第10話 今のアストライアはどうなんだろう?

「今はあまり趣向品が出回っていないみたいですね。」

クレアに王都中の洋菓子店に連れ回された帰り、クレアと別れた後でルゥが切り出してきた。

「そうだね。町の建物とかも見るに、あまり贅沢は許されてなさそうな印象だね。国が安定してすぐの時のほうがまだ華やかだったんじゃない?」

「ですね。せっかくですし、腹ごなしついでに調査してみますか?」

「いや、勝手にやるのはやめておこう。下手にばれたりするとめんどくさいし。やるなら明日エンディに話を聞いて、許可を取ってからにしよう。」

「かしこまりました。それでは帰りましょうか。」

そうして屋敷に帰ると、客人がいた。

「あ、やっと帰ってきた。どこに行ってたんだい?」

「なんだ、エンディ来てたんだ。クラスでできた友人と洋菓子店をまわっていただけだよ。」

「そうだったんだ。となるとあそこには行ったかい?昔よく通ってたあのショートケーキがおいしいところ。」

「それに関係あることで話をしたいから家に上がってってくれない?ルゥはお茶を淹れてくれる?」

「かしこまりました。それでは、ただいま開けますね。」

ルゥに扉を開けてもらい、私とエンディは応接間に先に向かう。

暫くして、ルゥが三人分のお茶を持ってきてくれた。

「やっぱりルゥのお茶はおいしいね。」

「恐縮です。」

「ところで僕に話したいことって何かな?」

お茶を飲んで一息ついた後でエンディが切り出した。

「今日例の洋菓子店を含めていろんなところに行ったんだけどさ、前に比べてすごい甘さが控えめになってたんだよね。他のところもあまり甘くなかったから今がそういうトレンドなのかとも思ったんだけど、魔力式の街灯がただの点火式の街灯になってたり、町の建物も最低限の修繕はしてあるけどそれ以上はほったらかしな感じだったから偶然には思えなくてさ。だから調査してみようと思って一応許可をもらおうと思ってたんだよ。」

「なるほどね。仮に変なところを見つけられても僕の責任にできるからって?」

「そういうこと。」

「はぁ・・・。」

流石にため息をつかれた。

「まぁそういうことなら面倒なことはしなくてもいいよ。概ねその通りだし。」

「というと?」

「今の国王の意向なんだよ。国民に必要以上の贅沢はさせる必要がないってね。」

「じゃあそもそも砂糖自体が国内に流通してないってこと?」

「そういうこと。街灯も、あれに魔力を流し込むために魔術師を雇うのがもったいないって言って魔術師じゃなくても灯せる点火式に切り替えちゃったし、建物も雨風さえ凌げればいいって言ってあまり修繕に費用を割かなかったりね。」

「そんなにも財政が困窮してるの?」

「いや、まったく。当の国王自身は割と贅沢三昧だし、貴族への税は減らしたりしてたしね。」

そう他人事のように言うエンディに私は少しイラっとした。

「じゃあなに。エンディはそんな状態を見て見ぬふりしていたっていうの?」

そんな立場が上の人間だけが贅沢三昧できる国が良い国なわけがない。

他の人ならいざ知らず、アストライオの右腕として尽力したエンディがそんなことを言うのは流石に許せなかった。

すると、エンディは少しうつむき気味に言った。

「言えないんだよ。アストライオが死ぬ前に約束したから。」

「約束?」

「うん。国の運営には関わらないっていう約束。僕が何か口を出したら誰も止められないからね。少なくとも国が破綻するような運営ではなかったから。」

「じゃあ国が破綻しなかったらどんな悪政を敷いてもいいっていうの?」

わたしはつい声を荒げてしまった。

ルゥが私の声に少し驚いてしまっていたけど、当の私は全く眼中になかった。

「そういう訳じゃないけど・・・。別に国民が貧しい思いをしているわけじゃない。無理に口を出す必要もないでしょ。」

「でもアストライオが理想としていた国は豊かで国民が笑っていられる国だった。ただ生活できているだけで笑っていられるわけじゃないでしょ。」

「今の国王はあくまでアストライオの子孫であってアストライオ本人じゃない。国の理想像なんて人によって違うんだからアストライオの理想を押し付けるのは違うだろう?」

「でも・・・。」

「エルル様。」

私がまだ言い訳をしようとするとルゥに止められた。

「今回ばかりはエンディミール様の言う通りです。私とエルル様の間でも考えの違いがあるように、アストライオ様とアストライオ様の子孫の間でも考えが異なることはあるでしょう。それを受け入れないのは現国王様に失礼ですしただの我儘でしかありません。一度落ち着いてください、エルル様。」

「・・・ごめんね。少し頭に血が上っていたよ。今の国王にもエンディにも失礼だった。許してほしい。」

「大丈夫だよ。僕もエルルの立場だったら同じようになってたかもしれないから。」

そう言ったエンディは残りのお茶を飲みほした後、よっこらせといって立ち上がった。

「もう遅いし今日は帰るよ。」

「わかった。それと今日はごめんね。」

客間を出ようとするエンディの背に向けて再度謝る。

「いや、気にしなくていいよ。それよりも今日来た本題を忘れるところだった。」

そう言って振り向いたエンディはニッコリと微笑んで聞いてきた。

「学院には馴染めそうかい?」

それに対して私も微笑んで答える。

「多分ね。」

私の返しに対しエンディは「多分か。」と笑いながら出ていき、それについて「お送りいたします。」と言ってルゥが着いていった。

そうして客間に一人になった私は、すっかり冷めてしまったお茶をちびちびと飲みながら、

「アストライオは今のこの国をどう思ってるのかな・・・?」

と空に向かって問いかけた。

しかし、それに対する答えが返ってくることは、当然なかった。

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