第4話 『初任務』
「え?」
私は思わず、間の抜けた声を漏らした。
そこにいたのは、見上げる程の大男――とは正反対の存在。
私よりも一回り以上小さい、十歳前後の女の子であった。美しい銀色の髪に、真っ白な肌。全体的に色彩が薄い、と言えばいいだろうか。
可憐で儚げな印象を与える彼女は、私と同じく騎士団の正装に身を包んでいる。
つまりは、彼女――ルーシェこそが特別士官というわけだ。
「紹介しよう。彼女が特別士官のルーシェ。今日から君と共に生活をする子であり、君は彼女の世話係になった、というわけだ」
「……へ、世話係、ですか?」
「フォルン、このお姉ちゃんが、わたしのお世話をしてくれる人?」
無表情のまま、可愛らしい少女の声でルーシェがフォルンへと問いかけた。
フォルンは頷いて答える。
「ああ、そうだ。君の『初任務』についても決まっている。今日からルーシェ――君がこの騎士団の要であり、アーテ・セルフィンはそれを全力でサポートするというわけだ」
「え、え……? それって、どういう――」
「アーテ、それがあなたの名前?」
気付くと、私の前にルーシェがやってきた。
見上げながら首を傾げる彼女に、私は思わず後退りをする。
可愛らしい少女ではあるが――ひょっとしたら、彼女が犯罪者と言うこともあり得るのだ。
「先に断っておくが、ルーシェ自身は別に犯罪のような類を起こしてはいない」
「!」
私の心を見透かしたように、フォルンが言った。
けれど、その言葉に少しながら安堵して、同時に一つの疑問が生まれる。
「えっと、『彼女自身は』と、今言いましたよね……?」
「ふむ、よく聞いているな。どうやら、君を選んで正解だったらしい。ルーシェ自身は何の罪を犯してはいないが、ルーシェの存在自体は――この国の罪だからな」
「この国の罪……?」
私は不穏な空気を感じ取り、息を飲んだ。
フォルンは真剣な表情で、口を開く。
「さて、『特別士官』がなんなのか――そういう話に戻るとしようか。だが一つ、この話を聞いた時点で君は共犯者の一人であり、この事実の他言は許されない。もしもここで『降りたい』と思うのなら。今すぐ辞表を書いてもらっても構わない。さあ、どうする?」
いきなり突き付けられた選択に、私はただ困惑するしかなかった。騎士を辞めるか、仕事の話を聞くか――どうして、こんな選択を迫られているのだろう。
私が答えられずにいると、ルーシェがそっと私の服の裾を掴み、
「わたし、アーテのこと知りたい」
ただ、そう言った。
私のことを知りたい――それは、私も同じ気持ちだ。ここで騎士を辞める選択をすれば、きっと後悔しか残らないだろう。
だから、私は頷いた。
「私も、ルーシェのことを知りたいです」
「いい答えだ。では、『特別士官』の説明をしよう」
――この日、私は騎士となり、同時にこの国の『秘密』を知ることになった。
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