第46話 防衛と進攻

5月21日12:39 γ班 体育館


無線機から連絡が来ない。


α班から鴨島の無力化成功の報告がきてもいいはずな時間なのに…


も、もしかしてたら…


俺は遊佐木たちがやられている姿を想像してしまった。


「仙道!β班がα班の状況を伝えて欲しいとの連絡が来た」


久道さん。連絡が来ないですと小声で伝える。


他にバレたら、伝わったらまずい情報ではなく、ただ単に声が出なかっただけ。


「マズイな。α班がやられたのかもしれない。仙道。伝えておいて良いか?」


え、いいの?

うーん。正直に伝える?


俺はみんなに伝えなきゃいけないことがあやふやになる。

 

「仙道くん!出入り口にゾンビが押し寄せてきてる。さすまたで対処しているけど、かなり苦戦しているみたい。何か指示を」


え!?ゾンビなんていなかったのに!?

早く早く指示を出さなきゃ!


甲斐さんから指示を求められているのに俺はどう言えば良い!?とパニックになっていたそのとき、無線から雑音が鳴った。


「え?なんの音?」


「お、聞こえたか?仙道?」


この声は!


「薮野さん!」


俺は信用している人の声を聞いて嬉しくなった。


「仙道、そっちの状況は中井から聞いている。今から、指示を出すから、それをみんなにお前の声で伝えてやってくれ」


「はい!」


俺は薮野さんの指示通りにゾンビの対応をしていった。


12:36β班 1階 階段・エスカレーター付近


「運動部員は神崎会長に続け!!」


杉本は運動部員に指示をし、俺に問いかけてくる。


「中井、あいつらを本当に囮にする気か?」


「今更、何を言っている」


「それはそうだな…」


杉本の横顔が悲しそうに見える。

囮にする人たちへの申し訳なさを感じているのだろうか。


すぐに無駄なことを考えていると判断し、切り捨てる。


まぁどうでもいい。

作戦を続行する。


俺たちが次にやることは神崎含めるやつらを囮(犠牲)にし、鴨島と遊佐木たちが交戦をした隙に放送室へとのりこむ。


俺は無線機を手にした。


12:43 γ班 体育館


「E班は後進!C班は前進せよ!」


俺はリーダーに向いていないが、今、俺が声を出して指揮をしないと、みんなが焦ってパニックになるから………


あまり思い出したくないが、

あの頃の様に………


「仙道。B班2名が噛まれた。どうする?」


え!?お、落ち着いて。薮野さんがいる!


無線で薮野さんにどうするかを聞いた。


俺は自信に満ち溢れた顔で久道さんに指示をする。


「噛まれたものは体育倉庫に隔離を!」


やっぱり、全員がさすまたを2日で使いこなすのは厳しかったようだ。


でも、体育館全域にはまだそんなに侵入されていないし、このまま押し返せば、どうにかなる!


5月19日8:21


体育館舞台の木材を一部を加工し、作った木刀で素振りをしている須葉を見つけた。


「須葉」


「こうちゃんに会えるのか!?」


須葉の名前を呼んだ瞬間、食いついてくる。


俺は心の中でひいているが、表情には出さず、にこやかとお願いをする。


「香江からの伝達だ。みんなが使う武器を作って欲しいとのことだ。今から2時間でブローニングM1900とさすまたを原子構造から叩き込む」


「おぉ!」


須葉は嫌な顔せず、嬉しそうにしていた。


5月21日12:46 γ班 体育館


体育館内は混乱の渦に落とし締められていた。

B,D,E班が壊滅、A,C班が半壊滅状態。

頼りにしていた久道さんはぐちゃぐちゃにされていた。


友達の遺体を見るだけでも、吐き気がしてくる。


俺はそれを耐えながら、舞台にある教卓の中へと隠れ込んでいた。


薮野さん!薮野さん!薮野さん!


俺は周りの声が聞こえなくなっていた。




「甲斐委員長!久道書記が殺され、仙道さんが行方不明です!どうしますか!?」


「中井けんたちからの連絡を待てください」


仙道くんが姿を消してしまってみんながパニックになってしまっている。


現場、指示ができるのは甲斐だけとなってしまった。


紗耶香さんと須葉くんは生き残っている生徒をギャラリーに避難させるため、大量のゾンビを相手している。


だから、ギャラリーにいる生徒の指示は私にしかできない………


そして、甲斐に1つの連絡が来た。


『プール付近にて、薮野が負傷中。仙道を向かわせよ』


遊佐木くんの声だ。

私への喋り方ではない。

と、なるとおそらく全体への連絡。


内容は仙道くんをプール付近に向かわせて、薮野くんの救出だけど…


今、問題の仙道くんがここ(見える範囲)にはいない…


目の前で殺されていく同期、逃げ惑う後輩を見て、私の中でたくさんの疑問(選択肢)が彷徨う。


「仙道ぉぉぉ!!!生きているならぁ!!!プールに向かえぇぇぇ!!!」


ギャラリーの柵を飛び出しそうな勢いで大声で有名な金田くんが叫んだ。


そんな簡単なことでいいの?


疑問がどんどんとかき消されていく。


「ありがとう。金田くん。おか…え?」


私は金田くんにお礼を言おうとしたとき、金田くんはギャラリーから落とされた。


「え?」


「さらば」


金田は頭からの落下により、頭は守ったものの動けなくなってしまった。


「金田くん!!」


私は思わず叫んでしまう。


「ありがとうございます。先輩、あなたのおかげでゾンビを惹きつけられました。今だ!仙道!!いるんだろ?弓は扉横だぁ!!!今のうちにいけぇ!!!」


私はイカれた人の隣で泣き崩れてしまった。




教卓の中に隠れていた俺は2度目の声で責任感を抱えてしまい、教卓から飛び出した。


誰の声!?

大学内で人脈が広い俺でも、聞いたことのない声だった。


ゾンビがそんなにいないことを確認すると、できる限り友達の遺体を見ないように弓と矢を手に外へと走り切った。


12:51 プール付近


「薮野さん!」


プール付近で壁にもたれかかっている薮野を見つけた。


「あなたを探していました。体育館に行きましょう!」


右足が使えない薮野に肩を貸し、持ち上げる。


「ああ、すまない」


薮野は申し訳なさそうな顔で俺の肩を借りた。


俺はふぅと息を吐き、一安心する。


とりあえず、薮野さんがいるから、みんなへの指示はどうにかなりそう。


あとはゾンビに出くわさないといいけど…


ヴゥー!!


複数のゾンビが来た道から走ってきていた。


「え!?どうしよう!?」


俺はパニック状態に陥る。


ここにある武器はナイフと弓矢だけで銃は持ってきていない。


薮野さんは戦えなさそうだし、俺もこんな数、相手にできない。


逃げるべき?

でも、俺は逃げれたとしても…


すると、何かが左耳をパクッとかじってきた。


「ヒャッ!?」  


俺は思わず変な声を出してしまう。


「大丈夫そうだな。聞け、仙道。俺を置いて逃げろ」


「でも…」


「安心しろ。俺にはまだナイフがある」


なんでそこは銃がある、と言わないんですか?と言いたかったけど、銃が壊れていることは薮野さんを見つけてから、わかっている。


「………」


「ここで2人とも死んだら、もともこうもないだろ。だから、早くいけ」


俺への命令は「死なずにみんなを導け」………


俺はテニスコートの方へ走り出す。

来た道とは逆の道に………


本当にそれでいいのだろうか………


弓を握り締める俺は仲間を背にし、立ち止まってしまった。



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