41 王子様との内緒話 03
クリフさんが真剣な顔をして私を見ます。この方も年頃の女の子相手にそう何回もこんな表情を見せてもいいのかとも思います。こんな調子では、この方は何人もの女の子を勘違いさせて来たのではないかと、
「エマ。君は将来の王妃、つまり私の妃になることに興味はあるかい?」
「……え?」
何を言われたのか、理解できません。クリフさんの目には私のキョトンとした顔が映っているのでしょう。
「あの……私はそんな
私は王妃になることなど本当に考えたこともありません。それどころか、生涯独身ですごすこともありうるとも思っていたのです。私は大賢者を目指すのですから。
クリフさんは穏やかな笑みを浮かべました。
「ああ……やっぱり君には野心は感じられない。オリヴァー先輩や君たちのお父上にも野心は感じられないしね」
この方は野心的な方々にうんざりしているのでしょうか。この方は高潔な方に思えますし、なら野心的な人とは距離を取りたいと思うことは考えられます。
クリフさんは言葉を続けます。
「あの日、君とオリヴァー先輩と出会ってから、美しい貴族の令嬢たちも私には色あせた存在にしか見えないようになったんだ……それほどに君の印象は
この方は私がそこまで魅力的だと思っているのでしょうか。私は王子様が
「大人の貴族たちはもちろん、令嬢たちも誰も彼も私自身のことなど見ていない……ただ王子という肩書きを見ているだけだ……」
「……」
「彼女らは、私が王子ではなかったら私に興味を示すこともないのだろうね……」
この方は王子様という肩書きではなく自分自身を見てほしいのでしょうか。それはある意味では王族にふさわしくない欲求であるように思います。ですが人としては当然の欲求にも思えます。
「彼女たち自身やその家族の野心が見え隠れしている子も珍しくない。私はそんな子と婚姻するのは
クリフさんが私の手を取りました。
「だけど君はあの時も私自身を見てくれた。そして今も、私が王子ということに遠慮を感じてはいるようだけど、私を見てくれている」
「……」
「私は君のような子を妃に迎えたい」
クリフさんの目は真剣です。その言葉に嘘はないように思えます。ですが私は
「あの……私はクリフさんとはあの時会っただけで、再会したばかりですし、そう言われてもどう返事をしていいのかわからないのですが……」
これが私の本心です。いきなりのことで私は混乱しています。
クリフさんが苦笑を浮かべました。
「すまない。前のめりになりすぎたね」
「は、はい」
「だけど君が王妃として私的なことを、オリヴァー先輩が
「……」
「私は心強い味方に周囲にいてほしいんだ……いや、すまない。君を同情させて追い込むのは私の本意じゃない」
「……」
この方は人道派的な考えをしているのでしょう。ですがその考え方は王宮で主流の考えだとは私にも思えません。味方がほしいというこの方の思いも理解はできますが……
この方は孤独なのかもしれません。ライラ殿下や国王陛下ご夫妻はこの方のことも思いやっているのだとは思いますが、王族であるゆえにどこか距離があるのかもしれません。だからこの方は絶対的な味方を求めているのかもしれません。
「まあでも、今の私の君に対する思いは愛や恋というほどではなく、
「執着ですか?」
「ああ。私自身を見てくれる子に近くにいてほしいというね」
それはクリフさんの本音に思えました。今のこの方は私を愛しているほどではないけれど、近くにいてほしいと。それは私も受け入れることができます。
私の手を取るクリフさんの手に、私はもう一方の手を添えます。
「私がこの先あなたを愛するようになるのか、それともそうではないのか、まだわかりません。ですが私はあなたをただ王太子殿下と見るのではなく、クリフさんという一人の方を見ることを誓います」
クリフさんがそれを言う私に少しボーッとしたような様子を見せました。ですがその様子はすぐに消えます。そして真剣な顔になります。
「ああ。君は私自身を、クリフ・アーヴィンという一人の人間を見てくれ。そして頼む。私の友人になってほしい。私も君の力になろう」
「はい。喜んで」
クリフさんに勘違いさせてしまったかもと少し不安になってしまいましたが、大丈夫だったようです。この方の友人になることには私も
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