第55話 無謀

「ありがとよ!中井くん!これでまた夢が叶う!!」


破裂仕掛けてあるインフィイクを手にし、杉本は何かもがどうでも良くなったような感情を剥き出しにした。


「あぁぁぁ!!!脳汁が止まらないぃぃ!!」


俺は呑気にイかれた野郎だ、と思ってしまった。


それより、さっき意識が遠ざかった。

あれは、貧血なのか?

いや、それは違う。

致命傷は避けている。

この傷程度では致命傷にはならない…


異能の"使い過ぎ"が原因、か。


俺は異能 大気で、未知の物質であるIZPガスを発見し、その物質が使えるということに気づいた。

そこからは練習!練習!の繰り返しで、なんとかギリギリで現状はインフィイクを保てている。


だけど、そうし続けていると、俺は力尽きる。

なら………


薮野は杉本に警告する。

早くしないと、自分諸共ぶっ飛ぶぞ、という言葉


「杉本さん!!!それはもう、限界に近い!!!早く手放して!!!」


だが、杉本はそれに聞く耳を持たない。

今、杉本の眼中には学生だけで作り出したインフィイクという未知なる武器に。


"最後の勧告"を杉本は無視をした。

じゃあ、殺す。


殺意が解き放たれる。

少し重い足を前に一歩踏み出す。

そのときだった。


"もうやめようよ"


俺の中で誰かの言葉が響き渡る。

俺は激しい頭痛に襲われ、両膝を地面に着く。


「ア゙ァァァァ!!!!!」


頭が四方八方から引っ張られる!!引きちぎられる!!頭が破裂する!!

なんだ!なんだ!なんなんだ!


「中井!!!」


薮野の声で俺はほんの一瞬、正気を取り戻す


「終わりだ。中井 健斗」


鴨島は姿を表したときには俺の背後にいた。

激しい頭痛に狂わされながら最後の抵抗をしようと思ったときには刃物が喉元に来ていた。


俺はもう間に合わないと悟り、命を終わりを知る。


なんだよ…?これは…?

こんなあっさりと終わるものなのか…?


いや、違うだろ?

紗耶香の人生を台無しにしたやつを殺すまでは俺の生命は終わりはしない。


インフィイクに纏っていたIZPガスの一部を刃物が当たる首元に直径2mm×2mmで張る。


刃物の軌道は少しズレた。

刃物は俺の首を掠る。


IZPガスで軌道をズラし、致命傷となる怪我を負わずには済んだが、まだ激しい頭痛は続いている。

長く持っても、あと数秒。


インフィイクの3発目を撃ったところで、ここ一体が消し飛ぶだけ。

肉弾戦しかない。


俺は右手で薮野に暗号を伝え、鴨島は刃物を投げ捨てる。


頼むぞ、薮野。


俺の思考は脳から身体へと移り変わる。


俺と鴨島は運命の一歩を踏み出す。

その一歩は攻めの一歩となる。


これは無謀に過ぎない。

鴨島は空手全国大会2連覇をする猛者。


そいつにヌキを見せた状態で、真正面から殴りにかかることは…


勝つ確信も自信もない。

だけど、今の俺にできることはこれしかない。


この一撃に全てを賭ける!!


昔、紗耶香に教えてもらった。


良いパンチングは最初の一歩から。


2人は2歩目を踏み出す。

これで勝負が決まる。


サッ


人間にとって、ほぼノイズに近い音が一刹那鳴る。


銃声だ。


軍人でも、達者でも、この一瞬では判断しにくい、音を俺は理解した。


そのときは気にしなかった。

目の前に血飛沫が飛ぶ前までは…


その血が誰のかを認識するわけもなく、しっかりとタメを作って、顔に向かって殴り込んだ。


拳が来ることがなく、鴨島は後ろへと殴り飛ばされる。


何が起きたんだ?


これは鴨島に勝てた歓喜ではない。

なぜ、鴨島が飛んでいたのかを理解できていないことについて、だ。


 

俺は右手を見ると、拳が赤い液体に染まっていた。


血、か?


もう一度、あのノイズが走ったときには、俺は意識を失い、それと同時にIZPガスが散った。


5月21日13:04 食堂 2階


中井と鴨島の戦いは乱入者によって、幕を閉じた。


いきなり現れた男の両肩に青い炎の紋章が描かれていた。


青灯幹部!?


3人が混乱,恐怖などを感じている中、俺はこいつの目的についてを考え始める。


目的は鴨島の後始末なのか?


俺は唯一の生きた目で青い炎を見ながら。顎に手を当てる。


鴨島は青灯にとって、邪魔な存在だったのか?


青灯幹部である男性が片手に俺らが知らない銃を手にして言う。


「お疲れさん、鴨島くん。君の役目は終えたよ」


壁に倒れ込む腹部に大きな穴が開いた鴨島にその男性は告げた。


「き………、貴様………」


鴨島はそれ以降喋ることはなく、これから起こることを呆然と眺めていた。


こいつの発言で、鴨島は殺す予定だったことはわかった。

だが、鴨島の異能 洗脳はかなり使えるものだ。

もし仮に俺がその立場なら、それをここで捨てるなんて、勿体なさすぎる。

でも、それは鴨島が本当に青灯にとって、有効性があった場合だ。

鴨島が最初から、青灯に逆らう気でいたのなら、話しは別だ。

きっと、異能とはまだ未発展な部分が多い。

だな、現状は組織が乗っ取られる可能性はかなり低い…

中井を見て、異能は磨くことで育つことは確認済みだ。

育ち切る前に、乗っ取られる前にに殺したい、ということか。


次に静寂な空間に言葉を発したのは、インフィニティブレイクを持つ杉本さんだった。


「あれ?何だ…?これは…?」


杉本さんは謎の独り言を発し始める。

後方では、1人は酷く怯え、足の力が抜けている。もう1人は怯えてはいるが、逃げる隙を伺っている。

鴨島はもう動く力も残っていない。

そうなると、次は俺ら、か。


誰かから殺すのか、と意識があれば中井なら思って何もしなさそうだが、俺は違う。


時間を稼げ!!


杉本さんがぶつぶつと謎の独り言を呟く中、男性は鴨島を警戒しているのか、ずっと見ていた。


こっちを見たら、話しかけて時間を稼ぐしかない。

稼げても数秒程度だろうが、この足と手じゃどうしようもない。


男性は鴨島はもう動けないと判断したのか、こっちに振り向く。


「あなたは俺たちをどうするつもりですか?」


俺はあまりにも狙っていたようなタイミング、振り向いた瞬間に話しかけてしまった。


あ、やべ。やらかした?

撃たれるか?


俺の内心はヒヤヒヤと少ししかない冷静さを失っていく。


男性は意外そうな顔で少し驚いていた。


「流石だね。箕田美家次期当主 箕田美 者時(みたび ものとき)くん」





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2024年11月28日 23:00 毎日 23:00

ゾンビ感染が流行する前に親から送られてきた少女が優秀過ぎた バナナ連合会 @Banana42345

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