第18話 俺を助けてくれた女の子はまた俺を救ってくれた

夕方過ぎの街中に銃声が鳴った。


俺の目の前には美優がいた。


な!美優ちゃん…。なんで?

だとしても、俺には関係など…


俺は美優の温もりや優しさを感じ覚えている。

唯一、覚えていた。


「なん…で?」


俺は罪悪感に呑み込まれた。


俺が美優ちゃんを撃った。いや殺した…。


あ…アァー!!!!


俺はかがんだ体勢で倒れた。

すると、美優は俺の肩に手を置いた。


「健斗様。私は無事です。ご自身のことを責めないでください。」


美優ちゃんは優しい。


こんなクズでも…血に染まってしまった人殺しを…。


俺はその場で意識を失ってしまった。


「遊佐木様。ベットに連れて行きます。この方たちを任せます。」


私はそういうと健斗をおんぶした。


「りょーかい。白田。」


その次の瞬間、鴨島 弦が立ち上がり、遊佐木は避けたが、狙いは遊佐木ではなかった。


俺の持っていた包丁をあの一瞬で奪い取られてた!?


俺の持っていた包丁を奪い取った鴨島は美優目掛けて襲いかかる。


「やめろぉ!!鴨島!!」


気を取り戻した仙道 琮一が言っても鴨島は聞きもしなかった。


「死ね!中井ぃ!!」


俺がリボルバーで撃ち殺せば、美優は助かる可能性はある。

俺はリボルバーを構える。


「白田!かがめ!」


俺はそう言い、リボルバーの引金を持つ。

え!?すると、白田は中井を下ろし、鴨島の包丁を持っている右腕を掴み、かわして、左の拳で鴨島を失神させた。


「白田?大丈夫か?」


俺は驚いてしまった。


だって、鴨島はラグビー部のエースだぞ?そいつを一瞬で失神させるのは流石に無理があり過ぎるのでは?


「遊佐木様。この方たちを任せます。」


「あ、はい。わかりました。」


俺は咄嗟に敬語で返事をしてしまった。


やっぱ、女って、怖。


美優は健斗をおんぶして2階へと上がる。


「健斗…。よく耐えたね…。」


私がそう言っていると、目的の部屋から紗耶香が出てきた。


「健斗くん!!」


危ない危ない。私がこう言っていることがバレるところだった。

あと、悔しいけど、ここからは紗耶香さんの番。

ここは健斗のためを思って譲ろう。


「紗耶香様。健斗様を頼みます。」


私はそう言い、健斗をベットに寝かせ、部屋を出て行く。


20:49


俺は目を覚ました。


複雑な感情がまだ少し残っている。

俺にこの感情がある限り、ブレーキが踏めなくなってしまう。


「健斗くん…。」


隣には紗耶香ちゃんがいた。


俺は酷いことを言った。

顔を合わせて話す権利などもうない。


「紗耶香ちゃん。俺はもう話す権利などないよ。だから、放っといて置いてくれないかな?」


俺はもう人間などではないんだよ。

俺は殺人を犯した以来…。

君と出会って以来…。


「そんなことないよ?健斗くん…。もう怒ってなんか怖がってなんかないよ?私は健斗くんのこと大好きだから…。私が助けて貰ったように…。」


俺は紗耶香と反対向きに横になりがら、とある記憶を思い出した。


6歳の頃

-


「何で泣いているの?」


俺は公園のブランコで泣いていた女の子に尋ねた。


「いつも遊んでくれていたお父さんがいなくなっちゃったの…。」


いなくなった=死んだということ。

ちょうど、俺も遊び相手が居なかったから、遊んで貰おうかな。


「じゃあ、一緒に遊ぼう。」


そういうと、女の子は泣き止みながら、返事をした。


「うん…。遊ぼ…。」


俺は初めて遊び相手ができたことに嬉しくなった。

まずは何て呼べばいいかわからないから、名前を聞こう。


「俺の名前は中井 健斗。君の名前は?」


「私の名前は那斗 紗耶香。」


紗耶香ちゃんか。


俺は紗耶香ちゃんに挨拶をする。


「紗耶香ちゃん。これからよろしくね。」


-


これが俺を狂わせ、複雑な感情を持つことになった出会いだった。


解離性健忘症…


多くの人は数日から数ヶ月で治る。

だが、俺の場合はもっと長い約11年間ぐらい忘れていた。


「健斗くん。お願いだから…。もうやめようよ。」


俺は紗耶香ちゃんの顔を見る。


紗耶香ちゃんは泣きかけている。

おそらく自分のせいでこうなっていると思い込んでいる。


俺から見ても君との出会いでこうなっている。


でも実際は俺の方も君のおかげで助かっていた。


俺があの日、イジメていた男5人の集団を殴らなければ、こんなことになっていなかった。

いつも通り、毎日、公園で遊べていた。


だから、元の元凶は俺なんだ。

俺のせいでこれ以上、君を…。

紗耶香を傷つけることはできない…。


だから、俺は隠し持っていたナイフで自害するよ。


俺はナイフを取り出そうとしたが、なかった。


なぜナイフがないんだ!?

何があってもバレないようにしておいたのに…


すると、扉が開いた。


「中井。おまえの考えることなんてバレバレなんだよ。那斗、中井の様子は?」


遊佐木。流石だよ。生きて償え、て言うことか。


「うん。自殺しようと考えていると思うけど…。それ以外は元通り。」


「ああ。わかった。」


紗耶香が報告し、それに遊佐木は返事をした。


「紗耶香ちゃん。ごめんなさい。俺、これから自首しに行くよ。」


俺は7年前に犯した殺人を償う。


紗耶香と遊佐木は頷いた。


「紗耶香ちゃん。それに遊佐木。俺が償うまで待っていてくれないかな?」


でも、俺は1人にはなりたくない。

だから、これだけは言っておきたかった。


「うん!」


俺は警察に電話しようとしたら、美優が来た。


「健斗様!!大変なことになっております!!ニュースを!!」


俺はスマホでネット記事を確認する。北アメリカ大陸及び南アメリカ大陸でゾンビ感染拡大中!?


いや、でも俺には関係ない。俺は電話を開き、入力を始める。


「待て!中井!それどころじゃなくなった!電話する必要はない。」


遊佐木がいつもより大きな声で言った。


いやでも、日本に来ることは…。


俺は遊佐木に言った。


「香江と薮野を呼べ。」


日本に来るまで時間はほぼない。

少しでも対策を立てなければならない。


「俺と一緒に美優ちゃん!紗耶香ちゃん!今すぐ食料,医療品調達を!遊佐木、おそらく美優ちゃんの車があるはずだから、俺の別荘へ行く準備を!そして、香江と薮野にできるだけの生活物資の調達を伝えてくれ。」


これは只事では済まなくなるぞ。


日本のゾンビ感染流行まで残り2日。



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