第13話 私の婚約者が最凶すぎます
私の生活基盤がジェイドの離宮になってから一週間後。私に仕えていた使用人たちが犯罪奴隷となる判決が下り、私は自分の至らなさに反省していました。
「はぁ、ユーリに嫌われたくないと思って色々甘んじていたけど、最初から嫌われていたなんて知らなかった」
どうも私が奴隷商人のフォールに特別扱いされていたのが気に入らなかったようなのです。
そもそも私はお菓子はいらないから、珍しいものを見せて欲しいと条件を出していたのです。アレモコレモというのは都合が良すぎますからね。しかしユーリから見れば、一人特別扱いされていたという認識になっていたようです。
「そんなもの当たり前ですよ。貴族と民草と同じ扱いにする商人などおりません。馬鹿ですか?」
そして、私の離宮にいる時間が増えたため、執事のラグザから小言を言われる回数も増えていました。
もう、私は馬鹿でいいです。
「はぁ、出来たので、これを持っていってください」
そう言って私に小言を言うラグザに書類の束を渡します。これは皇帝陛下から私に下ろされていた仕事です。
「かしこまりました。私が戻るまで大人しくお茶でも飲んで、時間でも潰しておいてください」
ラグザは私に新しく紅茶を淹れて、私の私室からでていきました。殺風景だった私の私室は今では色々な物がジェイドから買い与えられ、人が暮らす部屋っぽくなっています。
まぁ、中央にドンと執務机が置かれていますが。
私の今の主な仕事は、帝国内の流通のデータを取ることです。これは皇帝陛下が唯一評価すると言っていた「フォレスタ地方の厄災」に関わることになります。
ある年、フォレスタ地方の収穫高が異様に高かったことが気になったのです。たくさん収穫できてなにが問題なのかと。
一年だけならまだしもそれが、二年目三年目と続きますと、何があったのだろうと疑問に思って興味本位でフォレスタ地方に足を運んだのです。
因みにジェイドが遠征に行っているときを狙いました。
フォレスタ地方にたどりついた私が感じたのは、異様に多い魔素でした。そして視覚化できるほど、魔素と魔素がぶつかり合い、爆ぜて全体的に明るいモヤで覆われている感じでした。
何が起こっているのかと調べている途中で、地獄の釜が開いたかのようにあふれかえる魔物の集団が現れました。
入口が表に出ていなかったダンジョンのスタンピードが発生したのです。
これは結局私が皇都に居ないと、私の魔力を目印に転移してきたジェイドが始末しましたが、一人で動くなと怒られたのは言うまでもありません。
あ、実は今回も私の魔力を目印にして部下の軍人を連れて転移をしてきたようなのです。それは突然騒ぎになって、驚いた騎獣が暴走して谷に落ちることになったそうです。ジェイドは何も言いませんでしたが、元奴隷商人のフォールが教えてくれました。
フォレスタ地方の被害は最小限に抑えられ、皇帝陛下から事の詳細を聞かれ、珍しく褒美は何がいいと尋ねられました。
私のことを皇帝陛下が初めて人として認識してくれた瞬間でもあったのです。ええ。それまでは、コレだとかソレでしたから。……今もさほど変わりませんが。
それからですね。私に皇子の婚約者として仕事を割り振るようになったのです。
「イリア様! イリア様はいらっしゃいますか!」
この声はジェイドの部下の第一部隊長の声ですわね。またジェイドが問題を起こしたのですか?
私は、ため息を吐きながら立ち上がり、部屋の外に出ていきます。え?ラグザに忠告されていたのではと? あの執事はジェイド主義なので、ジェイドに関することで文句をいうことはありません。
「どうされましたか?」
廊下に響き渡る声に向って呼びかけます。姿は見えませんが、私の声が聞こえれば、駆けつけてくるのはいつものこと。
「イリア様! 将軍がリヒター殿下を殺そうとされているので、止めていただけませんか!」
……リヒター殿下。ジェイドに言われてアスティア国の反乱を制圧に行っていたはずです。それがどうして、ジェイドがリヒター殿下を殺すことになるのでしょう。
「わかりました。場所はどこですか?」
「白バラの庭園です」
「珍しいところにいらっしゃるのですね?」
白バラの庭園は皇城の西側に位置するバラ園になります。今の時期は見頃です。しかし、軍部は東側に軍本部の建物がありますので、基本的に西側には赴かないはずなのですが?
