14 訓練場にて 01

 私とお兄様とコニーは食堂を後にして、屋外にある訓練場に来ています。屋内訓練場もありますが、そちらは派手な魔法を使った訓練ができるほどの広さはありません。

 ザカライア学院にはおおまかに分けて魔法使い科と騎士科があります。魔法使い科は魔法が得意な人が入り、騎士科は戦士として戦うのが得意な人が入ります。全員がそれぞれの分野で優れているというわけではなく、能力に恵まれない人も少なくないそうですが。

 科によって学ぶことが厳密に分かれているわけではなく、互いのことを学んでもいいそうです。魔法使いとしても戦士としてもどちらも一流という人はそうはいないそうですけどね。

 私は魔法は得意ですが、運動は得意と言うほどではないので、魔法使い科に入ろうと考えています。お兄様も魔法使い科ですしね。

 学院には神官としての素質を持つ人が入学することもあるそうですが、神官は基本的に神殿の管轄かんかつですから、学院では神官としての専門の教育を受けることはできないそうです。


 訓練場では鎧を着た女の人と男の人が剣を交えていました。その勢いはすごいです。私が相対したら、ろくに魔法を使う間もなく接近されて、魔法障壁も突破されて切り捨てられるのではないかと思えます。十分な距離があれば火力で押し切れるかもしれませんが。

 魔法障壁とは魔法使いが恒常的に展開している防御幕のようなものです。魔法使いの力によってその防御力は異なりますが、強力な魔法使いの魔法障壁なら防御魔法を使うまでもなくかなりの攻撃を防ぎきります。魔力が尽きれば魔法障壁も消えるのですが。

 私の魔法障壁もかなりの強度があるのですが、今訓練している人たち相手では強度不足だと思えます。コニーと私はその光景に目を奪われています。



「すごいですね……私は騎士様が戦うところを見るのは初めてです……」


「私は騎士の試合を見たことはありますが、ここまでのものは初めてです」


「そうだね。君たちに彼女たちの訓練を見せられたのは丁度良かった。今訓練しているのは騎士科でも優秀な人たちでね。王国でもあの二人を上回る使い手はそう多くはないだろうね」



 戦士も魔力を体の表面にまとわせて魔法障壁と同じような防御力を発揮できるそうです。そこに魔法を付与した鎧も着ればそう簡単には傷つかないそうです。そして訓練している人たちの魔力の流れを見ると、体の表面に魔力を纏わせ、振るう剣にも魔力を込め、身体能力も強化しているようです。

 なお人類の敵である魔族や魔物も同じように魔力によって強化しているそうで、魔力を扱える人なら有利に戦えるとは限りません。上位の魔族や魔物ほど魔力も強く、そういった敵に対抗するにはよほどの実力が必要だそうです。

 魔物も強いものばかりではなく、下位の妖魔相手なら一般の兵でも十分に対抗できるそうです。妖魔は数が多く、人類側の国々の国内を荒らすものもいるので、平民からつのった兵も必要なのです。騎士や魔法使い、冒険者といった人々だけでは手が足りないのですから。

 あの人たちはお互いに本気を出して戦っているようです。ですがあの人たちが傷つく心配はいりません。



「訓練場には専属の無効化結界を展開する人が待機しているのですか?」


「専属の人はさすがに学院にもいないよ。今訓練している彼女は信望があって、本気で訓練する時には自発的に無効化結界を展開してあげる人たちがいるんだ。授業では先生たちや生徒が展開するんだけどね」



 訓練場には無効化結界を展開している魔法使いの人もいます。あれほどの力を持つ人たちのために無効化結界を一人で展開するのは負担が重いからか、二人がかりで展開しているようです。訓練の様子を観戦している人たちもいますね。

 武器や魔法を使った本気の訓練をする時は無効化結界を使うものです。この結界内では攻撃が当たってもいっさいダメージを受けません。どちらかが倒れて終わることもないので、勝敗の判定は外部から判断することが多いそうです。この結界も耐久度を超える攻撃がなされた時は無効化することはできないのですけどね。

 なお無効化結界を実戦で使うことに意味はありません。敵の攻撃だけではなく味方の攻撃もダメージを与えられなくなるのですから。どちらかの攻撃だけ通すという器用なことはできません。結界の中から結界の外を攻撃することも、結界を越えて魔法を使うこともできません。保護対象をこの結界で守るという使い方は一応できるはずですが。



「ところでコニーは魔法使い科志望かい?」


「はい。私は故郷の先生から魔法を習っていたんです。先生はザカライア学院出身で、私の素質を埋もれさせるのは惜しいと、なかば無理矢理に学院に推薦すいせんされてしまって……」


「なら私はその先生に感謝しなければいけませんね。そのおかげでコニーと出会えたのですから」


「そうだね。人の運命は思いも寄らないことから変わるものだ。だけど私たちが出会えた運命には感謝しなければならないのだろうね」


「はい!」



 コニーは魔法使いの私塾で魔法を習ったようです。現役を引退した魔法使いが私塾を開くことはしばしばあるそうですし、その先生はおそらく平民出身だったのでしょう。

 ですが私はコニーと出会わせてくれたその先生には感謝しなければならないのでしょう。この出会いが本当にいいものだったと言ってよい結果になるのかはわかりませんが、コニーはいい子のようですからね。

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