40 王子様との内緒話 02

 私からもクリフさんに言うことがあります。



「あの……ですがワイズ伯爵家はライラ殿下が降嫁こうかなさるほどの家ではないと思うのですが……」



 ワイズ伯爵家に王家の血筋が入ったことは、これまでにないのです。王家に嫁いだ方もいません。ライラ殿下の想いがあれど、王族の婚姻にはどうしても政略が絡むはずです。ライラ殿下をお兄様に嫁がせるなど、国王陛下が許可するとも思えません。



「そうだね。だから姉上はオリヴァー先輩を宰相さいしょうに迎えることにあれだけ熱心に賛成したのだろうね。オリヴァー先輩を次期宰相として要職に就ければ、姉上が嫁ぐ言い訳もたつと」


「なるほど……」



 クリフさんは次代の王として政治的な考え方もできるのでしょう。そこまでは私は考えつきませんでした。

 クリフさんが真剣な顔に戻ります。



「これから言うことは、君からオリヴァー先輩とお父上にも伝えてくれないかい?」


「はい」



 お兄様とお父様に伝えてほしいということは、政治的なことでしょうか。



「君の実家、ワイズ伯爵家はどうも王家とは近づきすぎないようにしているようだ。ワイズ伯爵家からは一人の宰相さいしょうも出ていないし、王家との血縁もない」


「はい」



 それは事実です。その裏の事情まではお兄様から聞くまでは私は知らなかったのですが。



「代々の王が何度か打診したこともあったようだけど、それらも丁重に断られて来たようだ。父上は、賢者たるワイズ伯爵家の方たちは貴族たちの嫉妬しっとを買いたくないのだろうと推測しているのだけどね」


「……はい」


「まあ理解はできる。一時は栄華を誇っても、その後没落した貴族はいくつも例があるんだしね」


「はい」



 私は動揺を隠せていたでしょうか。自信はありません。クリフさんは、そしておそらくは国王陛下もワイズ伯爵家の立場に理解を示してくださっているようですが……



「でもワイズ伯爵家とよしみを結ぶのはアーヴィン王家の悲願でもあるんだ」


「……え?」



 そのクリフさんの言葉を理解できませんでした。王国にはワイズ伯爵家よりも格上の貴族は何人もいるのですから。王家がワイズ伯爵家と結びつきを強めたいと思う理由がわかりません。



「ワイズ伯爵家はアーヴィン王国よりも古い歴史ある名家だ。そして王国が成立した際にも最大の功績があった貴族でもある」


「はい」



 それも事実です。アーヴィン王国の初代はザカライア学院に入学した平民だったそうです。



「アーヴィン王家がそのワイズ伯爵家とよしみを結びたいと思うのは当然のことだろう? 最大の功労者に十分にはむくえていないのだしね」


「……はい」


「父上も姉上の恋に乗り気でね。かといって無理矢理押しつけるのも良くないから、姉上とオリヴァー先輩が互いに望むのなら少々の無茶を通しても二人の婚姻を認めようと私に言っているんだ。姉上はあれで私たちに自分の想いを隠せていると思っているようだけどね」


「……はい」


「ただ父上が姉上とオリヴァー先輩を婚姻させることに乗り気なのは、当面は君だけの秘密にしておいてくれ。無粋ぶすいな横やりを入れるなと、姉上が怒るからね」


「はい」



 困ったことになりました。私ではどう対応すればいいのかわかりません……

 ですがライラ殿下の恋心以外のことはお兄様とお父様に伝えるように言われているのですから、お兄様たちに判断を任せましょう。私も自分でも考えないといけないのですが、どうすれば適切な結果を導き出せるのかわかりません……

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