第9話 なんか王都の様子が変・・・
「ここが私おすすめのお店だよ!」
クレアに連れられてやってきたのは王都でも1、2を争うほどの名店だといわれている洋菓子店だった。
とても落ち着いた雰囲気で、マスターが作るデザインカプチーノとショートケーキが若い女性に大人気なんだって。
「懐かしいですね、エルル様。」
「そうだね。」
実はこの洋菓子店はこの国が建国されてすぐの時に、一緒に戦った古い友人が作ったお店だった。
彼は到達者ではなかったから、私が眠りにつく前に亡くなってしまったけど、生前から、よく遊びに行っていたし、お店の看板メニューのショートケーキは絶品だった。
とても甘いのにしつこくなく、舌触りがとてもなめらかなクリームと、その中に包まれたスポンジもふわふわ、上に乗ったイチゴの甘酸っぱさがアクセントになっていて、過去に食べたケーキの中で、文句なしに一番おいしいと言えるような逸品だった。
ルゥもこのケーキを食べて育ってきた結果、お祝い事がある日は決まってこのお店のショートケーキを買ってくるほど気に入っており、初代店主が亡くなったときは珍しく涙を見せていた。
二代目になっても変わらずのおいしさだったから1000年ぶりに食べるのが今からとても楽しみだったりする。
クレアの先導でお店の中に入ると、多少年季が入ったところは見られるものの、以前とほとんど変わりない店内が出迎えてくれた。
流石1、2を争う名店とだけあって、放課後になってすぐ来たというのに、店内は同じ制服を着た女子でほとんど埋まっていた。
若い女性の店員に連れられ席に着くと、メニューを見せられた。
「ここのおすすめはやっぱりショートケーキだよ。他にもおいしいお店はあるんだけど、ここのは頭一つ抜き出たおいしさなんだ!」
「そうなんだ。そこまでいうならショートケーキを頼まないとね。ルゥはどうする?」
「私もショートケーキで。」
少し食い気味に返された。
珍しくルゥの目が輝いている。
「ショートケーキ三つだね。飲み物はどうする?」
「せっかくだし私はデザインカプチーノをお願いしようかな?模様はネコちゃんで。」
「私はミルクティーでお願いします。」
「エルルちゃんがネコのデザインカプチーノで、ルゥちゃんがミルクティーだね。」
クレアが内容を確認した後、店員を呼んだ。
すぐにやってきた店員に、クレアが注文内容を告げると、店員はかしこまりました。といって店の奥に下がっていった。
暫くして、テーブルに三つのショートケーキと各々の飲み物が並べられた。
「それじゃ、いただきまーす!」
クレアの掛け声を合図に私たちはケーキを食べ始めた。
1000年ぶりに口にするケーキに胸を膨らませながらまず一口。
しかし、期待に反してショートケーキの味は記憶と違っていた。
「どう?」
クレアが期待のまなざしでこちらに訪ねてくる。
「とてもおいしいね。他で食べた物よりも。」
私は笑顔を張り付けて返すしかなかった。
実際、嘘はついていない。
きめ細かなクリームやふわふわのスポンジはかつての記憶のままだが、昔に比べて甘さがかなり控えめになっている。
ちらりとルゥのほうを見てみると、味わって食べているようだけど、以前の物であれば緩んでいた頬が緩んでいない。
最近は甘さが控えめなのがトレンドなのかな?と思ったけど、ふとここに来る道中の街中の状態を思い出した。
街中には1000年以上前からある店もちらほらあったのだけど、甘味などの趣向品に関する商品だけやたらと少なかった気がするし、以前であれば地中のケーブルを伝ってきた魔力により明かりがつくようなものだった街灯が、一つ一つ火をつけるタイプになっていた。
建物もボロボロとまではいかずとも、必要最低限の修繕までしかされていない印象を受けた。
でも賢者がまだ生きていて、平和ボケするほど最近戦争が起きていない今、国力が低下していたりするような状態ではないはず。
なにか嫌な予感を感じながら、私はケーキとコーヒーを平らげるのだった。
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