第41話 天空のモルモット

「橙子!!」


俺は無意識に彼女の名前を呼んだ。


いきなり気を失っていたはずの遊佐木が目の前に現れた。


盾になるつもりなのか!?




俺は白田に背中から飛び出した。 


銃声、速さ、銃弾的にマクミランTAC-50。

ボルトアクション式、外れることはほぼない。


初速は秒速823メートルに達しているが、狙いを定めれば、歯でギリ受け止め切れる。


俺は亜須原に前まで飛び出し、歯に力を振り絞り、下の左第1、2、3大臼歯で歯肉に当たらないギリギリでマクミランTAC-50の銃弾を受け止めた。


「遊佐木?おまえ…」


「香瀬!亜須原!連絡通路の下へ!」


俺は早急で2人に伝える。


左薬指、銃弾受け止めた歯、脳の4割は持って行かれたが、まだ動けないわけではない。


俺は全身の神経に意思を伝達させていく。


5発で狙撃手は位置はだいたいわかった。


バンッ!


6発目の銃弾が村上の右肩を撃ち抜いた。


「イッテェな!!だが!場所はわかってたぜ」


村上もやつの位置がわかったようだ。


狙撃手の位置は俺たちの真上…天空にいる。

原理はパノラマ写真と同じだと思うが、詳しくはわからない。


「位置がわかれば!こっちのもんだ!!」


村上は左手の腕力だけで天空に乱射する。


ダダダダダダダン


すると、それまで呆然と突っ立っていたサイトが喋り始める。


「無駄遣いはダメですよ」


「はぁ?口出しするんじゃねぇよ!!」


サイトは突っ立っていたところから一瞬で消え、村上の目の前にいた。


「え?あ… あ゙ぁぁぁ!!!左腕がぁ!!!」


絶叫する村上の膝から下の左腕とMP40は地面に落ちた。


パンッ!


M&P360を右手に、サイトは村上の頭を撃ち抜いた。


「Garbage go away.そろそろ姿を現しても良いんじゃないですか?」


天空を警戒しながら、意識を保つ。


連絡通路西棟側から、両手を上げた男が出てきた。


「安心してほしい。もう狙撃はしない」


白田たちは本棟側に寄った。


やつの両肩に青色の炎が描かれている。


「それより須葉。気づかれているけど、服戻して降りてきてよ。あとついでにモルモットくんも」


天空へ続くガラス製の階段が一瞬にして、出来上がる。


天空のパノラマは消え去り、須葉ともう1人知っている男が降りてきた。


動揺するな………


須葉の両肩にも青色の炎。

やつも青灯の一員だろう。


山田が仲間かどうかを確かめたい…


「山田 賢治。おまえは敵なのか?」


「………」


山田は罪悪感に浸った顔で目を逸らしていた。


応答しないなら、やつらの言葉が本当かを確かめる。


俺はMP40を拾いに行く。


「武器を拾いに行くのですね。判断が早い方は良いですね。そちらのお嬢さんもですが」


MP40を手にすると、俺は連絡通路本棟側に振り返る。


白田がいない!?


白田は青灯の男に刀で降りかかった。


「おぉ、すごいすごい。良い筋ですね」


須葉は何かを加工し、援護しようとしたのか右腕を前に伸ばした。


「NO!須葉、見ておいてください」


白田は何度も刀を振っているが、青灯の男はそれをなんなりと交わしていく。


「お遊びはお終いですよ。お嬢さん」


青灯の男は白田が刀を振っている中、素手で刃を折った。


白田は後ろへ引き、わかっていたかのように悔しそうな表情で折れた刀を構えた。


一方で青灯の男は折った刃を見ていた。


「すごい刃こぼれですね。よくこんなので、私に立ち向かってきましたね。逆に今までなんで折れなかったのかを聞きたいぐらいです」


あの刀は管理棟で俺を助けたときに………


「冗談はさせおき、そこの軍人さんはお気づきだと思いますが、生かせる人数は決まっています」


生かせる人数………


ここにいる全員は助からないということか。


「何人生かせるんだ?」


「6人」


青灯の男は俺の問いに即答した。


6人………


俺、白田、那斗、香瀬、亜須原、九井、サイト…山田を入れると8人。


最低でも2人は殺される。


「そんなに難しい顔をなさらなくても、生かす人はもうこちらで決めていますので、ご安心下さい」


ま、まずい!こいつ!!


「殺すなら、俺を殺せ!!俺はもう役立たずだ!」


丸一日は動けないことが確定している以上、俺は使いものにならない。


青灯の男は無表情であったが、俺には面白がっているように見えた。


「な!何を言っているだ!?遊佐木がいなかったら、俺たちはもう終わっていたんだぞ!?殺すなら、そこにいる九井と那斗だろ!?」


冷静さを取り戻した香瀬が死者を提案した。


それが爆弾発言だと知らずに………


九井はゴミだと確信したような目で、那斗は酷い!という目で、香瀬を見ていた。


さっきの発言ははやつらの狙いを探るため、俺が本当に使いものにならないための2つの意味で言った。


香瀬のその案はまず通らない。


おそらく最初に殺されるのは………


「狙撃手が青灯の幹部の方でしたか。見事な腕前でした。ぜひ私も実践してみたいところです」


サイトはMP40を亜須原の頭に構えた。


「避けろ!!亜須原!!」


「え?」


俺と亜須原の距離が少し遠い。

間に合…

もう動けない。いや、もう動かなかった………


ダダダン!


亜須原の頭部にMP40の銃弾が3発流れ込んだ。


香瀬は倒れてゆく亜須原をキャッチする。


「橙子?なぁ…橙子?嘘…だよな?なぁ?また、おにぎり作ってくれるよな………?」


激しい憎悪と後悔が俺と香瀬を襲う。


「ア゙ッッーーー!!嘘だと言ってくれよぉぉぉ!!」


香瀬は遺体となった亜須原を抱きしめて泣き叫んでいた。


白田たちが恐怖を感じている中、青灯の男はにこやかにこの光景を眺めていた。


わかっていた………


わかっていたのに………


明らかに青灯のやつらは手出しをしそうになかった。


そうなると、この中の誰かが仕掛けることになる。


真っ先に思い浮かぶのは村上を無用と下し、殺した藍川・ロヴルト・最愛。


やつは俺への復讐としてきている可能性が高い。


「あと1人ですね」


俺は殺意の籠った目で政党の男を睨んだ。


こいつを絶対に殺してやる。


俺は今日この瞬間、今までにない殺気を纏った。

 

「さぁ、モルモットくん。最後の犠牲を始末しましょうか」


命令された山田は俺たちと目を合わせることもなく、ガラス製の階段の上でマクミランTAC-50を構えた。

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