13 時間外の食堂にて 04

 お兄様がふと何かに気づいたような様子を見せます。



「ああ、そうだ。ディスキン先輩」


「なんだ?」


「そろそろ入寮する新入生が増えてくるでしょう。貴族派の人たちにも、新入生を見かけたら学院の案内をしてくれるように呼びかけておいていただきたいのですが」


「わかった。年少者の面倒を見るのは年長者の義務だ。無駄にプライドが高い連中は聞いても聞かんふりをするのだろうがな。平民についてはお前たちが面倒を見るのだろう?」


「はい」



 トビー先輩はお兄様は貴族派にも顔がくと言っていましたが、これがそういうことなのかもしれません。お兄様は貴族派の人たちからも敬意を持って見られているのかもしれません。そんなお兄様を改めて尊敬しました。



「あとこちらのコニー、コンスタンス・アシュビーが入学前は一人では図書館に入れないと困っていましたので、そんな新入生がいれば図書館に連れて行ってあげるようにも呼びかけてください」


「わかった。ふん……無理矢理私にその平民の名前を聞かせたか。お前らしいやり口だな」


「そうでもしないと、ディスキン先輩はこの子の名前を聞いてくれないでしょう?」


「お前の思い通りになるのもしゃくだが、その子の名前は覚えた」



 そう言ってディスキン先輩は歩き去って行きます。貴族派の人たちに伝えに行こうとしているのでしょう。貴族派の人たちはプライドが高い人が多いでしょうから、新入生の案内をしてくれる親切な人は少ないかもしれませんが。

 私には推測できることがあります。お兄様はワイズ伯爵家を運営するためにはただ知識をため込むだけではいけないと言っていました。お兄様はこの学院でその知識だけではないことを実践しているのかもしれません。このことは食事の時間にもっと人がいる時に言ってもよかったはずです。ですがお兄様はディスキン先輩にコニーの名前を聞かせるために、あえてこの場で言ったのかもしれません。

 そしてディスキン先輩もそう思ったのでしょう。その上でディスキン先輩はお兄様を不快には思っていない様子でした。そんなお兄様が頼もしいです。

 お兄様が私とコニーを見ます。その顔には微笑ほほえみを浮かべています。



「ディスキン先輩は平民を見下してはいるけど、貴族として高潔であろうとしている人だ。優秀で人望もあるしね。あの人に名前を覚えてもらえたことは、エマとコニーにとっても有意義だと思うよ」


「はい、お兄様」


「は、はい」



 お兄様は本当に私たちを思いやってくれているのでしょう。ですが私もお兄様に与えられてばかりではいけません。私もお兄様の力にならなくては。



「君たちはこの学院でいろいろな人と出会い、いろいろな経験をするだろう。それは決していい思い出になるものだけではないはずだ」


「……はい」


「だけど君たちも学院から卒業したら世に出て活躍するようになる。そこでもいろいろな人と出会うだろう。君たちが世を渡るすべを身につけるためには、この学院での経験も無駄にはならないと思うよ」


「はい!」



 さすがお兄様。お兄様は私たちが学院を卒業した後のことまで考えてくれています。私は学院で学ぶことで頭が一杯で、まだそこまでは考えていませんでした。

 私は大賢者を目指しますが、そこでも人との関わり合いは必要になるはずです。私たちもこの学院を人と関わる練習の場にすればいいのです。

 そして学院で仲良くなった人たちは私を記憶に残してくれるかもしれません。私は前世で家族以外の人の記憶には残れませんでした。だからこそ、この世界では大勢の人たちの記憶に残りたいという欲求があるのです。また誰にも覚えてもらえずに一生を終えるのは嫌です……

 そしてお兄様はトビー先輩たちの方を見ます。



「言うまでもないけど、君たちも新入生たちの面倒を見てやってくれ」


「はい!」


「人道派の人は親切だと、新入生たちにもアピールしなければいけませんしね」


「僕は平民ですから、主に平民の新入生の面倒を見ます。貴族の新入生には平民に面倒を見られるのを嫌がる人も多いでしょうからね」



 トビー先輩たちからも即座に承諾の声が返されます。不慣れな新入生たちに親切にしてあげるのはいいことなのでしょうしね。私のように学院に身内がいる人ばかりではないのですから。

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