第6話
孫の美香はまだ三つで正子の死を理解していないらしく「大きいばあば、ねんねしてるの?」と静江に問いかけた。
「そうよ。ばあば、ねんねしてるから、起こさないであげましょうね」
静江が言うと、美香は無邪気に「はーい」と言って片手をあげた。
昨日は気が立っていた景子も、夫の陽介と美香がいるおかげで、今日は落ち着いているようだった。
独身の紘一にとっても姪の美香はかわいいようで、くつろいだ様子で呟いた。
「やっぱ、子供がいたら癒されるな」
「そう思うなら、お兄ちゃんも早く結婚したら? 今のうちにいい人を見つけておかないとすぐおじさんになっちゃって、誰にも相手されなくなっちゃうんじゃない」
「何、言ってんだ。冗談じゃない、生活に縛られるなんてまっぴらだね。自由を満喫して、たまに美香と遊ぶくらいがちょうどいいんだ」
「何よ、それ。おかあさん、おにいちゃんったら、おばあちゃんみたいなこと言ってるよ」
「紘一はおばあちゃんっ子だもの。小さい頃は、いつもおばあちゃんに抱っこをせがんでいたのよ。おばあちゃんに男の子なんだからしっかりしなさいって叱られてたわよね」
静江が懐かしそうに目を細めた。すかさず景子がはやし立てる。
「お兄ちゃん、甘えん坊だったんだ。かっこつけてるくせに」
「うるさいな。お前は今も昔も癇癪持ちじゃないか。人のこと言えるのかよ」
兄妹で言い争う姿を見るのも久しぶりで、康介にとっては微笑ましい光景だった。
今では二人とも大人になって澄ましているが、子犬がじゃれあうように一緒に遊んでは喧嘩していた。
喧嘩が始まると静江は止めに入っていたが、そのたびに正子が「気が済むまでやらせときなさいよ。喧嘩するほど仲がいいっていうじゃない」と言っていた。
実際、兄妹仲は良かった。
喧嘩していたかと思うと、けろりとして一緒に遊んでいる。
静江は心配性だったから、子供のこととなると大した事出なくても大袈裟なくらい騒ぎ立てた。
やれ咳をしただの風邪を引いただの、学校で友達と喧嘩しただのと何かあるたびにおろおろしていた。
そんな静江を諫めるのが正子だった。
正子はいつも楽天的で「そんなに心配しなくても大丈夫だよ」と心配性の静江を笑いとばした。
余所の家なら嫁姑で喧嘩になるのかもしれないが、実家が遠方にある静江にとっては、そんな正子が頼りになる存在だったらしく、何かあれば正子に相談を持ちかけていた。
正子は正子で「息子なんて口うるさいばかりでちっともあてにならないからね。うちは嫁さんのほうがずっと可愛げがあるんだから」とあちこちで吹聴していた。
どれもこれも康介にとっては懐かしい思い出だった。
静江も同じ思いなのか、そっと目頭を押さえていた。
場が和んだせいか、おなかが膨れたせいか、美香がぐずりだしたのをきっかけに、康介たちは景子の家族を残して座敷を出た。
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