第15話 これからよろしくねグラディオス
「それじゃあ、約束通り話を聞かせてもらってもいい?」
私とルゥは今、グラディオスと一緒に学院長室の応接スペースに座っていた。
わざわざ学院長室を使わせてもらっているのは、隙あらばエンディにも問いただしたいという考えである。
「話って言っても何が聞きてぇんすか・・・。」
ちなみにグラディオスは今朝からこんな感じで完全に怯え切ってしまっているため、他の人間がいないと話しづらいだろうという気遣いもある。
「決闘の時に言ってた、『いいとこどりの建国者』について。アストライオ・・・様は建国戦争の時、圧倒的な強さで集団を率いて帝国を打ち破ったはずだけど、それがなんでそんな不名誉なあだ名をつけられてるの?あと、学院長笑いすぎ、うるさい。」
アストライオに様をつけて呼んだ私がツボに入ったらしいエンディを窘めつつ、グラディオスが話し始めるのを待つ。
「確かに、かつて建国戦争を仕掛けた傭兵集団のリーダーだった初代国王『アストライオ・シュレイガン』は強さと人格で人を率いていたと言われてるっすけど、王家の中ではいいとこどりだったって伝えられてるんすよ。」
「そうなの?学院長。」
事実関係を確かめるためにエンディに確認する。
すると、エンディは首を横に振りながら言った。
「グラディオス君には悪いけど、それは真っ赤な嘘だ。現国王の『パレスティア・シュレイガン』が、君の祖父に当たる前国王『エマスティ・シュレイガン』の没後に急に提唱しだしたんだ。」
「そうなんすか?なぜ父上はわざわざそんなことを・・・。」
「流石にそこまでは知らないけど・・・一応一つだけ心当たりはあるよ。」
「心当たり?」
「パレスティア国王は雷帝の大ファンなんだよ。」
「・・・は?」
「そういえば父上は確かに雷帝様の大ファンっすね。それこそ初代国王の肖像画を外して雷帝様の肖像画を飾るくらいっすから。」
「ちょっと待って。肖像画?肖像画って、私そんなの描かせた記憶も描かれた記憶もないんだけど。ルゥ、私が寝てる間に描かせたりした?」
「いえ、私が描いた物ならございますが、外には漏らしておりませんし、他人が描いた物など存在しないはずですが・・・。」
「あの王宮に置いてあるやつは肖像画なんかじゃないよ。あれは500年くらい前に想像で書かれた物のはず。ほら、エルルが肖像画断ったせいで教科書に載せれなくてね。」
記憶にない肖像画についてルゥと話していると、エンディが横から真実を伝えてくれた。
「そういうことならよかった。とりあえずルゥは帰ったら自分で描いたっていうやつを処分すること。普通に描かれるのも嫌なのに寝顔なんて残してたまるもんか。」
「そんな・・・、こればっかりはエルル様の命令でも嫌ですよ。」
「ダメ、自分で処理しないなら部屋漁って無理やり処理するからね。」
そうやってルゥと押し問答をしていると、私の中で完全に存在が端に押しやられていたグラディオスがおずおずと話しかけてきた。
「あの、すんません・・・。エルルアさんってやっぱり雷帝様だったんすか?」
グラディオスのその一言に、一瞬の静寂が走った後、二度目のやらかしに気が付いた私は顔を真っ赤にして、魚のように口をパクパクさせていた。
羞恥心で言葉にならない声を上げている私の代わりにルゥが疑問を投げかけてくれた。
「やっぱり、と言いますと昨日の決闘の時点でお察しになられていたのですか?」
「まぁ名前が同じであんだけ強ければ少なくともその可能性に一度は至るっすよ。ただまぁ、肖像画との見た目があまりにも違うんで半信半疑ではありましたが・・・。」
「そういえば肖像画では凛々しく描かれてるんだっけ・・・。」
ようやく滑舌が戻った私は前にアカディア先生と初めて会ったときのやり取りを思い出していた。
「そうっす。高身長で目つきがきりっとしてるんで、はっきり言って髪色とか瞳の色くらいしか共通点ないんすよね。」
「そこまで違うんなら逆に気になってくるな・・・。」
「気になるんなら見てみる?」
そう言ってエンディが教科書を投げ渡してくる。
中を開いて探してみるとアストライオの肖像画の隣に載せられていた。
確かにそこに描かれているのは私とは似ても似つかない高身長で巨乳で凛々しい顔立ちの、色合いだけ私と同じ女性だった。
あまりにかけ離れた肖像画に若干、腹を立てた様子のルゥがエンディに問い詰めた。
「これは・・・。こんなにも違うのに何故止めなかったのですか?エンディミール様。」
「正確には止める間もなく、かな。あの頃には完全にエルルは死んだものだと思われていたから僕にチェックしてもらわなくてもいいと思ってたんだろうね。結果、『雷帝』の称号と周りから見た印象だけが独り歩きしてこんな状態になったわけなんだけど。」
(まぁそのおかげで今、何も気にせず外を歩けるって考えると私としては非常にありがたい話なわけなんだけど。)
そう思い窓の外を見ると、すでに日は沈み、空も暗くなろうというところだった。
「いつの間にかもう夜だし、ここまでにしよう。聞きたいことはちゃんと聞けたかい?エルル。」
同じく外を見てすっかり暗くなろうとしていることに気づいたエンディが切り出した。
「ちゃんと聞けたよ。こんな時間までつき合わせちゃってごめんね。グラディオスもありがとうね。」
「いえ、それは問題ないんすけど、一応エルルアさんが雷帝様だってことは隠したほうがいいっすか?」
「うん、お願い。それと私のことはエルルでいいよ。敬語もなしでいい、っていうかやめて。あくまで同級生なんだからため口でいい。」
「そういうことなら・・・。分かった、エルル。」
初めて会ったときよりは少しぎこちない口調でグラディオスは返した。
「ありがと。それじゃ、これからよろしくねグラディオス。」
「あぁ、こちらこそ。」
そう言って、私たちはどちらからともなく握手をしたのだった。
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