第42話 屈服者の伝言
マクミランTAC-50の銃口の先にいたのは香瀬だった。
第一次世界大戦中、塹壕戦でイギリスが開発したマークI戦車でライフルが聞かなくなったことにより、その対戦車ライフルがドイツで開発され、それが有効的だったことから始まった。
対戦車ライフルは開発されていったが、第二次世界大戦にて、装甲が更に厚くなり、対抗できなくなってしまい、対戦車ライフル自体が陳廃化していった。
しかし、ベトナム戦争にて、カルロス・ハスコックの報告により、ライフルが復旧化していき、マクミランTAC-50まで進化していった。
マクミランTAC-50はボルトアクション方式と高性能なバレルであるため、命中精度と集団率が高い。
その高さは100mでの誤差14.5mm、1000mであっても14.5mm。
一般人がかわせるはずがない!
「香瀬!!立て!!」
それでも俺は香瀬を助けたいという思いから、叫ぶ。
香瀬は亜須原の亡き遺体を抱きしめながら、何もかもがどうでもよくなったかのように1人でぶつぶつと呟き続けていた。
マクミランTAC-50が発砲される。
バンッ!
その銃弾は香瀬の右肩の上を通っていた。
「何を外しているのですか?」
青灯の男は山田に問いかけると、手を震えさせながら、山田はリロードをしていた。
脅されているのか?
「気にするな!!中井なら!!大丈夫だ!!」
マクミランTAC-50のリロードが止まる。
「モルモットくん!早く仕留めないと彼が危険に晒されますよ?」
青灯の男が山田に注目した隙を狙ったのか白田が動いた。
本棟側から西棟側まで一瞬でつめ、青灯の男に俺でも目に見えないレベルの回し蹴りをくらわせた。
「は!?」
受け身をギリギリ取れた井山は5m近く吹き飛ばされた。
左腕の前腕の骨折、左肩の肩関節脱臼をしている。
「山田!!最後のチャンスだ!!早く!!ターゲット殺せ!!」
焦っているのか丁寧な口調からいきなり乱暴な口調に変わった。
白田の奇襲には驚いたが、あの感じだと井山はやれそ………
俺は白田を目視すると、それ以上の攻撃はしなずに右脚を抑えて左脚で片足立をしていた。
今ので、右脚を攣ったのか!?
逆にそれだけで済んでいる方がすごいが………
青灯の男の確保は諦める。
青灯の男の命令から少し遅れて山田は言葉を返した。
「はい。わかりました…」
俺がやらなければ中井は助からない………
なら、俺がやらなきゃければならない………
仲間を殺すわけでもない………
弓道のやつらを殺すだけでいい………
俺は銃口を再び弓道のやつにカーソルを合わせた。
一回で殺せば痛いを思いはしない………
俺は引金を引こうとした瞬間。
そいつが中井に見えてしまった。
俺は中井だと錯覚し階段を降りようと一歩前に進むと、焦っていたためか、足を捻ってしまった。
あ………
山田はガラス製の階段を降りようと、足を一歩前におくと、足を捻り、頭から滑り落ちた。
何かを見つけた?
焦り急ぎ階段を降りたためか足を捻ったのか!?
俺の頭の中に2つの疑問がよぎった。
17m
地面から山田の高さは約10m。
約1秒で地に着く。
俺の位置からじゃ間に合いそうにない。
白田ならいけるかもしれないが、足を攣っている。
バカだな…
俺はいつもバカだ…
俺は興味を持って欲しかったために女の子をイジメて…
改心してその子をイジメなくなったけど、自分が引き連れていたやつらがその子をイジメて…
止めに行けなくなった日にあんなことが起きて………
やつらが死んだ後、解放されたと思い、償うために中井について………
償っていたつもりでいたら………
なんでまたこんなことをしていたのだろうか………
あぁ…
伝えなきゃ………
考えるな!!
とりあえず!!動………
山田は後悔しているような悲しい顔でポロリと涙を流して、呟いた。
な・か・い・を・た・の・む
この位置からじゃ聞こえない早口で言い残した。
「ちっ。使えねぇな!!須葉!!撤退だ!!ヘリを壊せ!!」
「やだ」
須葉は不機嫌な顔で逆らった。
「は!?何を!?………クソっ」
青灯の男は何かを言おうとしていたが、白田の右脚の攣りが治りかけていたことを察したのかその場を去っていった。
やつらにも異能使いがいるとすると、この病院は消すだろう。
俺は青灯の男がいなくなったことを再確認すると、指示を出した。
「須葉はヘリまでの道を。サイトは香瀬を連れて行ってくれ。白田は俺を運んでくれないか?」
「わかりました」
白田は何の抵抗もなく俺をおんぶしてくれた。
だが………
「遊佐木さん。こいつはもう使えません。置いていきましょう」
呆れた顔で香瀬を見ているサイトの言うとおり、香瀬は放心状態でいる。
最悪の場合、記憶喪失になってもおかしくない。
そんなやつを連れていくメリットなどはない…
俺は右手の拳を握りしめる。
「いや、救える人は救うべきだ。連れて行く」
サイトは険しい顔をする。
「こいつは必ず何かをやらかすと思いますが、まぁあなたが言うなら、連れて行きましょう」
サイトはあきれあきれ香瀬をおんぶし、須葉はステンレス鋼の階段を作り出した。
俺たちはその階段を登る。
「すまない。俺は操縦できる体力が残ってない。誰か操縦できる人はいないか?」
キラキラした目で白田が真っ先に手を上げた。
「私、操縦できます!」
「他にはいるか?」
このヘリの操縦席は2人。
大体のヘリは2人だから、当たり前なんだが…
「私も教えてもらえればいけます」
2人目に手を上げたのは那斗だった。
「わかった。白田、教えてやってくれ。それでサイトに頼みがある。万が一のためにヘリの護衛を頼みたい」
サイトは仰せのままにといい、俺は少し躊躇ったが…
正直、サイトが何を企んでいるかは正確にはわからないが、今はこれを託しておかないとマズイ。
今の状況からみると、青灯に完全に喧嘩を売っている。
ヘリに乗っている最中に攻撃されたら、一巻の終わり。
マクミランTAC-50をサイトに渡した。
俺は下で転がっている山田を見ながら、
山田、後は俺たちに任せろ。
俺はそう思いながら、力を抜き目を閉じてしまった。
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