第14話 ありがとう、クレア
私が決闘でやらかした翌日の朝。
教室のドアを開ける勇気を持てないでいた。
以前、ルゥの『タイダルウェーブ』を相殺した時は、ほとんど見ている人がいなかったから良かったけど、今回は闘技場いっぱいの人間がいる目の前でやらかしたのだから、何かしら噂になっていてもおかしくない。
(昔みたいに怖がられたりしたら嫌だなぁ・・・。)
かつて数多の戦場を経験してきた私でも、戦場で敵兵士によく向けられてた、あの化け物を見るような目はすごい嫌だ。
同じ人間のはずなのに、まるで私は化け物なんだと思い込まされるようでとても怖い。
アストライオはよく「強さの勲章だ!」なんて笑ってたけど、結局あれだけは最期まで理解することができなかった。
「ご体調がすぐれないのでしょうか?エルル様。」
教室のドアを開けられずにいると、ルゥが心配そうな表情で顔を覗き込んでくる。
(ルゥを心配させるなんてなぁ・・・。)
「いや、大丈夫だよ。中に入ろうか。」
私のトラウマなんかよりも、ルゥを心配させることのほうが嫌だった私は、なけなしの勇気を振り絞って教室の中に入った。
瞬間、生徒の雑談で賑わっていた教室は、静寂に包まれた。
教室に入ってすぐ目に入ったのは、グラディオスが向けてくる恐怖の眼差しだった。
他にも同様に恐怖の目を向けてくる者、恐怖まではいかずとも居心地の悪そうにする者がほとんどだった。
しかし、そんな中で一人だけ楽しそうにこちらに駆け寄ってくる女の子がいた。
「二人ともおはよう!」
「お・・・おはよう。」
「おはようございます。」
駆け寄ってきてくれたのはクレアだった。
「昨日の決闘見たよ!エルルちゃん!すっごいかっこよかった!どうやったらあんな魔術、撃てるようになるの?」
まるで昨日の興奮が未だ冷めぬと言わんばかりに詰め寄り、捲し立ててくるクレア。
「クレアさん、いったん落ち着いてください。エルルさんが困っています。」
私があまりの圧に対応できずにいると、ルゥが助けてくれた。
「おっと、ごめんね、エルルちゃん。」
「大丈夫、気にしなくていいよ。」
「にしても、昨日の決闘ほんとにすごかったからいつか時間があるときに魔術教えてよ。」
「いいよ、だいぶ自己流なところあるけどそれでもよかったら教えてあげる。」
すると「やった!」と喜んで、クレアは私に抱き着いてきた。
少し苦しいけど、こうして対等に接してきてくれる人は少なかったからとても嬉しい。
そんな私の心情を察したのか、ルゥは羨ましそうな表情をしているものの、特に口をはさんだりせず眺めてくれていた。
(今日は帰ったらルゥを甘えさせてあげようかな・・・。)
そんな風に思いながら、私はクレアにしばらくの間抱き着かれていた。
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