第19話 すでに探し始められてるんだけど。
「羊のお肉なんて初めて食べたけどおいしかったね。」
件のお店からの帰り道を、私はルゥと並んで歩いていた。
王都で評判のいいお店とだけあって、初めて食べたお肉だったけど、とても食べやすかった。
「ジンギスカンでしたっけ?自分の焼き加減で食べるというのも面白かったですが、あの鉄板の形はとても面白かったですね。鉄板の下の方に脂が落ちていくので、肉も野菜も程よい加減で食べられましたしね。」
「全然しつこくないなぁと思ったらそういうことだったんだ。肉に少し独特な臭みがあったけどあれも傭兵時代を思い出して中々乙なものだったし、機会があればまた行きたいね。」
「そうですね。他にも、あの頃のように森で狩猟して、その場で焼いて食べるというのも趣がありそうですね。」
「たまにやる分には楽しそうだね。それを毎日やるのはめんどくさいから二度とごめんだけど。」
こんな感じで談笑しながら、王都の街中を歩いていると、正面のちょうど広場になっているところで、街行く人に声をかけて回っている若い女性がいた。
彼女は私たちを見つけると、こちらにも駆け寄ってきた。
「申し訳ありません。人探しをしているのですが、王都にお住みの『エルルア』さんをご存じありませんか?」
彼女が探しているという人の名前を挙げた瞬間に、私たちの間にあった和やかな空気は消え去り、少しの緊張が走った。
「王都に住んでいる『エルルア』さんねぇ・・・。少なくとも私は聞いた記憶がないけど。」
「私も耳にした覚えはありませんね。いかがなされたのですか?」
平静を装って返答した私に続いて、ルゥが返答しつつ探りを入れた。
「実は、私の雇い主様が『エルルア』さんにお会いしたいとのことでして、私を含めた使用人何人かでこうして聞き込みをさせていただいているのです。」
「そうなんだね。ちなみに差し支えなければ会いたがっている理由とかって聞いてもいいかな?理由次第では私たちも手助けできるかもしれないし。」
「流石にそちらはお答えできません。雇い主様のプライベートな事なのもありますし、何より私どもも聞かされておりませんので。」
「ありゃりゃ、それは残念。まぁそういうことなら私たちは『エルルア』さんのことも知らないし、邪魔しないためにもここはもう離れるとしようかな。人探し頑張ってね。」
そう言って私たちは手を振ってその場を離れた。
「どう思う?ルゥ。」
離れる足を緩めないまま、私はルゥに話しかける。
「想像以上に噂の広がりが早いですね。もしかしたら明日にでも参上命令が下るやもしれませんね。
「だよねぇ・・・。」
わたしはついげんなりとしてしまった。
普通の王様だったら少しめんどくさいな程度で済むけど、相手は史実上の私の大ファン。
仮に『エルルア』が『雷帝』だとばれなかったとしても十中八九めんどくさいことになると思う。
そう考えたら、つい帰る足を止めてしまった。
家に着いたら、そのまま寝てすぐ明日になってしまう気がしたから。
「エルル様。」
気が付けば少し先を歩いていたルゥが振り返って声をかけてきた。
「国王が相手でも、エルル様ならどうにかできますよ。」
ルゥのその言葉に、私は微笑みを顔に貼り付けて返した。
「そうだね、今までもどうにかしてきたもんね。」
そう言って私はルゥの隣に駆け寄り、一緒に歩きだした。
帰りたくない、愛しの我が家に向かって。
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