第26話 俺たちは拾ったものはすぐに捨ててしまいます

「さっきの襲ってきたやつ。たぶん、今年の正月にアメリカで行われた大会のチャンピオンの野田 慎吾 (のだ しんご)…」


野田 慎吾?


俺は毎日、大学の放課中はネットでニュースを見てきた。


記憶を洗い直す。

何かそういう記事を見なかったか?

中身じゃない。記事のタイトル…


1月9日の記事。

「野田 慎吾 アメリカの空手の大会で優勝!!」


これだ。これ。


でも、2月に全日本空手道団体形選手権大会が行われるはず、それまでにアメリカでは感染が始まっていたのか?


あの米州のニュースは全体に広がったことを示すものだと考えられる。


となると、感染は実際に1月中にはもう始まっていたということか?


いやでも野田 慎吾がただ単に全日本空手道団体形選手権大会に参加しなずにアメリカに残っていた可能性だって大いにある。


だとしても、感染は大分前から始まっていたかもしれないことは頭の隅にでも置いておこう。


俺はあいつらが通っていたことを確認し、曲がり角を曲がったところを見計らって、大学へと向かう。


さっきのあいつらはやり過ごせたが、他のやつらに見つかると、ややこしくなる。


仲間の銃を持っていたら、なんで持ってるだ!?となるし、最悪の場合、殺すことになる。


応援呼ばれたら、かなり面倒くさくなる。


極力立ち会わずに行こう。


俺は曲がり角に着くたび、警戒心を高め、誰かいないかを確認して少しずつ大学へと近づいていった。


思ったよりも隊員は見ていない。

単にすれ違っているだけか…


俺は小声で言う。


「早く89式を隠すぞ。」


俺たちは近くに止まってあった車の下に89式5.56mm小銃を隠し、路地に入る。


やつらはもう堂々と歩いているはずはない。

見なくなった理由はおそらく野田 慎吾と隊員6名の遺体の確認、遺体の3名分の武器の損失。


やつらは俺たちが7人を殺したと思っている。


出くわしたり、バレたりしたら、話し合いは通用しない。


ここはSFP9を隠し持ちながら、二手に分かれ、大学に向かった方がいい。


俺は薮野と仙道に小声で伝える。


「SFP9は隠し持ち、二手に分かれて向かおう。俺は1人で行く。仙道、薮野サポートをしろ。」


薮野は状況がわかったように、仙道はどうして?のように頷いた。


薮野と仙道には正面から向かってもらい、俺は旋回するようにまわっていく。


「薮野。やっぱり…」


俺は薮野に仙道を任せるとランニングで大学へと向かった。


あっちが俺らに気づいても、おかしくはない。

そうなると、一刻も早く大学に着かなければならない。


俺は予定通りの旋回ルートの路地に入ろうとしてしたが、立ち止まった。


待てよ。

やり過ごしたときに仮に気づかれていたら、俺らが通ってきたルート的に目的地は丸わかりになる。


俺は最後の大通りに出る路地に着くと、建物内に入り、3階まで上がる。


「マンホールは出入り口の左。」


俺は小声で独り言を言う。


欲を言うと、あのときに89式5.56mm小銃を取りに帰りたかったが、リスクがあるのと、薮野たちに追いつけない。


そのことを考えると、SFP9だけでやるしかない。


俺は大学の門付近と近くの建物内及び屋上を確認する。


流石に目立つところにいるわけないか。


となると、大学内で待ち伏せされている可能性も出てくるが…


俺がそう考えているうちに大学に向かう薮野と仙道が大学の前の信号の手前にいた。


あと少しで入れる。

できれば、何事もなく入って欲しいが…


俺がそう考えていると、反対側の建物の屋上が一瞬、光った。


窓を開け、そこ目掛けて発砲する。


パンッ!


俺は急いで1階へと階段を降りる。


本当は美優ちゃんみたいに飛び降りれれば、楽なんだが、右腕が能力使いの四肢引っ張りにより、実際にもう使えないレベルなっている。


おそらく、さっき撃った弾なんて当たってもいない。


俺は1階に着くと出入り口の左側にあったマンホールのマン鍵に向かって撃った。


パンッ!


開けて入り、バレないように元状態にできるだけ戻す。


ゾンビが群がってしまうが、大学外だし、その後の支障は特に出ないだろう。


とりあえず、数分間は何処に行ったかはバレないだろう。


あとは大学内にあるマンホールまで行けば、クリアって感じだけど、地下空間の設計が全くわからない。


とりあえず、地上の地図はできているから、それに沿っていけば、どうにかなるか。


俺はそれを頼りにしながら、大学内のマンホールを目指し、進んだのであった。


あのとき、中井に集合場所はマンホールと言われたが、何か策があってそこを集合場所にしたのだろうか。


俺たちは正面から白蓮大学へと向かっていた。


そして、門付近に俺たちが差し掛かろうとしたとき、銃声が鳴り響いた。


パンッ!


俺は仙道を引き連れ、近くの電柱へと身を隠し、周りに銃弾の跡や弾がないか確認する。


これは中井が発砲したものか?


俺はそう確信すると、仙道を連れて、大学内へと入り、マンホールへと向かう。


大学内もゾンビがいる。

校舎内にいるかはわからないが、油断は禁物だな。


俺たちはマンホールに着くと、小声で仙道に言った。


「仙道。中井が来たらマンホールを開ける。手伝ってくれ。」


仙道はなぜマンホールを?という顔をして頷いた。


ゾンビとの距離は25m程で小声で喋ったけど、案外聞こえないものなのだろう。


中井の合図が来るまで、俺たちはマンホールの上で待ち続けた。


ここで待ち始めてから20分が経つが、一向に来ない。


発砲したってことは、隊員たちがいたってことになる…。


俺は一瞬、躊躇った。


もう中井は確保されてしまっているかもしれない。

待っていても意味がないかもしれないと…。


それでも中井は俺たちのために、危険を伴って囮になってもらった。


だから、俺は待ち続ける。

中井が来るまで。


誰かが待っていてあげなければならないから…。


コンコン


俺はその音を聞いた瞬間、マンホールの上から2回ノックした。


中井はマンホールから離れてらだと思う。


俺はマン鍵に向かって射撃した。


パンッ!


マン鍵は壊れたが、周りにいたゾンビが寄ってきた。


「ゾンビに発砲をしてくれ。俺はマンホールを開ける。」


「わ、わかった。」


約40kgのマンホールを片手に開けられるのかが心配だが、上げてしまえば、こっちのもんだ。


パンッ! パンッ!


「薮野!全然当たらない!」


俺が少し持ち上げたところで仙道がそういうと、2m圏内にゾンビが来ていた。


リロードしていない!マズイ…。

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