第13話 やらかした
(最悪だ・・・。)
皇太子と謎の転入生が決闘するという噂は瞬く間に広がり、放課後の闘技場はルゥの時に負けず劣らずの盛り上がりを見せていた。
ただ、私のテンションが低い理由は他にあった。
(相手が皇太子だから瞬殺できない・・・。)
これが相手がただの一般生徒とかなら、適当な低級魔術でワンパンしても、ルゥの『タイダルウェーブ』ほどのインパクトはないから、そこまで角を立てることなくことを収めることができると思う。
しかし、相手が皇太子となると、下手にボコそうものならやれプライドがどうのこうのといちゃもんを付けられる可能性が高い。
かと言って負けてあげるつもりもない。
(流石にあそこまで言われて黙っていられるほど私も性格良くないんだよね・・・。)
「逃げずに来たことはほめてやる。ただし、今回の決闘はエンディミール学院長に言って監視してもらっている。イカサマなんかできると思うなよ。」
闘技場の対角に立つグラディオスが渾身のドヤ顔で言ってくる。
「別にイカサマなんかしてなかったし、するつもりもないから関係ないね。そんな事よりも早く始めよう、早く終わらせて家に帰りたいし。」
昨日こそ転入初日だったし、クレアからの誘いだったから放課後も時間を作ったけど、基本的には学院が終わったら家に帰ってお昼寝したい。
「いいだろう。俺も暇じゃないからな、とっとと終わらせよう。」
「それでは双方、配置について。始め!」
審判の掛け声とともにグラディオスが仕掛けてきた。
「『ファイアボール』!」
大して期待はしていなかったが、やっぱり繰り出してきたのは火の初級魔術だった。
私はそれを同じ初級魔術の『サンダー』で相殺する。
「俺の魔術を相殺するとは本当に口だけではないみたいだな。ただ所詮は火の初級魔術だ。こっちは受けられないだろ!『我が身に宿る雷よ・・・』」
今度は雷の低級魔術『ライトニング』を詠唱し始めた。グラディオスは火と雷のデュアルマジシャンらしい。
(私とアストライオの属性だなんて何の因果なんだか・・・。)
しかし、低級魔術はまだ即発できないみたいで、まだ呪文を詠唱して魔力を練り上げている途中だった。
(それなら・・・。)
私はグラディオスの詠唱に対し、魔力を干渉させる。
すると、本来私に降るはずだった『ライトニング』は、詠唱主のグラディオスの目の前に降りかかった。
想定していなかった落雷に驚いたグラディオスは、こちらを睨みつけてくる。
「おい!なんで貴様に行くはずの『ライトニング』が俺の目の前に降ってくるんだ!貴様イカサマをしただろう!」
「それなら賢者様に確認してみたら?私は"イカサマ"なんてしていないし、そちらがコントロールを誤っただけなのでは?」
私に煽られたグラディオスがエンディの方を確認すると、エンディは首を横に振っていた。
実際、詠唱に対する干渉なんて昔から決闘に勝つための常套手段でイカサマでも何でもない。
以前のルゥはアカディア先生のことを舐め腐っていたので、威圧目的でわざわざ『タイダルウェーブ』を演出していたが、本来は即発させないと、こうして自身の魔術で自身の首を絞める結果になるのだ。
「くそが、火属性なんか練習しないで最初から雷属性だけ練習しておけばよかった。」
(・・・火属性"なんか"?)
「どちらか一方に集中するのはいいと思うけど、わざわざ火属性を下げるような言い方しなくてもいいと思うんだけど。」
「は?火属性なんざ恥だ。ただでさえ『いいとこどりの建国者』の血が入ってるってだけで嫌なのに属性まで一緒なんて最悪だ。」
私は思い切り下唇を噛み締めた。
強く噛みすぎて、口の中に血の味が広がったけど、それでも噛み締めざるをえなかった。
そうしないと私は目の前の男を衝動で殺してしまいそうだったから。
2、3回大きく深呼吸して冷静さを取り戻してから、男に話しかける。
「そういえばこの決闘、賭けを設定してなかったよね。私が負けたらなんでもしてあげるから、私が勝ったら話を聞かせてもらってもいいかな?」
「お、おう・・・。かまわないぜ。」
努めて普段通りに話しかけたつもりだったけど、かなり外に漏れていたみたいで、男は少し気圧されたように返した。
「ありがとう。それじゃあ気を付けはするけど一応全力で防御してね?」
私がそう言った直後、闘技場内に爆発音のようなものが鳴り響いた。
私が、男の目の前に独創魔術『フォールンゼウス』を落とした音だった。
ただ一点のみの攻撃に特化した魔術で、周囲に一切被害は出さないが唯一、直撃した一点のみに、私が出せる最高威力を叩きこむ魔術だ。
直撃はさせていないので、男にダメージは入っていないが、目の前には極小の穴が地中深くにまで空いていた。
そんなものを目の前に落とされた男は泡を吹いて倒れていた。
「しょ・・・勝負あり!勝者、『エルルア』!」
審判による決闘終了の宣言がなされた後も、闘技場はしばらく静かなままだった。
(やってしまったぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!)
私が頭を抱えて悶えたのは、舞台から引いて冷静になった後のことだった。
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