第2話 正体



「乱暴してごめんね。僕の契約剣アグリメントも悪気は無いんだ」


八畳半の豪勢な部屋に、アルスと金髪の男性は対面ソファに座る。


「僕の名前はエレノラ・シャルロッテ。シャルと呼んで。あそこにいる契約剣アグリメントはクラルテ。僕と契約してるんだ」


シャルは自分と部屋の隅に置かれた白銀の剣の紹介をした。


すると、突然アルスは目の前にあった机を勢いよく叩き、体を乗り出した。


「ちょっと待て!何で剣が人の姿に変わるんだ!?」


アルスは素朴な疑問をシャルにぶつけた。


しかしシャルは、アルスが“その事実“に疑問を持つ事に、逆に疑問を抱き首を傾げる。


契約剣アグリメントが人の姿に変わるのは当たり前の事。学校でも習ったでしょ?」


アルスはキョトンとした。


その姿を見てシャルもキョトンとした。


「俺は学校というものに、行った事がない」


「えぇぇっ!?」


「俺は産まれてからずっと、師匠と山奥で暮らしていたからな。だから人里に降りてきたのも今日が初めてなんだ」


「えぇ…。今時、そんな人がいるんだ…」


シャルは驚愕した。


自分と年も変わらないであろう青年が、学校にも行かず、山奥で暮らしていた事に。


「師匠に列車のチケットと、よく分からんこの紙を持ってアリア何とか学園に向かえと言われて、とりあえずこの列車に乗り込んだんだ」


シャルは上質な紙をアルスから受け取った。


「これって、アリア魔法剣術学園の受験票だよ」


「魔法剣術学園?何だそれ?」


「主に魔法や剣術を教えてる歴史の長い学校だよ。とても人気で、毎年色んな国から強者揃いの人達が入学してくるんだ」


「おぉ!そんなすごい学校に俺は行くのか!楽しみだぜ!」


アルスは目を輝かせ、足をジタバタさせる。


「——ふーん。学園ねぇ」


シャルはボソッと言葉にし、受験票をまじまじと見つめる。


すると、アルスは興奮気味にジタバタさせた足を急に止めた。


「あっ、そういえばシャルの事、まだ解決してないぞ。髪色や胸、お尻も全部変わってる!なんか、男の子みたいな感じに。どう言う事だ?」


「その前に一つ、僕は君の名前を知りたいな?」


「あっ、そうだ!まだ名前言ってなかったな!俺の名前はアルスだ!」


「アルス?ラストネーム?」


「ラスト?何を言ってるかさっぱりわからん」


アルスは頭の上にハテナをいっぱい浮かべ首を傾げる。


「例えば僕の名前、エレノラ・シャルロッテはエレノラがファーストネームで、家族共通の名前。そして、シャルロッテがラストネームで親から授かった名前なんだ」


「じゃあ俺は、ラストネームだけだな。さっきも言った通り、産まれた時からずっと師匠と二人で暮らしていて、師匠にはアルスとしか呼ばれた事がなかったからな」


「アルスのご両親はどうしてるの?」


その質問にアルスは首を振った。


「会った事はないし、生きてるのか死んでるのかも分からん」


「あ、ごめん…。野暮な事聞いたね」


「気にするな。俺自身、気にした事がないからな!」


アルスはガハハと大きな声で笑った後、正気に帰り話を戻した。


「——まぁ、俺の事はいいんだ。それよりもシャルの事聞かせてくれよ!何で姿が変わったんだ!?」


シャルはその質問に対し、微妙な表情を見せた。


「あー…。えと…。やっぱ言わなきゃダメ…だよね?」


シャルは困った様に聞き返すと、アルスは勢いよく手を差し出し親指を立てた。


「言わんでいい!」


「えっ」


確実に詮索されると思っていたシャルは、アルスの言動に思わず声を漏らす。


「言えない事情があるんだろ?だったら無理して話す必要もないし、俺も無理に聞かん」


アルスは立ち上がり、ソファの横に置いていた打刀を腰に差した。


「悪かったな長居して。係の人に言って部屋を変えてもらうから、また何処かで会えたら——」


アルスは部屋を後にしようとドアノブに手をかけた途端、言葉は途切れ地面に倒れ込んだ。


「ちょっ!どうしたの!?」


シャルは慌ててアルスに駆け寄る。


すると、アルスのお腹からグゥーと大きな音が鳴った。


「——…ハラ…ヘッタ…」


「えっ」


シャルは腑抜けた声を漏らした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

ゼロ魔力剣士と契約剣 駄犬 @daken-7

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