第18話 久しぶりに二人で少しお話した。

「エルル様は影武者についてどうお思いなのですか?」


クレアたちと別れて屋敷に帰ってきて早々にルゥが切り出してきた。


「藪から棒にどうしたの?大方、今日エンディと話したことが絡んでるんだろうけど、一体何を話したの?」


「話した内容については少しお話しづらいのですが・・・。」


そう言ってルゥは目をそらす。

ルゥが私に隠し事をするなんて珍しい。

まぁルゥが私の為以外で隠し事をするはまずないから気にしなくてもいいかな。


「まぁ内容はいいや、んで影武者についてでしょ?やっぱり私の為に私以外の人を危険に冒すのは好きじゃないかな。」


「なるほど。それは私に対してもですか?」


想定外の返しが返ってきた私はすこし困惑した。


「どういうこと?」


「私はエルル様の従者です。従者の仕事として主人の身を守るために影武者になったりっていうのもある話ではないですか。それについてもあまり好ましく思われていないのかと思いまして。」


「そうだね。なんなら私はルゥが影武者することのほうが嫌だよ。ルゥがどう思ってるかは分かんないけど私は大切な家族だと思ってるし。」


「私にとってもエルル様は大切なご主人さまです。ですので、私が安全な場所にいて、主人のエルル様が危ないところにいるというのはあまり好ましい状況ではないのですよ。」


そう言いながらてきぱきと夕食の準備を進めていくルゥ。


(私にとって従者だと思ったことなんてないんだけどね・・・。)


元々私はルゥを従者にするつもりなんてなかったのに従者にしてほしいと迫ってきたのはルゥだった。

その頃から敬われたり、恐れられたりなんていうのが苦手だったから、あの頃はかなり辛かった。

まぁ当のルゥにそれを漏らしたり、悟られたりなんかは絶対しないようにしたからルゥはこのことを知らないはずなんだけど。


「で?そういう話をするってことはどっかのタイミングで影武者でもしてもらわないといけないって訳?」


「可能性はあります。なんでも王宮の方でエルル様が『雷帝』なのではないかっていう噂が流れ始めているらしいのですよ。」


(なるほど、今日エンディと話していたのはこのことか。)

「それ、エンディに私に伝えるなとか言われてない?」


「一応、まだ噂だから聞かせない方がいいかもとはおっしゃっておりました。エンディミール様は私との二人だけで対処したほうがいいと思われておりましたが、むしろエルル様にもお力添えいただいたほうが良いかと思いまして。」


「なるほどね、ちなみに言っておくと私も身代わり作戦は反対だからね。」


「エンディミール様にも反対されました。どうしてさせていただけないのですか?」


料理をしていたルゥの腕が止まった。


「さっきも言ったけど大切な人だからだよ。」


「それなら、わたしにとってエルル様が大切な人だっていうのも理解していただきたいです。」


まるで縋っているかのように詰め寄ってくるルゥ。


「分かっているよ。ルゥはいつも私の為に行動してくれるから。」


「それなら身代わりになる許可もください。」


私は思わずため息をついてしまった。


「ルゥはさ、なんで私の従者になったか覚えてる?」


「それは拾っていただいた恩をお返しするためです。」


「じゃあそれに一番最後まで反対してたのが誰か覚えてる?」


「それは・・・。」


流石に覚えてないみたいだった。

そりゃそうだろう、なにせルゥが従者になるって宣言したのは、彼女がまだ9歳のころだった。


「私だよ、ルゥ。」


「エルル様が?」


「うん。」


「なぜ反対されていたのですか?」


「娘を率先して危険な目に会わせたがる親はいないでしょ。」


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頭を殴られたかのような衝撃が走りました。


「私がエルル様の・・・娘?」


「やっぱり覚えてなかったんだ。まぁ娘といっても義理の娘だけどね。」


「あぁ・・・そう言われれば思い出してきました。」


「娘としてルゥ・シュレイガンを名乗らせていたのに、急に従者になるって言って、名字名乗るのも烏滸がましいなんて言ってね。あまりにも早い反抗期が来たのかと思ってたよ。」


(エルル様は私が従者になることにした理由は知らないのですね。)

「まぁいろいろ多感な時期だったのですよ。」


「今からでも従者やめて娘に戻る?」


エルル様にしては珍しい年相応の笑顔で聞いてきました。

それに対し、私も珍しく頬が緩むのを感じながら返しました。


「もう従者である私に慣れてしまったのでご遠慮させてください。」


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久しぶりにルゥの満面の笑みを見た気がする。

そういえばこうして二人の話をしたのって久しぶりだったっけ。

私もルゥも今更自分の話をしようってなるような歳じゃないからこうして初めて知るようなことがたまにある。

そう思っていると何やら焦げ臭いにおいがしてきた。


「エルル様・・・。」


「何?ルゥ。」


「本日の夕食は少し遅くなってしまってもよろしいでしょうか・・・?」


そういって申し訳なさそうにするルゥの手元には何かを焦がしたと思われる黒煙を上げたフライパンがあった。

私はそんなルゥの姿を見て思わず吹き出してしまった。


「ちょっと、エルル様!?」


珍しく顔を赤くして取り乱すルゥが面白くて余計笑ってしまった。


「ちょっとエルル様ひどいですよ。」


完全に機嫌を悪くしてしまったルゥに窘められてやっと少し落ち着いてきた。


「ごめんごめん。それなら今日はいっそのことどこか食べに行くのもいいんじゃない?前、クレアが夕食時にっておすすめしてくれたお肉料理のところあったでしょ。」


「確か、最近王都にやってきた羊のお肉を出してくれるお店でしたっけ?」


「そうそう。今日はルゥに休んでもらおうってことで。」


「そういうことでしたら、そうですね。羊のお肉にも興味がありますし。」


そうして急遽羊のお肉を食べるために私たちは夜の王都に繰り出したのだった。

ちなみに結構おいしくてルゥが上機嫌になっていたのはここだけの話。

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