
「じゃあなぜ泣くのですか?」
「ぐう、ぐぇ、だって悲しい」
オリンよくわからなそう首の傾ぐ。
「悲しい感情はあるのだから、いいのでは?」
「うぇ……そんないくらあったところ負債だよ」
「ならば、泣いている暇のないでしょう」
言うなり、オリンたら淀みなく手の差し伸べて、
「負債の返しチャラとしましょう」
縋れるものは藁をも掴もう。
アカロ泣きながら掴めた藁たら、ひんやりして人の思えなかった。赤い頬すぅう伝う涙ほう余ほど温い。
夜でまばらな星よわく暗い。
人もだいぶ寝静まって、地上ある灯りまたひとつ消え、またひとつ失せ。
そんな時分で、正門飛び越え、ふたりこそこそあった。
先導オリンで、追ってアカロだった。
「で、なんで退学なった学校なんか来なくちゃならないの?」
肩身狭くし、怯えつアカロあらためてげんなり。
正門さき、もう花びら尽きかけな桜舞え、白くちらつけ脅かされる。
こうした風流な脅し構わなくオリンしゃんと裸足に歩む。鳴りものでやかましい赤い靴の手に提げて。
「伺った話からして、どう鑑みても奇妙であり、おかしいです。裏がありそうなので」
「いや、だとしてわざわざ学校なか潜まんでも。法律なりなんなりで」
「私の憶測よれば、ことはそれすら通用しないやも」
「心当たり有るの?」
「ともかく校長室しのびこみ、すこし調べるべきでしょう」
「なにを?」
「ところで、渋々なくせ、なぜ来ると? 私一人で済む話ですが」
話のずらされ、あげく痛いところ突かてしまえば不服ながら正直になった。
「いぃや、私のことだし申し訳ない心半分、もう半分、だれも信用ならないから」
「といいますと?」
「私は目の当たりしたことのみ、呑み込むって話よ」
するとオリン止まる。
アカロいきなりのこと、すこし叫びそうなって両手までやって塞ぐ。
もうすぐ校舎であり、オリンそこの見上げている。
なんだろと、その視線追う。
その校舎おける二階窓うち、暗いなかなにやら蠢いていること悟れた。
肩聳え、悪寒走る。
「と、当直でしょ」
縋りたく、知らないだろうオリンへそれでも聞く。
「当直なら灯りの持って歩いているでしょう。手ぶらであんな」
暗いながら、顎に手の添える所作から、彼女どうやら思案顔よう。
それから決定のあって、アカロに向けば、
「そこの桜の木の下で待っていてもらえますか?」
「え?」
「どうも……」
悪寒相まって早まって涙浮かぶ。オリン手に取り付く。
「やだ、やだ、怖らしい!」
「ここ聞きわけてください。必ず戻りますので」
冷たい手から絶たれ、走って遠のかれる。
校舎角曲がれば、もう見えなかった。
あと追う気力の夜風ざわめく木々にて漸減され、しまいその場にて蹲ってぐすん、ぐずぐず、丸まってしまった。
どれくらい経ってか、急から轟音した。
なんだか鉄の歪む嫌な音。
恐怖に丸められたるアカロ、亀の首だけだすようし、音のもとである正門ほう向く。
けっこうな正門のひん曲がって、中空かなた向かってゆく。
それで何者か土煙さし、走り込んでくる。
この果てアカロ、蹴っ飛ばされた。
丁度丸く、いくらか跳ね転がれ桜木ぶつかって、その蹴っ飛ばしの威力失せた。
おかげさま、地面ぺしゃんこ轢かれた蛙の体だった。
背に激痛で思わず泣きじゃくって左右転げて喚く。
「酷い! 痛い! だれさまよ! 人のことボールみたい蹴っちまうなんて非道!」
腰押さえ、そう文句に起きあがれば、蹴った当人とてがなってあった。
「ふざけんじゃねぇ。こっちとら、ぐじぐじしている気に入らん奴なぐってやるつもりだったんだ!」
そこで怒声聞きつけてか、校舎いっせい電灯パッとなる。
この明るさ怒鳴る彼こと照らして、立ち姿どうどう景気良く魅せた。
青年で、黒くまとまらず荒れたいままの髪に、野生めいた歯のむいた怒り合わさって、獅子おもわれる。
服装としても粗野いっぺんとう、破れかぶれた灰色のツナギであった。
はて、そんな彼のアカロへと威嚇めいて吠えをした。
「おい、そこの丸まってたやつ。殴らせろ」
