第57話 強行

空間に謎の黒いホールが現れる。

それは黒いモヤを出しながら、浮いている。


白田はそれを警戒し、無闇に攻撃しないかず、様子を見る。


千都は黒いホールに右腕を突っ込んだ。

ゆっくりと、ホールから右腕が出てくる。


場は、やばいものが出てきそうだ、と言わんばかりの雰囲気となっていた。


すると、それは姿を見せる。


ゲームとかで勇者が持っている伝説の剣?


十字架の剣が黒いホールから出てきた。

至ってシンプルなデザインで、人によっては………ほとんどの人は100円ショップに売っているおもちゃ?と思ってしまうぐらいのレベルだ。


俺は演出がかっこよかったから………

自分の精神年齢は幼稚並と、肩身が狭かった。


千都は完全にそれを取り出すと、シャボン玉が弾けたかのように、地面に風圧が舞い上がる。


それに反応できた者はいない。


もちろん千都の狙いは白田だ。


白田は攻撃に間に合わないと察したのか右腕を胸より上に上げ、折れた単刀の先を腹部に向け、防御の体勢を取る。


俺はふと思う。

千都が持っている剣がただものじゃなかったら?

白田が持っているただの刀で相手ができるのか?


俺は決して白田の実力を疑っているわけではない。

だが、武器の格が違うなら、防御しても意味がない。


俺は………


「白田!!」


俺のことはいいから避けろ、と言おうとしたとき、新たなる救世主はやってきた。

 

俺は一瞬、彼の目が見えた。

彼は最初に会ったときの目ではない。

もう彼とは思えない目をしていた。


彼の刀と千都の剣が白田の前で触れ合うとき、千都の剣が一瞬して崩れ去った。


彼が刀を振り切る前に千都はまた後ろへと下がり、体勢を整える。


「ふふ……君たちは実に運がいい。僕の自慢の武器が一瞬にして、崩れ去るとは思ってはいなかったけど、これは想定外の想定外はどうしようもないことだ。対EAも来そうだから、本日はあの2人を救出して、御暇させていただくよ」


そう言い終わると、また黒いホールが現れ、千都はそれに吸い込まれ始める。


「待て」


「櫂須磨様!!お待ちください!!」


彼は白田に聞き耳を持たず、得体の知れない黒いホールに突っ込む。


「お前が待て、櫂須磨!ゲホッ!ゲホッ!」


うつ伏せの状態で左腕の前腕と右手のひらを着き、吐血しながら、櫂須磨を止める。


櫂須磨は中井の命令により、追うのをやめる。


中井!?無事だったのか!


俺は中井の無事を確認するが、無事ではなかった。

意識を保てているのが、精一杯なのだろう。


「では、諸君。また会おう」


千都は不気味な笑みを浮かべ、手を振りながら、黒いホールの中に完全に取り込まれ、黒いホールは消滅した。


あの笑みの意味は次会うときにはおまえを絶対に殺す、という意味なのだろう、と思うと俺は少しゾッとした。


千都が去った後、俺たちがすぐに思ったことは、


「健斗様!今から応急手当てを!」


「美優も待て。その前に確認することがある」


周囲から危険が去った後、誰よりもすぐに白田が中井に駆け寄ろうとしたが、中井の言葉がそれを邪魔される。


白田はとても心配しているオーラが飛び出しながら、一歩前に踏み出す。

だが、すぐに自分の気持ちを抑え、面伏せた表情で、はい、と喋り立ち止まる。


そして、その言葉により、白田以外の人は1mmも動けなかった。


中井は弱りきった身体で立ち上がり、成り果てた鴨島へと、歩き始める。


鴨島の息はまだある。

でも、もう尋問する体力は残ってないぞ?


中井は最高の笑みを浮かべることもなく、ただ鋭い目つきをした無表情で、鴨島を見下ろす。


「俺たちを排除するため、洗脳した野田,須葉を向かわせ、まさかの敗北。次善策として、ここへ誘導し、自身の手で仕留めようとしたが、相手が悪く幹部に助けを求める。だが、おまえは見捨てられた。わかるよな?」


鴨島はそれに頷くこともなく、目を死ななせたまま、下向いている。


空気が重くなった…

みんなが鴨島ではなく、中井への恐怖が高まったからだ。


中居への恐怖で動けない俺と仙道、主人への命令に逆らえない白田,櫂須磨、ここにいる誰1人も中井が限界の極地にいたことはわからなかった。


「最後におまえはなぜ村治の剣を洗脳し、櫂須磨に勝たせた?」


中井がもぬけの殻となった鴨島に最後の質問をする。

一度たりとも動かなかった鴨島は咆哮するように、いきなり顔を上げて言う。


「おまえと一緒に地獄に行くためだぁぁ!!」


中井は鴨島の咆哮と共に口に溜め込んであろう血を吐き、倒れる。

またいち早く動けたのは白田だけだった。


大量出血している人が出させる声量じゃない!?

なぜ、あんなに出せる……?


中井が倒れこむ前に頭と背中をキャッチし、両膝をつける。

一瞬、見えた白田の顔は憎悪と後悔が写り、大雨雲が激しく降り注いでいた。


鴨島は青灯幹部に凛々しい姿で、限界であろう身体で立ち上がる。


「これは誰もが予想しなかった結末だ、中井。本当はおまえとちゃんと戦いたかった……ふ、中井、これで生き残れれば、おまえに幹部の座を譲ってやるよ」


最後のレジスタンスとして、白田と同等なスピードで中井へと地面を蹴り上げる。


あ……、俺はあることを思い出す。


2人の出血量を比べる。

明らかに中井の出血量の方が多い。


「まさか………」


「白田さん!!」


仙道は大声で白田に危険が迫っていることを伝えようとした。


鴨島の拳は白田の頬に練り込み、白田は壁まで飛ばされ、壁にヒビが入る。


「グォ…」


白田の口から、血が吹き出る。


鴨島に気づいていない白田は何の防御を取っていない。


動けるものは、もう………


「中井、じゃあな」


染み馴染んだ染まった右足は高い高い壁を超えるように登る。

落下地点は前頭部、彼は動く気配はない。

登り切った足はかかとを振り落とす。


"中井"が殺される…?


俺は小声ですまん、と言い仙道の肩を薙ぎ払い、その勢いと左足の一歩で鴨島に近づく。


「こっち見ろや!!鴨島!!」


鴨島はかかと落としを止め、俺を見るが、中井へと視線を戻す。


こっちを見た!と思えたのは一瞬だけであり、見なくなった理由は俺が確実に届かないと判断したからだ。


クソッ、届かない!!


彼らと目前で俺は倒れ転けてしまう。

すぐに右腕と左足で立ちあがろうとするが、片腕,片足だけで立つことに慣れておらず、うまく立ち上がれない。


無慈悲な足は強烈なかかと落としを再び繰り出す。


視線は中井から純血な床へと移ろう。


クソッ!クソッ!

鴨島が自分の血液を支配し、死ぬのを遅らせ、千都たちがいなくなったのを、確認してから、中井を洗脳。

そのまま、中井を殺し、自分の洗脳を解き、死ぬ。

ここまではわかった………のに………

片腕,片足を失った俺には何もできないのか…?


「決めつけるな!!」


そのとき、仙道の声だけ聞こえた。


力を振り絞れ!


俺は残った全身を使い、鴨島の足を右腕で抑えに飛びかかった。

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