第22話 こうして私はまだ迷う。
「よくぞ来た賢者殿、雷帝様。」
メイドに連れられ、玉座の間にやってきた私とエンディを迎えたのは如何にも贅沢していそうな肥満体系のおじさんだった。
「国王陛下、エルルア様は雷帝様だと決まったわけではございません。あくまでその可能性があるという噂でございます。」
国王の傍に立っていた側近と思われる初老の爺さんが間違いを指摘した。
しかし、
「噂であれ可能性であれ、そういう話が上がったのならエルルア殿は雷帝様だと言うことだろう。ところでその雷帝様はいったいどこだ?」
「パレスティア王よ、私の隣に立っている金髪の少女がエルルアでございます。」
「何?歳で目が曇ったのではないか?賢者殿。そこに居るのは金髪以外共通点のない小娘ではないか。雷帝様に失礼であるぞ。」
(本当に失礼だよ糞王。)
「ですから、エルルアは雷帝ではございませんという話です。彼女はただ雷魔術が得意なだけのただの少女です。」
「それならなぜ連れてきた。わしは雷帝様を連れて来いと言ったのだ。噂になるほどなのだから多少雷帝様より見劣りするであろうことは予想しておったが、まさかこんなちんちくりんを連れてくるなて私と雷帝様に対して不敬だぞ。これだからどいつもこいつも使えなくて困るわい。」
「不敬なのはどっちだよ。」
あまりに傍若無人な振る舞いに我慢の限界が近かった私は、本来何も言うつもりがなかったのについ言ってしまった。
「今なんといった、小娘。」
「不敬なのはどっちだよって言ったんだよ。こっちの事情もお構いなしで呼びつけるだけ呼びつけて、やれ準備だので振り回した挙句に予想と違ったら本人の前でもお構いなく言いたい放題して、挙句の果てにあんたの為に尽力した人たちを無能呼ばわり。」
「っ・・・貴様っ!!」
私の言葉にぶちぎれた国王が実力行使に打って出てきた。
国王が撃った低級魔術『フレイムショット』は私に当たる前に同じ低級魔術『サンダーボール』で相殺された。
しかし、かまわずにもう一度『フレイムショット』を撃とうとした国王を側近の爺さんが抑え込んだ。
「陛下!相手は我が国の国民ですぞ!国民に魔術を向けるなんて何を考えられているのですか!」
「知るか!この国はわしの国じゃ!わしに従わない奴なんぞ国民ではない!」
その発言が私の頭を逆に冷静にさせた。
かつて私が唯一殺したいと思った相手、建国戦争時の皇帝と同じ発言だったからだった。
(こいつは殺さなきゃだめだ。アストライオの理想とする国の為に。)
実際には冷静になってなどいない、ただ心を殺して『雷帝』にならないといけない理由を見つけただけの私は、国王に対して独創魔術『フォールンゼウス』の詠唱を始めた。
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エルルの纏っている雰囲気が変わった。
先程までは怒りの感情を向けていたのに、今は氷のような鋭い殺意を纏っている。
それはまるで、建国戦争の際のエルルのようだった。
よく聞くと小声で何か詠唱をしている。
「堕天せし雷神は、かの最高神を堕とす究極の一閃を穿つ」
それは決闘でも使ったエルルの独創魔術「フォールンゼウス」の詠唱だった。
詠唱を加えることで、ただでさえ高い威力が増した『フォールンゼウス』は国王を殺すのには十分すぎる威力を持つ。
「エルル!!」
エルルに対して声をかけるが詠唱を止める気配はない。
ちゃんと防げるかは賭けだけど、僕は防御魔術を詠唱した。
使える全魔力を使って、全ての属性を混ぜ合わせた結界を作り出す独創魔術『オールリジェクション』。
(さぁ止めれるといいんだけど。)
そうして僕は『フォールンゼウス』の衝撃に備えた。
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詠唱を終えて、魔力を解き放った。
空から落ちた雷は屋根ごと国王を貫いたはずだった。
「どういうつもり?エンディ。」
私の『フォールンゼウス』はエンディの独創魔術『オールリジェクション』によって軌道が少し変えられ、国王がいる場所から少しそれたところに落ちた。
その衝撃で国王は側近と共に気絶している。
「国王を殺すつもりか?エルル。」
「何か問題ある?こいつはあの時の皇帝と同じだよ。こいつは癌だ。こいつを生かしてたら国が滅びる。」
「冷静になれ!ここで王を殺したら、それこそ国が終わるぞ!」
エンディが私の言うことに反論してくる。
どうしてそこまで反論してくるのか私にはわからない。
「私は冷静だよ、エンディ。国は終わらせない。私がアストライオの代わりになればいいから。エルルアなんていう臆病者もここで一緒に殺せばいい。」
「そんなこと言わないでください!エルル様!」
私が『雷帝』として成そうとしていることを口にした瞬間、いつの間にか玉座の間に入ってきていたルゥが後ろから抱き着いてきた。
「そんなことをしたらエルル様が壊れてしまうではありませんか。」
「それでいいんだよ、ルゥ。私は国をよくするための人形になればいい。大丈夫、私は到達者だから、私の中にアストライオの遺志が残っている限り、国が壊れる心配はないよ。」
「それをアストライオが知って喜ぶとでも思っているのか?エルル。」
エンディの一言に私は押し黙ることしかできなかった。
私はアストライオのためなら何でも捨てる覚悟をしている。
今もアストライオが望んだ"豊かで国民が笑っていられる国"を作るために、エルルアという畏怖の念を向けられる覚悟がない自分を殺そうとしている。
なのにそれがアストライオの意にそぐわないなんて言われたら、私はどうしたらいいのかわからない。
「・・・。今ここでそんなこと言わないでよ。あれを放置しろと?国がどんどん悪い方向に行くのも見逃せって?私には無理だよ。このまま放置してあの帝国と同じようになるくらいなら殺して私がアストライオの代わりになったほうがいい。でも、私は弱いから・・・。誰かに怖がられるのも敬われるのも怖くて苦手だから・・・。だから人に畏れられる『雷帝』になりきって、弱い自分は殺して王様になろうとしているのに・・・。」
気が付けば涙が流れていた。
止めようと思っても止まってくれず、私の弱音と一緒に溢れ続けている。
「私にだってわかってるよ。そんなことアストライオが望むわけなんかないって。でも他にどうすればいいのさ。エンディやルゥに国王の重責なんて背負わせたくないし、グラディオスはまだ若い。そうやって止めるんだったら何かいい方法教えてよ!私はどうすればいいの?」
私の問いにすぐ答えれる人はいなかった。
しかし、ほんの少しの静寂の後に、ルゥがより強く抱きしめて答えてくれた。
「まずは私たちにもっと相談してください。私はエルル様が怖がられるのが苦手だなんて初めて知りました。他にもエルル様が私たちに知られないようにしていることは少なくないと思います。特に、私に対しては。ときどき心配させないようにって無理して振舞っているの、知っていますから。ですから私達にもエルル様が抱えている恐怖とか教えてください。私たちをもっと信じてください。」
気が付けばルゥも泣いていた。
私はルゥの主人失格だ。
こうしてまたルゥを傷つけてしまったから。
「ごめんね・・・ルゥ。」
泣きながらルゥに謝る。
壮大な自己嫌悪と誤った使命感を抱えたまま。
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