「ぐぅん、なんで!」
アカロゆえ心臓もはや潰れた蚤であって、わけわかなく涙だくだく。
「俺は殴ると決めた。蹴りでは収まらない」
「暴論いっさいじゃない!」
「心配いらず、生きれるくらいでやったろう!」
「いやああああ! なんで私ばっか!」
頭抱えて、塩溶けるナメクジようだった。
退学、夢み少女、暴力魔。
こうまで不幸降って福の湧かぬ不条理であった。
するとひとつ拍手起こる。こんど降ってくる雨嵐なんだろう。
顔上げれば、表情こそ薄く笑みなっているも、あの七三な校長だった。
「すばらしい」
拍手鳴りやめ、アカロまた無感動で冷えた瞳から見下される。
「こういったなんでも泣けば済む、許される、助けてくれる、では社会では生きてゆけない」
「あんた誰だよ?」
野生児の怒り混じり聞くも、校長しゃべり止まない。
「社会とは厳しい。規則も守れなく、常識もない」
「人の話きかねぇか」
「そのくせよく吠える、群れる、嵩む。ゆえ学校とはふるいであるべきだよ」
粗い髪より荒く掻きむしって、青年ひとつ舌打ち。
「だれでも彼でも卒業させるでなく、優等者のみ社会放ち、劣等者は未然に潰す」
すると明るくなった校舎から、ぞろぞろ生徒らしい制服したの出てくる。
このなか、妙なことでかつて友達であったひとりや、退学遭っただろう人の顔ぶれ。
それどころでなし、アカロそっくりなのまでいた。
どれもこれも顔色なく、校長おなじく無感動。
無感動から、青年も、アカロも囲われた。
「な、なにこれ?」
涙ひっこみ呆け、それで校長ことみあげるせいか、仄か得意げそう感じる。
「ロボットでね。ダメな生徒よか役立ち、規則守る。いらなくなれば再利用も可」
「校長あなた……なんなの!」
「私もロボットだよ。トラッシュトークという製造名だ」
「へぇ?」
「信じがたいかい。では」
見せつけるよう、トラッシュトークの隣り、アカロの友達であった彼女こと殴りつけた。
彼女砕け、螺子や金属片を五臓六腑ぽく吐けばなんの表情ないまま物とし転がった。
「おっと、人に遜色ない表情もできるのだよ。ただいま機能を切っているだけで」
言葉ないアカロへ、校長つまらなく侮蔑し、
「もはやこの大々的にも壊せるというだけ、君らよか便利だよ、我々は。君たちだと廃品でも隠密で始末せねば、社会のうるさい、厳しい」
「ど……どういう意味よ」
アカロ嫌な察しつけど、聞かずおけなかった。
しごく簡単で、トラッシュトーク言ってのける。
「代替えあるのだから、御粗末な旧式いらんでしょう。ですから順当にやっている」
「まさか、もうみんな」
「なぜか忍びこんでくれて、持気の幸い。そうさ、君で最後だよ」
この台詞の合図か、囲い次第狭まれ、アカロは歯噛み。
堪え性なく日ごろの一層倍、泣けた。
うわぁああああああああああぁああああ。
それから気持ちまま立ちあがれば、動じなく気だるげな青年へしがみつく。
「助けて! もう嫌だ! なんで私にこんな仕打ち! ねえ、あなた強そうだから助けて、ね! だれでもいいから! 無駄なんかじゃないんだよ私だって、たしかに朝は弱いし、勉強なんて右から左だし、頑張るってめんどくさいし、産まれて来たくて産まれたんでもないし、もっとまともに備わった人に簡単になれるなら、やるよ! でも簡単じゃないし、性根はきっと治らないし、なんで社会のために直さないといけないの! それから……」
「黙れよテメェ」
低く重い唸りめいた一蹴。
情けなく助け乞い、喚き、愛想笑いまでやっていたの吹き消える。
「テメェも、あのトラッシュおっさんも口だけ。くだらねぇ」
青年はアカロこと、引きはがし、蹴とばしてしまう。
飛ばされ、また丸く転がって惨めなる蛙であった。
「テメェの主張は動いて語れ。いまから見せてやる、だから黙って見てろ」
幽かながら夜桜の散って、これ祝福よう青年させる威風へかかって絵になった。
アカロ動いてなくも、あたり更地へ化けていた。
さきまであった校舎まるまる潰れて、瓦礫化。
