第51話 繰り返し

5月18日16:32 カフェ


「ここまで俺を連れてきて何をする気なのですか?中井先輩?」


なぜか俺だけ体育館から連れてこられた。

敵がたくさんいると言うことは、俺を殺すつもりなのか?

いや違うな。俺を使って何をする…


「おまえには死んでもらう」


相変わらず、人を殺すのに躊躇のない目をしている。


中井先輩は青色の液体が入った注射器を持って、近づいてきた。


ふ、何をさせられるのかな。

じぃちゃんはどう思う?


俺は耳元で何かを言われた後に液体を体内に入れられた。


すると突然、身体が痙攣し始める。

この痙攣は…


「中井先輩、俺をゾンビにして殺すつもりですか?」


「そうだ。痛めつけられて殺された方が良かったか?」


「いえ、殺されるなら、こっちの方が楽です」


表情を一切変えずにやれることがすごいなと実感した。


"大丈夫、信じろ"


OK♪じぃちゃん。


俺は身体の力を抜き、目を閉じて安堵した。


5月21日12:56 体育館


高杉 真優美

彼女は表ではその容姿端麗で感情を露わにしないことから、白蓮の女王と名付けられ、イギリスを勝利に導いた者のように、たくさんの家来を従わせてきた。


それはあくまでも表での話。

裏では家来をこき使い、狙いを定めた女の子を片っ端から地獄へと陥れる最低最悪の完全なる悪女。


彼女の家来はそれを全く気にしていない。

いや、気にもしていない。

彼らの眼中には女王だけしか映っていない。


理由はわからないけど、そこをうまく利用すれば………


私は大き過ぎず、小さ過ぎない声で叫ぶ。


「信じてくれなくてもいい!ただついて来てくれるだけ!」


私は彼女らに理解をさせる時間を作る。


「とは言ってもついて来ないよね。王宮の中にいる女王様はこんな簡単なこともできないよね。呑気に農民たちとそこで暮らしておいてね」


煽り満載な言葉。

それは女王に放った言葉ではない。


女王の周りにいた最後の家来たちは反論する。


「女王様にできないことなんてない!!女王様、もちろんついて行きますよね?」


家来が放った疑問は女王の心の中へと潜り込む。


彼女は1人では行動できない…

そのことはイジメらめていた私にもわかる。

私がイジメられていた頃、彼女は決して私には自ら手を出したことはなかったし、その素振りすら見せなかった。


「ッ!そんな簡単なことぐらいできないと思っ」


よし!のった!と私は認識していたが、急に女王は時が止まったかのように動かなくなった。


みんなは彼女の腹部を見ていた。

私は彼女の表情を見ている。


「え?」


私はその言葉で顔から全体へと視線がいく。


腹部から血が…


腹部に刀が突き出しており、口からも血を吐いた。


言葉が急に止まったのは、誰に刺されたため?


女王は誰かに蹴られたかのように前へと倒れ落ちる。

その女王は誰からの助けを貰えずに地へと着く。


私は怖くて動けなかった。

ただでさえ、一緒に頑張ってきた人たちが一瞬で死んだ…

え?

私の中で「それは嘘」という言葉が浮かび上がる。

本当はみんなからイジメられるのが、怖いだけ?

何かを間違いたら、またあんな怖い思いするだけだから、私は間違えないように、みんなを全力でサポートしていた?

私が私ではなくなっていっている。


怖い………

怖いよ………健斗くん………

私はただ、昔のように………

心の底から笑っていられる時間が

          欲しいだけなのに………

これを続けていたら、

   昔の「私」には

戻って来れない気がする………


私が持っていたはずの自信がどんどんと失われていく。

私のポテンシャルのポジティブがどんどんネガティブへと変わっていく。

私の中の「私」がどんどんと死んでいく。


健斗くんは本当に私のことを思っているのかな?

でも、もう、私は信じる人は健斗くんしかいない………


-

5月16日1:37 出発前


私たちは荷物を車へと詰め込んでいた。

私はリュックを手にし、車へと運んでいると、肩に手をかけられ、ビクッとした。


「誰?」


震えながら、思わず声を出してしまう。

振り向くと大好きな人(?)がいた。


いきなり不意打ちされたため、頭が真っ白なままモジモジし始める。


「ちぇんとくん!?ど」


健斗くんはいきなり私の口を塞いだ。


その瞬間、名前を噛んでしまったという羞恥心に襲われる。


だが、私は名前を噛んだことに対して、怒っちゃったのかな?何されるのだろう!?などとは思わなかった。


なぜなら、私は私が知っている健斗くんではないようにさっき感じてしまったから…


玄関でイジメられていた人に躊躇いもなく殺そうとし、私の気持ちにさえも気づいていなかった。


あのときは、本当に健斗くん?て思ってしまっていたけど、あの後の行動でまだ私は本当に健斗くんなの?と動けなかった。


でも、私と同じように長いこと会っていなかったし、健斗くんにも何か事情があって変わってしまったのかもしれないと、思い直し昔のように接する!!と気持ちを切り替える。


「紗耶香。俺たちは当分会えなくなるから、先に言う。紗耶香は自分の選択を信じ続けろ。それが俺の助けとなる。だから、頼んだよ」


私はまた不意打ちされる。


また不意打ちしないでよぉ!


私はさっきの羞恥心を忘れ、更にモジモジするのである。


-


私が接してきた健斗くんは頼み事は言わなかったし、助けを必要とする人ではなかったけど、きっと私のように変わったのだろうと思っている。


健斗くんの助け…か………


唯一、イジメられなかった体育館の天井を見上げる。

私の心は不安から安心へと変わっていく。

ここにいるときだけが、私を楽にさせてくれた。

ここがあったから、今を生きてられている。


ふふ、健太くんの役に立って、褒めてもらうんだから!


その数十秒間、私は周りの景色が変わっていることに気づいていなかった。


「なぜ!おまえがここにいる!?」


「それはあなたたちのボスが選択を誤ったからですよ!」


俺はそこら辺に落ちていた刃が欠けていた刀を手に取り、高杉とその取り巻きを殺した井山と交戦している。


俺は何分間、寝ていた!?

それに頭は白くなっていく。

青灯の2度の襲撃を受けた遊佐木は焦っていた。


切り替えろ。

後でそれは考えろ。

ボスはおそらく中井のこと。


俺は"選択を誤った"という言葉に着眼点を置く。

これでようやく、俺の中の歪みが少し繋がった。


中井はおそらく作戦のことを青灯に伝えていた。

それは裏切りではなく、相手の裏を着くためにだ。

まず、仙道を使い、白蓮大学生徒をまとめ上げ、予め伝えた指揮を仙道に託す。

α,β,γに分け、それぞれの能力を生かしながら、目標を達成する。

だが、それは青灯の方が遥かに戦力と戦ったため、こうして今の状況へとなっている。


俺たちは今、負けて…いるのか?

本当に?


俺は中井が本当に全生徒を救おうとしているのか?と疑問に思った。


那斗の件から見て、俺は目の前の人を見捨てる人には見えなくなってしまっているだけか?


本当はそんなことは一切思っていなく、知り合いだけが助かればいいと思っているだけなのかもしれない………


今だってそうだ。

絶望的な状況なのに、何一つも覆すような指示も来ていない…


俺は俺の考えを考え直す。




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