第3話 『特別士官』
『ファールベイン王国』は大陸の中央部に位置しているらしい。
そう言うのも、この情報は古く言い伝えられてきた情報に過ぎず、明確に確認されたことはない。そんなことを確認するために、命を落とすような真似をする人間はいない――そう言った方が、正しいのかもしれない。
国外に出ることができるのは『騎士』だけなのだから。
正確に言えば、騎士以外も外に出ることはできる。ただし、命の保証はされることはない。
『ファールベイン王国』は地下数十メートルに掘られた巨大クレーター内にあり、ドーム状の屋根によって覆われている。
外界の敵――『魔物』を国内へと入れないための処置だ。
この世界において、人類がもっとも繁栄した時代はもう古い話で、今では世界を支配するのは魔物の方が圧倒的に多数となっている。
一個人で対応できる魔物の数など程度が知れていて、少し強い魔物ならば、簡単に人間を殺す力を持っているのだから、数が増えれば必然的に人類が追いやられていくことになるだろう。
魔物の増加により、今の世界は完全な弱肉強食で、人間達は弱者に分類されている。
生き延びるために、国外に危険な魔物が近づいてくれば排除する――そうやって、人類は生き延びる選択をしたのだ。
故に、ほとんど外界の者と接触することはできない。
まだ、私達以外に生きている人類がいることは間違いないけれど、知らないところで魔物に襲撃され――滅んだ国があってもおかしくはない。
ごく稀に、逃げ延びてきた人が王国にやってくることがあるので、今でも私の知らないところで同じように戦い、生きている人達がいるのだろう。
『前線』で戦うということは、すなわち国外に出て魔物と戦う者達のこと。
国内の人々からは英雄視され、確かに彼らは英雄であることに違いない。何せ、命を懸けて魔物と戦っているのだから。
騎士になった私は、そんな前線の部署ではなく、『特士管理課』と呼ばれる部署に配属された。
初めに私が呼び出されたのは『騎士団本部』――すなわち、王国の中心部だ。
そこで私は、とある一室で眼鏡の女性と対面している。
「アーテ・セルフィン。君のことはグランシフ氏から窺っている。成績は中の下で、騎士としての総合的な能力は決して高いとは言えない。少なくとも、前線に送れば初日で死ぬことだってある――そんなタイプの人間だと」
眼鏡の女性――フォルン・ダンクルは淡々とした口調で言い放った。全くもって否定できない言葉に、私はただ苦笑を浮かべるほかない。
さらに私を追い詰めるのは、目の前にいる女性が王国の騎士団長の一人であるという事実だ。
十三の騎士団に分かれていて、それぞれ決められた『方角』を守っている。
もちろん、危機的な状況があれば互いに協力し合うことになるけれど。
配属式が終わって、最初に向かうのは配属先の上司の元なわけで、つまりは私の上司は彼女ということ。
私の配属先は――騎士団長直属の部隊、というわけだ。
そんなの、普通に考えれば『エリートコース』であり、明らかに私には分不相応な位置づけに他ならない。
念のため、確認しておいた方がいいのかもしれない。
「あ、あの……」
「ん、なんだ。発言を許可しよう」
「ありがとうございます。私、『特士管理課』に配属されることになっておりまして」
「知っている。騎士団における配属に騎士団長である私も関わっているのだからね」
「あ、そうですよね。えっと、それで、今日は直属の上司にご挨拶をさせていただく、ところから始まるはずなんですが……?」
「だから、こうして対面で話しているじゃないか」
「そ、そうですよね!」
私はまた、笑顔を張り付けて頷いた。騎士団長が直属の上司で決定した――おそらく、同期の中に一人もいないだろう。
初めての配属先の上司が、いきなり騎士団を纏め上げる団長だなんて。
「私が言うのも、その、変な話だとは思うんですけど……」
「質問なら受け付けている。そのために、君はここにいるのだから」
「は、はい。ダンクル騎士団長が把握している通り、私の成績は士官学校でも中の下です」
「そうだな。先ほど言ったが、君が前線に配属されれば、明日にでも死んでいてもおかしくはないだろう」
「えっと、そんな私がどうして、騎士団長の直属の部下に……?」
「いい質問だ。君を選んだ理由は一つ――今回は士官候補生も含めて、『特士』との相性の良さで判断している。ああ、特士と言うのは特別士官のことだが、まずはそこの説明が必要か?」
「! はい、その名前自体は聞いたことがあるんですけど、具体的には知らなくて」
「まあ、当然だろうな。表向きには名前はある程度知られているだろうが、『特別士官』は騎士団における機密事項の一つだ」
機密事項――その言葉を聞いて、私は息を飲む。先ほどのイルマの言葉を思い出してしまったからだ。
特別士官には、犯罪者も含まれている、と。
「まず、君と行動を共にする特別士官を紹介しておこう」
「え、もうここにいるんですか!?」
「ああ、共に行動するのだから、当然だろう。ルーシェ、入れ」
フォルンが奥の部屋に声をかけると、ガタンッと物音が聞こえた。
私は一瞬、驚きで身体を震わせる。奥の部屋に――特別士官と呼ばれる者がいる。
ここでいきなり対面することになるとは思っておらず、心の準備は全くできていなかった。
身体中傷だらけの、屈強な大男が姿を現したらどうしよう――そんな風に考えていると、ガチャリと扉が開かれる。
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