桜木横なぎ倒れている。また根から引っこ抜かれて横たわって、遠め運動場とこ逆さ刺さっているのまであった。
これいっさい青年しわざだった。
ロボット一体なぐり飛ばせ、飛んださきぶつかった校舎の半壊。
二体蹴り飛ばせ、残り半分さっぱり。
これら伴って、ものすごく地鳴り。
あと数十を桜の引っこ抜き、横なぎ。
荒く葉やら、花びら嵐よう回れ、ほかの並木どれも折れてしまった。
そういったわけで、どうも退いていたらしいトラッシュトークと、終始伏せ助け祈ったアカロほかなら、学校そのものから含め全滅であった。
なんなのよ、あの人。
犯人たる青年、平静そう大惨事おける中央立つ。
それから触れられた天道虫みたく手足畳んで怖くなっている臆病者ほう歩んできて、
「おい、泣き虫」
「はいぃいい。泣き虫です」
「見てわかったか? 俺の主張」
「えぇえええっと。ぐちぐち言わず動けってことですか?」
「いや俺もぶっ飛ばしているうち忘れたが、多分むかつく奴はなんであろうと殴れ、だ」
「はぁあ」
「というわけだから、出て来いよ。トラッシュおっさん」
瓦礫陰へと獣なる炯眼ひとつ。
崩れかけな七三のぞかせ、つぎのぞかせるの、あきらかな動揺に皺寄せた眉間だった。
「おせぇ。殴るぞ」
「すんません」
吠えられ、跳ね出て平謝り。七三乱れ、構わず九十度に保つ。
嵐去って、涙おさまりぎみなアカロすこしまえ自身ありさま他所に、情けない人とみた。
「そうじゃねぇ。お前、俺に怒っているだろ」
「いえ、決して、そんなことは!」
「テメェ、俺を殴れ」
「いや、そんなめっそうもない」
「んじゃ、そちらの女だ。ほれ、こんな怖くって腹立たしいだろ」
矛さき泣き虫向く。
目前までくれば、頬出してきて、
「殴れ」
単純であった。
アカロのこういわれ、歯止め消えた。
迷わず殴った。
あまし威力なく、ただ手拍子よな音のしただけであった。
それから泣き虫またしてもうわぁっと涙した。
「私、最低だよ。あんな下卑たことして助けてもらって、でもむかついて八つ当たりしたくって、だれでも殴る。ほんとう悲しい」
「人なぞそんなもんだ。ぶちまけれるお前は人として立派だろう」
青年の満足げ言ってしまえば、それからトラッシュトークへ。
「俺はお前の殴るに決めた」
で、歩んでいく。
一歩近づく連れ、怖気引き込まれるので校長たら無感動どこへやら後退る。
「なぜだ! そんな馬鹿があってたまるか! 命乞いした私より、あの殴った女だと!」
「なんのおかしい」
「社会はそんな考えでまかり通れるものでは……」
「社会、社会、社会ってなんだよ」
「力であり、規範だ! これに反するものなど……」
青年もうトラッシュトークを間近とし、ほくそ笑む。
「じゃあ、いまテメェとっての社会は俺だよ。無駄口やってんじゃねぇ」
「不合理だ!」
「それがこの俺、
たった一打、充分壊し尽くせ、トラッシュトーク、ガラクタすんでまでなって沈黙だった。
「見つけました。ドランカァド」
涙拭いたアカロそば、カッカッとどこいたのだろオリンの現れた。
「ドランカァド?」
「自我の極めし人」
オリンそう表せ一途、ドランカァドたるらしい彼の見ていた。
沈黙を無理から破れ、ガラクタ崩れな
げはぁげはぁ、アハははアハェは、は、は、ハハハハハあああぁ。
壊れたのに相応しいざらつきに、無機質さ相まって不気味と響く。
「もういい。なんの命乞いかわからんしな!」
「もう一撃か」
寛一また拳構えた。なれどもはやかなぐり捨て弁舌続こう。
「私の倒せど、社会の悪しく健在だ! そして我々すら健在である!」
「また社会かよ」
「殴って誤魔化したとて無駄で、君らが不適合なのは君らの行いから社会よって証明されよう。君らの決めれることになし」
「あぁそうか。まったく遺言まで舌さきまでしか動かねぇ奴だ」
ごちって固めていた拳の解ける。
アルミ缶潰す所作に倒れている戯言の、踏み抜く。
「やっぱし拳じゃもったいねぇ」
踏まれた反動転がったガラクタの頭たら、なお喜ばしく多弁。
