第48話 機転と奇襲

矢を放つ。

1体また1体と倒れていく。


よし!あと、2体!


5月19日14:27 体育館横


本当に俺がゾンビに殺すことができるのだろうか…


俺は小さい頃から、虫や魚だけではなく自分より年上の人が怖かった。


どこかに行くだけでも、辛かった。

周りにいる生き物全てが自分に何をしてくるかを考えるだけでも、気を失いそうになっていた。


俺はそれを思い出すだけど、吐き気がしてきた。


「仙道?仙道?大丈夫か?」


「ん?ん!?だ、だ、大丈夫でぇす!!」


薮野さんに教えてもらっていたことを忘れ、昔…いや現状の症状について考えていてしまっていた。


「そ、そうか。何か辛いことでもあったのか?」


な、なんでわかるの!?


俺は考えていたことが見抜かれていたのか!?と思い驚く。


俺は話すかどうか迷ったが、なんだかんだあって話してしまった。


「それで、どうすれば、白蓮大学の人脈を広げられたんだ?」


それはそう思う!!

俺は勇気を持って、1人に話しかけたのだが、いつの間にか俺の名前は白蓮大学中に行き渡っていった。


それから鴨島に出会うまでは顔の知られた陰キャだった………


「顔色悪いが、本当に大丈夫か?」


「は、はい。大丈夫です…練習の続きをしましょう」


それから、薮野さんは深追いすることなく、付き合ってくれた。


5月21日12:55 テニスコート付近


4本目の矢を放つ。

ゾンビはまた1体と倒れてゆく。


あと、1体。

集中しろ。

この時のために、練習してきたのだろう?

だから、ここで決めてやる!


俺は矢に手を伸ばすとあることに気がつく。


なんで!?

弓摺羽,走羽,氛萄が全て取れている!?


俺は迫り来るゾンビを前に完全に停止をする。


矢を撃たなかったら、ゾンビを倒せない!


それに薮野さんは気がつく。


「仙道!!もういい!!置いていけ!!このままでは2人とも死ぬぞ!!」


俺は一瞬、躊躇する。

前の俺なら、自分の安全を最優先にしてきた…


薮野さんは優しくて、人思いで、こんな俺にも優しく教えてくれた。


だから!薮野さんに死んで欲しくない…


俺は弓を投げ捨て去れる。


「仙道!!何を………」


薮野さんは俺が何をするのかわかったようだ。

すみません。薮野さん………


「うぉぉぉ!!!」


一本の矢を手にゾンビを頭を目掛けて。


撃てないなら!自分が威力の代わりにならばいい!!


ゾンビの腕が俺に触れる瞬間、矢を持った腕を思いっきり振る。


「いっけぇぇ!!!」


矢は頭に突き刺さり、ゾンビの頭を飛ばしていた。


それに浸る時間を作ることなく、薮野さんに肩を貸し、食堂へ向かう。


12:48 体育館


包丁が俺の頭をかち割ろうとしたとき、次は視界が奪われた。


何が起きてる!?


金属と金属がぶつかり合うが体育館内が一瞬、静寂と化した。


俺は距離を取り、状況把握をする。


男の両肩には青い炎の紋章。

さっきのは甲斐委員長が撃たれ、落下した音。

視界が奪われたのは白田の背中が寸前にあり、刀同士がぶつかり合っていた。


男の顔を再度見ると、俺は思い出す。


リストに記載されていた青灯 幹部 在間・ゲンミュス。

野田と須葉同様、異能使いと所定する方がいい。


「白田!そいつは在間・ゲンミュス。おそらく異能使いだ!」


白田に事前に知らせる。


仮にこれが違ったとしても、警戒し…!?


後方から、ものすごい殺気を感知し、人とは思えないバク宙する。


反射的にかわしてしまったが、狙いは俺ではない!


「白田!!ステルス接近!」


俺は視線を集めながらも、気にしなかった。


在間と交戦する白田との距離わずか30cmのところでステルスが解ける。


両肩に青い炎。

青灯 幹部 井山 蘭一郎!


井山は片手にナイフを持ち、白田に襲いかかる。


それに白田はすぐに気づいたが、致命傷はもう避けられない。


「堕ちろ」


「それはおまえだよ?」


「な!?」


これを見抜いていたかのようにギャラリーにいた男子生徒が井山を拘束し、事情聴取を始まる。


「YESかNOで答えろ。井山 蘭一郎 異能 ステルス。在間・ゲンミュス 異能は裏世界あっているな?」


拘束されている井山はYESと答えた。


「ははは、神がかっているね」


「そうですね」


井山は男子生徒の拘束を簡単に振り解き、では、また今度、無念を晴らしに来ますと言い残し、青い炎となり、消えていった。


その一方、一瞬の隙を見せた白田はなんとか凌いでいた在間の攻撃を耐えられなく、刀と共に壁に押し飛ばされ、衝突した。


白田は全身に力を入れているが、起き上がれない様子であった。


脳を消費することにはなるが、ここを防衛しなければ死んでいった者たちへの無念が晴らされない…


刀のとの距離7.34m。

刀7振りを避け切れば、届く距離。


消費をし始めようとしたとき、


「待て。遊佐木 瑛太。切り札は最後まで温存だ。俺が出る」


身体が動かない!?


井山を退けた男子生徒が俺の動きを止める。


「ゲンミュスとか言ったな。俺が相手してやるよ」


「そうしたいところだが、残念だ。タイムオーバーだ。また今度、やり合おう」


在間もまた青い炎と共に消えていった。


あれは在間の異能なのだろうか。


それより、あのとき見せられたのはおそらく他人。


「羽柴 夜光。それが君の名前だな」


「お、正解です。流石は中井さんのお仲間さんですね。申し訳遅れましたが、私は羽柴 夜光と申します。以後お見知り置きを」


「羽柴。作戦の内容を全て知ってるな?"俺たち"に教えろ」


まずは作戦の実態を掴んでおかないと、更に犠牲者を出すことになる。

でも、こいつは"俺たち"に教えてくれるのだろうか?


「ふふ、"俺たち"には教えられませんね。"俺"なら、多少はお伝えられますよ」


やはり"俺たち"は無理か。


「じゃあ、その多少を教えてくれ」


羽柴は耳を貸してくださいと言い、少し考えてから、言う通りにした。


「わかりました。この作戦の真の目的は有望な人員集めです」


俺は表情を変えることもなく、中井の考えが理解できた。


動けるやつと動けないやつを別れさせたのは、戦力のためではなく、選抜をするためだったのか。


となると、運動部の方はほぼ全滅………

こっちもほぼ全滅………


俺たちがやってきたことは一体なんだったんだ?


「遊佐木さん。中井さんからの伝言です。余計なことを考えるなと」


羽柴はそれを言い残し、体育館を出て行った。

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