第56話 箕田美家の御令息

「な、なぜ、それをおまえが知っている…?」


俺は息をするのも忘れるぐらいに愕然とした。


なんで俺が箕田美ということを知っている?

俺が薮野ではなく箕田美ということを知っているのは箕田美家の極一部と、中井のみ。

中井がバラすわけもない………


数秒間の沈黙、俺の思考が続いた。

俺に考える時間をあげていたかのように男性は発言する。


「俺のことを思い出したかな?いやまぁ、無理に近いか。俺と会ったのは2歳以来だがらな」


俺は更にパニックに陥る。


2歳以来!?どういうことだ!?

俺は幼い頃から大学生まで一般人の世界に出たことがないんだぞ!?


そう俺は高校生までは両親から一般人と同じ世界に行ってはいけない、と何度も言われ、外に出たくても出れなかった。

だけど、大学生になったら、なぜか大学に行かせてくれた。

その意味は俺にはわからなかったけど、外に出らたことが嬉しすぎて意味なんてどうでも、良かった。


話しは戻る。

こいつはなぜ、俺の事情を知っているのか。


男性は正体について話すのか、口を動かす。


「僕の名前は村…いや、箕田美 千都 (みたび せんと)。者時の実の兄であり、箕田美家から追放された者だ」


俺はピカッと閃いたように思い出す。


追放?何か聞いたことがあるぞ!?

昔、使用人の人たちが誰かを追放したという話しを盗み聞きしたことがある。


「僕は者時に危害を加えるつもりはしない。ただ、使えないやつらを消しにきただけだ」


消しにきた?まさか!?


俺はその言葉と同時に残った右腕で仙道の頭に手を載せ、下げる。


「え?」


サッ


ノイズは走り、そのノイズは仙道の後ろにいた前田 翡翠歌の顔面に当たる。

一瞬にして、美貌な顔は消し飛び、血が飛び散る。


仙道はそれを見ると、驚愕し声も出なかった。


「あれ?隣にいたビビリくんを撃ったつもりだったんだけどなぁ」


「何をする!!」


俺は後先考えずに強く、言葉を投げかける。


「何って、消しにきた、と言ったじゃないか、者時」


その後、千都は呆れた顔と嬉しそうな顔で入り混ざっていた。


「………」


俺はそれに対して、同じく声を発する事ができなかった。


その時だった。

千都の注目が俺に向いた瞬間、野地 奏多はその隙を逃さずに食堂と本校舎が繋がる連絡通路へと走り出した。


サッ


「俺はまだ!やりたいこ………とが……」


ノイズがまた走ると、野地の背中に穴が開いた。

野地はそのまま、バタッと倒れる。


これで2人死んだ。


俺はとうとう身体までも固まってしまう。


「………」


次は…誰だ…?


「箕田美さん…僕の仕事はこれで終わりですよね…?」


天堂は命令に従っていたかのように、千都に話しかける。

千都はご苦労だった、というと思ったが、最悪の予想通りの結末を辿った。


「ああ、君の仕事はこれで終わりだよ。天童 道哉くん」


千都は一瞬に右手を天堂に向ける。


サッ


また1人、ノイズと共に穴が開き、バタッと倒れる

俺には千都がキレているようにしか見えなかった。


「あと、1つ言い忘れたことがあったよ。天堂くん。俺の名前を呼ぶときは、村治 (むらじ)、て言ったよね?残念だよ」


千都の顔はどんどんと狂気に満ちていく。

息も止まるぐらいの空気が漂う。

仙道は震えどころか完全に動かなくなった。


「………」


空間にはただ杉本の独り言が響くだけになった。


サッ


「頭?え…?」


独り言も消え去る。

残ったのは力尽きて倒れている中井と俺と仙道のみだ。


千都はゆっくりと仙道に向かって歩いてくる。


仙道の顔色は青ざめていく。

次は俺、かと。


「さぁ、最後の君には最後の一言を言わせてあげるよう、と言っても急には困るよね。1分間猶予をあげるよ」


千都は仙道の額に銃口を当て、数え始める。


「1,2,3,4………」


このままでは、仙道が殺される………

俺が…俺が…どうにかしないと………

仙道だけではない。

ここにいる人全員がこいつに殺される………


俺は諦めかけたとき、喋らないと思っていた仙道が喋り出す。


「えーと!!聞きたいことがあるのですが!!よろしいでしょうか!!」


キャラ崩壊………

それより、喋るのか!?


仙道は持ち前の(弱気の)コミュ力を発動した。


「まぁいいだろう。どうせ殺す、しね。で、なんだい?」


千都はこれにのった。

俺は賭けに出たのか?と一瞬思ったのだが、こいつがさっき話した俺の兄ということが本当なら、俺と性格が似てる、と判断したのか!?


「野田さんと須葉さんのことなんですが!!彼らは鴨島さんに操られていたのですよね!!」


まさかの1回答で終わる質問だあぁぁぁぁ!!?


俺はこの後、褒め称えようと思ったが、これじゃ………

いや、良い時間稼ぎと情報提供です。


そして、俺の身体は少し動くようになった。


「ほぉ。賢いな。確かに2人は鴨島に操られていた。野田は好戦的だが、相手に猶予を与えないし、あんなことはしない。須葉はこうちゃんという人物以外の命令は聞かない。そこから推理したのか…。でも、須葉は思いが強すぎるあまり自分で洗脳をたいたけどな」


なんか!?謎に明かし始めたぁぁぁ!!?


そして、俺は少し喋れるようになる。


「はい。そうですね。あともう一つは………」


仙道は間を空ける。


最後の一言から二言になっているが、千都はこれに対し、どういう反応をするのか。


「?」


「ここで死ね!!」


まさかのここで敵対ぃぃぃぃ!!?


「仙道!!!」


仙道の暴言により、千都は引金を引いたようの見えた。


「あれ?確実に切れた、と思ってたのですが、流石、青灯の幹部さんですね」


千都は突きつけていた銃の引金を引こうとしたが、扉から飛び出してきた白田に気づき、銃を離す。


白田は持っていた折れた単刀で千都の首を狙い切り込んできたが、千都は後ろへと交わした。


この声は!?


「危ないすっよ。白田さん。自分も心臓破裂仕掛けましたよ」


「そうですか?それは大変申し訳ございません」


視界に映っていたのは、仙道を抱き抱えていた白田だった。


「白田さん?なぜここに?」


すぐさま、仙道を下ろし、千都を睨んで白田は言う。


「薮野様、わけはこの後にしましょう。今はこの方の処理を」


心の中で頼もしすぎると叫びながら、俺は返事を返す。


「ああ」


俺は何にもできないけど…な。

勝手に話しを進めている俺たちに千都は怒りを露わにする。


「何勝手に進めてんの?俺を無視するなや」


ここからが、本番(俺の)だ。

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