「はぁん、この行いは社会から弾圧される。いいか、ただ命のあるだけでいいなぞ綺麗ごと、実社会に私の蔓延って、いつも他者の情けなさ笑っている。こんなふうに」
ハハハハハ、ハハハハハ。
乾ききった嘲弄のよっぽど機械。やがて声よかざらつきの勝っていく。
やがてこの砂漠、壊れ抜いて絶えた。
寛一の舌打ちひとつ。
「情けねぇのはテメェだよ」
学校こうして一掃の憂き目。
されどアカロの足もと蒲公英ひとつ、無事咲いて黄色く見守ってくれてあった。
離れたところより、わんさか警笛うぅうぅ夜へ次つぎ遠吠え。
ふと思えばオリンいなかった。
飾り気端からない狭い一室だった。
天井隅でカメラぶら下がって、アカロ見据えられている。
ただひとつだろ小窓まだ黒い。
まだ夜なんだ、せめて日のひとつ。と少女なにも明けないので、悲しくなった。
よそ見していれば、ちり紙山積む机挟んで着馴染んだ背広した刑事から、どうしたの?
「あの帰れませんかね」
「君、いちおう容疑者ね」
「はい」
返事すれば、帰るってどこにだろ。
こう問われて自覚され涙腺にきてしまう。ぐすん。
ちり紙山の麓ある新しい紙の引き抜いて、拭って鼻かむ。
丸くなった紙のまた積もった。
積もる山へ、呆れ眼したあと刑事なお穏やかな面作ってアカロに聞く。
中年らしい皺の引きつっている。
「で、泣き虫ちゃん、どういうわけから、学校の沈むなんてことに?」
「ですから、なんか校長がロボットで……友達もいなくなって……」
ぐへぇ。
「うん」
「変な人がドランカァド……学校のハチャメチャで」
ううぅ。
「うん、そうかい」
「気づいたら学校は学校じゃなくなって、私の人生も消し炭で……」
いちいちうわずるため、散らかった話へ悠長の加わって、刑事もう苦笑い。
項撫でたり掻いたり思案し、ふたたび優しさ作って、
「若いってのは多感でいいね。俺も娘のあって、異星人みたく喋るもんだよ。若者ことばってやつさ。ただ妻なら解読できているらしい」
「かあさん?」
「そう密談して結託して、俺は外様だよ」
そういえば両親のどうしてるだろ。
ここまで苦しく寂しく悲しく、思い寄らなかった。
ようやく余白でき、思い出して埋めてみる。
酷く会いたくなって、そこへ帰りたくなり、ちり紙ずぅうう。
「まぁ愚痴ってもやるせないさな。どうも君は母親に会いたい。喜びなさい連絡はとってあげている」
刑事すこし和解できた思い、切り替わって笑顔。
「こうなればお互いため急ぎ終わらせよう。で、じゃあもうひとりの男の子のこと、どう?」
「あぁ、え、え、それのドランカァドで、あとひとりいて」
「ほんでドランカァドってなんだろう?」
「知ってたら苦労しませんよ」
また紙一枚ひったくって、ぶぅうう汚らしくかんで、その鼻頭赤い。
こう積もっていけ、いつか入道雲なりそうであった。
「ほんとうねぇ、取調べもひと苦労だ」
ぼやくよう言ってから、
「まぁ、不出来ながら近ごろ地震も多いし、それで倒壊ってのが妥当かな」
悩ましい刑事の後ろ、ただひとつの扉、跳ねるよう開く。ちり紙この揺れで雪崩れる。
若い焦燥顔のあって、刑事の頭だけふり返れば素らしい声ひときわ低い。
「なんだ若いの。まだ聞き取りの時間は余っているはずだ。もしかして上からなんか圧力でも」
「あのもう取調べどころでなく、あの青年が……」
「隣りかぁ」
「えぇ、机のもう十ほどへの字にされました! 僕なんなら脅されますし!」
「まったくまともに喋ってくれねぇかい?」
「いえ、まともどころでなく、このまま取調室の壊れてしまいそうで!」
「うちの警察署だとけっこう丈夫だぞ。まさか……」
するとこんど隣り壁、砕けて風穴。
ちり紙の風穴できる合わせ、対面の壁転がって逃げた。
アカロすぐさま机の下潜って、鼻啜る。
それでも怯えきって絞った片目なんとか勇気に緩め覗く。
すれば、あの寛一の、不機嫌であった。
壁突きぬいただろう諸手で、ちぎれあった手錠のしがみついている。