そして私がたどり着いた白バラの庭園では、皇太子妃から皇子妃になられたシャンヴァルド公爵令嬢……間違えましたわ。アンジェリカ皇子妃様がお茶会を開いていらっしゃいました。
天色の髪が印象的なアンジェリカ様はとても困惑な表情である一点を見ています。
「どうして駄目なんですか!」
そう言っているのは銀髪の体格のいい男性です。私からは背後しか見えませんが、第三皇子だとわかります。
「リヒターが馬鹿だからですよ」
皇子モードで対応してるのはジェイドです。ですがその絵面がおかしいです。
ジェイドの右腕と左腕を必死に押さえ込んでいるのは、ジェイドの部下の方です。これは今にも第三皇子を切り捨てようとしているからなのでしょう。
「イリア様。将軍閣下を止めてください」
「はぁ。わかりましたわ」
何があったかは存じませんが、第三皇子を切ろうとしているのを止めればいいのですわね。
「兄上が良くて、俺が駄目な理由なんてないはず!」
近づいていきますと、ジェイドが私に気づき、胡散臭い笑顔を向けてきました。私の背後では黄色い悲鳴が聞こえてきますが、これはろくなことを考えてない笑顔です。
「ジェイド様。何事でしょうか? また、呼び出されたのですよ」
「丁度いいところに来たイリア」
ジェイドが私の名を呼んだところで、部下の方々がジェイドから離れていきます。これは後は私に任せたということなのでしょう。
「リヒター。イリアにも同じことを言ってみなさい」
私は何を言われるのかと、第三皇子であるリヒター殿下に視線を向けます。
「イリア様! 俺は真実の愛を見つけました! この聖女マリエを私の妻に迎えたいと思うのです」
リヒター殿下の隣には既視感のある象牙色の皮膚に、黒髪黒目の顔に凹凸が少ない異邦人と表現していい女性が立っていました。顔立ちは美人というより可愛らしい感じです。
それも私より少し背が高いですね。見た目は十五歳ぐらいですが、体つきは成人の女性。その女性は何かに怯えるようにリヒター殿下に身体をよせています。そしてマリエという名前。怪しすぎますわ。
「婚約者のレイアスタール公爵令嬢様はなんとおっしゃっておりますの?」
「それは……」
私の質問にチラチラと後ろを見ています。そこには金髪碧眼の私と同じ歳の令嬢が、苛立ちを顕にしています。
これは許しがたいことですわね。
「しかし! 兄上はそこにいるアンジェリカ様からイリア様に婚約者を変更されたではないですか!」
おお、当人がいるところで堂々と言う勇気は褒めてさしあげますが、あとでアンジェリカ様から色々言われるでしょうね。
こういう周りを見ずに色々口走るところが、皇帝陛下から次期皇帝候補から外される要因になるのです。
「リヒター様。私から言えるのは、皇帝陛下はお認めにならないということです。私も陛下から認めてもらうのに、数年を要しましたから」
ええ、結局この帝国では皇帝陛下以上の存在はいないのです。
「ああ、イリアは正しい。リヒター。それを皇帝陛下の御前で発言しなさい。そうすれば、答えはでてきますよ」
「は?」
「わかった! 兄上、父上のところに行ってくる!」
とんでもないことを言ったジェイドに駆け寄って、引き止めるように言うも、胡散臭い笑顔のまま私を見下ろしてジェイドは抱き寄せてきました。
「あの女がアスティア国を引っ掻き回した今回の反乱の首謀者です。丁度いいでしょう」
「それは無いでしょう! 彼女はどう見てもアスティア国人ではないでしょ!」
「おや? 彼女は聖女レイラの再来と呼ばれていたのですよ」
どこかで聞いたことがある文言ですわね。
「それにアスティア国を帝国から脱却させようと画策したのは事実ですからね。リヒターなら見た目と上手い口車乗せられて、ここまで連れてくると思っていましたよ。なにせ、マリエという者は人に取り入るのが長けているそうですよ」
どこからの情報かは予想できますが、少々悪意を感じます。
しかしリヒター殿下が連れてくるですか? 彼女を連れてくる意味があったと? アスティア国内で裁いたのでは駄目だということですか?
「リア以外の者が存在しているなど、許されませんよね。リアは一人でいいのです」
「りあ?リア!」
まさか! 一度しか姿を見せたことがなかった前世の私の姿のこと!
……リアという者は存在しないのに?
リアとマリエはどこか同じ様な存在だと気がついたということですか?
これマリエという存在は許せないが、リアとなにか関わりがありそうで躊躇していた?それで私の反応を見るために、弟と皇帝陛下を使おうとしている?
普通、ここまでしますか?
「イリア。あとは皇帝陛下が処分を決めることでしょうから、ラグザが持ってくる結末をお茶を飲みながら待ちましょう」
どこまで、ジェイドは先読みをしているのでしょう。
「リヒター。真実の愛を貫くには生半可では駄目だということを知るべきだ。そうだろう? イリア」
私に聞かれても……私の婚約者が最凶すぎて困ってしまいます。
後書き
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読んでくださいましてありがとうございました。
文字数がカツカツなので、活動報告で。
婚約者が最凶すぎて困っています 白雲八鈴 @hakumo-hatirin
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