第14話
静江の言葉を受けた和江がポンと康介の背中をたたいた。
「わかったでしょ、康介。よく考えてごらんよ。たとえ血がつながっていなくても、健次郎さんはあんたの父親なんだよ」
「だったら、どうしてあいつは出て行ったんだ? 何もこそこそ隠れる必要なんかないじゃないか。それに、金だけ出せばそれでいいってわけじゃないだろう」
「それにはきっと深い事情があるのよ」
「どんな事情だよ」
「それは私にもわからないわ」
和江はあっさり言ってのけた。
納得のいかない康介が口を開きかけた時、人の気配がしたかと思うと数名の葬儀スタッフが会場に姿を見せた。
「そろそろお時間になりますので、ご準備させていただきます。ご住職様も間もなく到着されるそうです。到着されましたらご案内させていただきます。それまでは皆さま、控室でお待ちください」
康介は不機嫌そうに祭壇に背を向けたかと思うと、受付ロビーを抜けて外に出て行ってしまった。
後を追おうとした静江に「大丈夫よ、放っておきなさい」と和江が声をかけた。
「子供じゃないんだから大丈夫よ。それに姉さんだって馬鹿じゃないわ。康介ならちゃんと受け止めてくれるって思っていたから、あんな手紙を残したのよ」
「そう……でしょうか」
和江は静江の背中に手をあてて、笑ってみせた。
「そうに決まっているでしょ。静江さんがそんな顔していたら、子供たちが心配するわよ。そういえば、景子ちゃんの娘、美香ちゃんだったかしら? 大きくなったでしょうね。私は初対面なのよ、案内してちょうだい」
そう言われては後を追うわけにはいかない。静江は気にしながらも、和江を控室に案内した。
康介が戻ってきたのは、通夜の始まる直前だった。
「どこに行っていたんだよ、住職に挨拶もしないで。とりあえず俺と母さんで挨拶しておいたけど、喪主が不在じゃシャレにならないだろう。明日も来てもらわなきゃいけないんだから、通夜が終わったらちゃんと挨拶に行ってくれよ」
紘一が文句を言っても、康介は仏頂面のまま口も利かない。 紘一はまだ何か言いたそうにしていたが、静江と和江に諫められて渋々、口を噤んだ。
通夜は粛々と進んだ。
通夜が終わると、康介はまたふらりと外へ出ていこうとしていた。だが、紘一に引き留められ、引きずられるようにしながら住職の部屋に連れていかれた。
「何があったか知らないけど、いい加減しっかりしてくれよ。ガキじゃあるまいし」
紘一の言葉に答えず、それでも康介は住職の部屋のふすまを開いた。
康介が住職と顔を合わせるのは今日が初めてだった。
かなり高齢らしい住職は康介の非礼を責める風もなく、穏やかな顔で康介に座るように勧めた。
「ご挨拶が遅れて申し訳ありません」
「いや、急なことであなたも動揺されたでしょう。私も驚きました、先日お会いした時にはお元気そうだったのに……。わからないものです」
住職の言葉に、康介は居住まいを正した。
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