「また泣いてやがるか? 行くぞ」
潜っていること、あっさり見つかって襟首ひっ張られる。
首の締まって息困る。
なお、ひこずられて、机足すがったも弱くって解けた。
若いひよっこの命大事に自身こと抱いて丸くなっている。
で、冷や汗こそ垂れ、年季ものか刑事この大事せよ、そう易く逃がさない。
寛一まえ立ち塞がる。
「不良少年でもとびっきりだね、あんちゃん」
「どけよ」
「頭のねぇが力自慢かい、不良の手合いじゃ久しぶり厄介だよ。話の通じねぇ」
若く鋭い三角の目に、はやくも岩石よう握られる手であった。
刑事このおっかなさに努めて気丈ぽく振る舞う。
「暴力いっぺんとう警察から逃げれるって?」
「うっせ、暴力の嫌いだ」
「こんだけして、ふざけているなぁ」
「テメェこそふざけている。その人さまでない腕の隣りまで臭いくせぇんだ」
ねめつけられ、刑事その右腕刺された気分に隠す。
それでも睨み収まらないから、観念。
「ばれちゃうか」
「だまくらかそうたって俺は鼻の効くぜ」
なんのことやら、アカロふしぎだった。
わかるように刑事ここで袖まくり。
捲くて顕わなる腕の真新しく、よく観察せば綺麗すぎて違和感だった。
するとさらに腕の皮まで捲りだし、解く。
肘まで解けば、黒鉄て重そな腕の晒し、腕だけあきらか常人でない容姿だった。
傍うずくまっていたひよっこ衝撃だったらしい、這う這うの体どこかへ。
なんで? アカロの息し難い心地も忘れて、言葉もない。
対し、気づいていたらしい寛一の特段に感情色を変えなかった。
「テメェもあのロボット連か」
「あぁ、穏便に済ませそうもない。悪く思わんでくれなぁ。仕事なんで」
「潰せるってか? この俺を?」
「増上慢だなぁ。いやそれ、俺のほうか」
黒く固まった拳ちがって、当人すこし安らか微笑む。
すれば夜で真っ黒い小窓の割って、複数なにやら飛び込んでくる。
大きくせ蚊柱みたく舞って監視カメラこの舞いから横ずっぽう打たれ消沈がっくし。
なお荒ぶれ、掠めて壁の一室それら少し掠っただけ砕ける。
かんだ塵紙さえ、この騒乱で持ち上げられ降って、牡丹雪。
それから蚊柱の落ちつくの刑事であった彼ところ。
よく見ればその目まぐるしい飛行物たら、彼と同じ右腕であって、五本あった。
「俺はマグチェンジャア、しょせん使い捨てだ」
あたり飛びかう腕らと順序よく黒い手同士あわせて友好そう。
それから安らかさの消して、寛一こと冷めて見た。
「さて、こっから正義のおまわりさんじゃないんで、よろしく」
警察署の屋上だった。
その床裂けて、アカロ抱えた寛一の裂け目より飛び出た。
ともに階下灯り溢れだし、よく屋上ただ広いだけなの照らした。
あと追い黒い五本、なんでも貫く威勢もって飛行してくる。
屋上に足着けた寛一の囲って、浮く五つの拳たら揺るがない。
「しつけぇそうだ。蠅かってんだ」
寛一ぼそっと言って、抱えられたアカロもはやなんなの、なんなの、泣く。
裂け目よりさらにあと追い、刑事であったマグチェンジャアのあって、
「あんちゃん、その拳の追尾は一級品で威力申し分ねぇ。六発ぶん替えのきく拳だ。俺の選んだ仕様でないが刑事らしいだろ」
そう茶化すよに言い、うぅうう涙垂れ流す少女向かって、
「嬢さん、すまんね。俺にも家族のある」
「家族のあって、なんでこんな」
「家族のあるからこそだよ」
マグチェンジャア、黒光りの拳に恨んだ瞳落とす。
「誓って言う。俺はこの腕ほか、まっとうな人なんだ」
「へぇ?」
「ロボット捕まって改造されてね。ほんで家族は知らないが、みな監視されているようで」
「じゃあ、ほんとうやらされてるってこと?」
恨み消して人っぽく諦めに笑う。
「笑い種だろ。自身の家族ため、人の家族ついて始末して回るんだぜ。どうせ外様なのに」
そんな……と言って後ない。涙しろ失った。
「まぁよかったよ。改造くらった三年まえ俺のとっくに正義なんぞなかった。家族をなんだか守りたい我儘しかなかったさ」
「テメェの事情なんざどうだっていい」
怯懦、愁いいっさいなき寛一の口ぶり。
「俺も、この泣き虫も、テメェも、常にいんのは殴る度胸と、殴られる刺激だけだ」
そう片付けられてしまえば、マグチェンジャア、フッと鼻でしたのち大笑い。
「ちげぇねぇな。お互い恨みあわなきゃ、痛みあわなきゃやりきれんよ!」
マグチェンジャア、またアカロに言う。
「お嬢さん、恨みで楽にしてやろう」
まるで幼子へと飴玉でもくれる気安さに。
「実のところ君の親友や、友人じかに始末したの俺だぞ」
はあ……。
空返事なんだか実感の抜けた。
なれど、まだ洒落ぽく続く。
「あとロボットら頼んで、君の両親まで片付けるよう頼んでいる」
ぽっかぁあん、頭の空白。
「刑事って立場たら証拠潰しに丁度向いている。で、俺の主とてまだ計画の世間へ露見したくない。情報回っていそうなところ虱潰しってことよ」
声のただ声なり、意に結べない。
アカロは白昼夢めいて、あれ? なんか頬あったかく垂れてらぁ。
拭って、あぁ、なんだいつもの涙じゃない。
「どうだい、恨みたくなったかな」
あぁ……。空白へ現実おっつけ実感もどろ。
あああああああああぁああぁああああぁああ!
この泣きざま、いままでの比になく、抱えて煩そう片耳塞ぐ寛一ことジタバタ叩く。
「どんちゃん騒ぐに叩くわ、ふざけるな!」
「だって! だって! 私、もうなんもない! ほんとう一縷もなんも! もう!」
うるせぇ一喝、脳天げんこつ。アカロたくさん頭なか星めぐってだらり干した布団の体。
「テメェふざけんな。俺を殴ったテメェがいる。俺を殴った拳がある!」
「そんなんで、どうするって……」
「そんだけありゃあ充分なんだよ!」
黙ってやりたいことだけやれ。
抱えていたのを落として寛一は目前いる男へ怒気させる。
これへマグチェンジャアの哀愁笑み返す。
「そうさなぁ。このどうしようない俺のもっと恨んでくれよ」
とたんあたり備えていた拳ら、いっせい寛一めがけかかる。
かかってきた五つ拳対し、回し蹴りから叩きおとす。
手刀にへし折る。
頭突きにへこます。
肘うち潰す。
膝から突き上げる。
そうやって刹那うちどの拳せよすぐ墜落、息もなく黒い花でも咲くよに指広げた。
散ってしまった黒鉄といえ、マグチェンジャアそう落胆でもない。
「さて、やはりドランカァドじゃ分がなかった。で俺でしまいの拳かな」
寛一どうどう歩んで、これに男、重たそな黒い手の握って、また歩み寄る。
「家族に……うんや、どうせ外様だ。伝言もいらねぇや」
「テメェ振るう拳に端から代替え《マグチェンジャア》なんぞねぇ」
言われると苦笑し、
「そりゃそうだ。家族なら愛してるくらい自分で言ってやらぁ」
こう残し、血走って人相、命がかかる。
そして、男ふたりぶつかるよう駈け出した。
黒い拳、いかった拳まっこう振り抜きあえ、黒のほう硝子よう割れた。
割れてからも、寛一の拳とどめず、なんでもなくなった男の相貌まで届かせた。
激烈に当たって、男の床に幾度か跳ねて、仰向け。
きっと夜が真っ黒。
命がけも解けた。すると懐から拳銃の取り出して、屋上床すべらせる。
泣きながらでも、交えた拳の結末眺めてたアカロまでつく。
殴打から切れた血の流す口角やさしく緩め、弱っても気づかう声にて、
「お嬢さん、こっちきてトドメ頼んでいいかい。なに簡単、もう引き金ひくだけだよ」
え、こんなの……と、寛一へ目配せ、しかし頼っても振り向きもなく黙っている。
憎い。
すればそうした魔が差した。
登ってくる。
支配される。
で、黒い銃取った。
倒れている男まで来れば、彼の眉間ねらい、構え、命抉る一発のため指かける。
撃たれそな人ながら安らか瞑目、もう棺入っていそう一本しかない手の鳩尾おいている。
「長らくこういう展開の待った。早くしよう、もう下では大わらわ、人も来るだろ」
やったことなく、震え涙で滲む。
だとして外せまい、言い訳きかない近さであった。
「さぁあげた恨みの返してくれよ」
憎い、恨む、人でなし、よくもよくもよくも!
空白の罵詈に埋めていく。
張りつめ、埋めゆく果て来る。
銃の捨て、その安逸顔の鼻っ柱へ拳叩きこむ。
相変わらず力ひ弱く、打たれた側すら、目覚ましに醒まされたくらいで呆けていた。
これだけで去ろうとし、生き返った男から呼ばれる。
「お嬢さん、こんなんじゃ大損だよ」
それでいまにも泣きそうながら一瞥。
「あんたの尺度の損得で私は私をやっていない」
それに……と泣き虫の殴った痛み見つめ、つぎ心なし快さそな笑みの寛一へ柔らかく返して、
「私にはこれで充分なんだってさ」
夜闇へ似合わず階下慌ただしく人の足音どたばた始まった。
「なにより命奪うなんてさ、私みたいなのじゃ怖すぎって及ばない」
とぼそりはにかみ、けっきょく泣いた。
「ごめんね……大切なみんな」
鼻水ずぅううっと吸った。
警察署の一件より、しばらく経ってある通話。
「もしもし、どうにか逃げた。屋上から落ちるクッションにして腕もまったくなくなって」
「戯言のいい、なんの用か?
「いつもの報告だよ。もはや刑事でもなんでもないが仕事のしゃんとやるんでねぇ」
「腕の通じて知っている。ドランカァドおよび、あの娘の逃がしてしまった」
「その男だか、女だか、人だかすら知れない変声で冷たくされると傷口に染みるや」
「また、正体もばれてしまった。よって約束通りだ」
「もうさっさとやったかい?」
「私たちの間断なく、滞らない。人と違う」
「さいご二人ともなんか言ってたかい」
「最愛の失くせば人の悲しむそうだ。しかし、なんともないようだが」
「俺はもう芯までロボットなのかもね。あの嬢さんみたく、さっそく泣けねぇや」
「命乞いだろうか。調べずともお前は人へ機械移植ほどこした……」
「あぁ、通じないねぇ。お前さん詩とか苦手だろ」
「報告の以上かな」
「あと駄目もとだ。ひとつ頼みたい」
「受けがう利得のないと思われる」
「駄目もとだよ。これより俺みたいな奴だしてくれるな」
「いいだろう」
「ずいぶん意想外で、いい返事だ」
「貴様の示した通り、人の改造だと使い勝手の悪い。純粋かつ確かな我々で遂行しようとなった。もう警察網で、あのドランカァド捕らえられまいし」
「そりゃ俺の駄目でよかった」
「強迫ありきといえ貴様の尽力、感謝しておこう」
「社交辞令だねぇ。感情なんぞなくとも、感情ぽけりゃあいいと思いやがって」
「ついで迎えのやったが、どうだろう」
「あぁ、御親切にさっきから突っ立って、物騒かまえていやがる」
「それも人でなくも、貴様おなじく不良品だ」
「いやぁ、べっぴんにできてらぁ。介錯としちゃこのうえない」
「それとさきの質問だが」
「なんだい」
「母のほう出会いがしらのため、一音もない。ただ娘ならその介錯人からの記録再生しよう。『あんたのよな悪党なんて、父さんが手錠のしてくれる。きっとよ』だそうだ。」
「……そうかい。へぇ、強気な声で、はぁ立派だねぇ……あぁ……あぁ」
「さっき泣かないとあったが?」
「あのさ、あのお嬢さんに殴られた面の熱くって……」
「譲歩したもはや無駄話もいるまい」
「いや涙ってあったけぇや……」
「ではさようなら」
「あんたら思わねぇか。べっぴんさんに無の
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