誕生日と二人の時間

最近忙しく二人の時間がなかなか作れなかった俺達は、久しぶりにデートをする事にした。

デートと言っても九条院家の別荘に二泊だ。

最近は外を歩くだけで注目の的になってしまって、ゆっくりとデートができないのだ。

それに今日は7月7日。麗奈の誕生日だ。可能なら二人っきりでのんびりしたい。

そんなこんなで別荘についてすぐに俺達はプライベートビーチへと歩いていた。

「暑いなぁ…。」

「もうすっかり夏ですねぇ…。」

チラリと横にいる麗奈を見る。白いワンピースが眩しい。ワンピースから見える健康的な足にもどきりとする。

「どうしました?」

視線に気付いたのか、麗奈は覗き込むように俺を見る。

「いや、今日も可愛いなって思ってな。」

恥ずい。恐らく俺は耳まで赤くなってるはずだ。麗奈がふふッと笑う。

「有難うございます。旦那様も今日も格好いいですよ?」

「いや俺は顔面偏差値もそんなに高くないけどな…。君の横に並んでいいのかも正直わからん。」

「何言ってるんですか?芸能人に囲まれて卑屈になってるのかもしれないですが、智樹さんは普通にイケメンですよ?というかモデルとかでも違和感が無いです。背も高いしスタイルもいいんですから。でもそれ以上に人の好さで人気を獲得してるから、見た目で自信を持てないのかもしれないですけどね。」

自分の顔が格好いいとか思ったことない。隣に超絶イケメンの和樹がいたし…。

「まぁ君が俺の顔を好きならいいか。他の人に何を言われても別に気にならないが君に悪く言われると流石にダメージを受ける…。」

そんな事になれば暫く泣いてしまう。

「私は智樹さんの顔も大好きですけど一番好きなのは性格です。優しくて、頼りになって、そしていつも暖かい…。一緒にいるだけで心がぽかぽかします。だから結婚できるのが嬉しくて仕方ありません。」

そうか。そう思ってくれてるなら嬉しい。

「俺は正直一目惚れだった。君の真剣な目に心を打たれた。でも今は全部好きだぞ。」

言葉にしないと伝わらないことがある。言わない後悔より言う後悔だ。恥ずかしくても口にしたいと俺は思う。

「うん。そうやって真っ直ぐに想いを伝えてくれるところも大好きです!」

そう言って満面の笑みを浮かべてくる麗奈を見て、やっぱり好きだなと思うのだった。


プライベートビーチと言うだけあってここに人はいない。いるのは俺たちだけだ。

麗奈はスタイルがいい。物凄くいい。性的な目で見られても仕方のないスタイルだ。

だから俺は他の男に見せたくなかった。

これが独占欲だという自覚はある。将来的に旦那になるという事も理解している。だがこの残念な男の懐の狭さを許してほしい。

お互い服の下には水着を着ているのでさっさとビーチパラソルと座るスペースを準備する。そして浮き輪を膨らませた。

麗奈はあっさりと服を脱ぐ。そして素晴らしい肢体が露になる。白いビキニに白い肌が眩しい。

「綺麗だ…。」

思った言葉を口に出してしまう。

「え…?えへへ。有難うございます。ほら早く脱いでください!海入りましょ?」

そう言って差し出される手を俺は取る。立ち上がると服を脱ぐ。

「ほら。日焼け止めを塗らないと日焼けするぞ?」

俺がそういうと麗奈は確かにと言ってビーチパラソルの下に寝転ぶ。そして俺に蠱惑的な顔を向けた。

「塗ってくれないんですか?」

うん。流石に恥ずかしい。だが誰も見てはいない。ゴクリと喉を鳴らして俺は麗奈に手を伸ばした。

「ひゃん!」

「あっ、すまない。」

手を引っ込めて謝る。

「大丈夫です。冷たくてビックリしただけなので。続けてください。」

誘うような目に俺はため息を吐いた。こうなれば隈なく塗ってやろう。

そう覚悟を決めて俺は無心で麗奈に日焼け止めを塗ったのだった。


「波が穏やかでいいですね。暑い日差しに冷たい水。どうです?ここの海は中々綺麗でしょ?」

確かに綺麗だ。透き通っているしゴミも浮いていない。

「あぁそうだな。だが先ほどのやり取りで俺は疲れた。」

そう言って俺は浮き輪に乗りながら波に揺られている。

無心とはいっても緊張はする。やることやってて何を言ってるのか自分でもわからないが、日焼け止めを塗るってなんかエロイじゃん。

「ふふ…。でも特別感があっていいです。私の肌を隅々まで触れるのは貴方だけなんですよ?」

そう言って俺に微笑む麗奈はまるで女神だ。

「なんだか恥ずかしいな。だが確かに他の女性に日焼け止めを頼まれても俺は絶対にやらん。そういう意味では君は俺の特別だ。」

麗奈は微笑みながら俺に手を差し出す。彼女が乗っているのはボート型の浮き輪だ。

「俺が乗ったら転覆するかもしれないだろ?」

「大丈夫ですよ。これ3人乗りなので。」

そう言われて断るのもおかしい話だ。だが水着は布面積が少ない。つまり密着すれば我慢するのが大変だ。それでも断れば麗奈が悲しむかもしれない。そう思った俺はバランスを取りながらボートに移動する。麗奈も上手い事バランスを取ってくれたので無事に移動できた。

ボートに使っていた浮き輪を括り付けると俺はゆっくりと横になる。

腕を伸ばすと麗奈が俺の腕に頭を乗せた。

「これはアリです。大好きな人の腕の中で波に揺られるっていいですね!」

「そうか…。」

俺の脳内はそれどころではない。柔らかい感覚にくらくらとする。俺たちは風呂にも一緒に入った仲だ。それにそれ以上の事もしている。だというのになぜか全く慣れない。とりあえず麗奈はそんな感情で俺の腕の中にいるわけじゃない。だからそう…無心…無心だ…。

「ドキドキしてますね。心臓の音が早いですよ?」

上目遣いで見上げる麗奈の目が蠱惑的に揺らぐ。これは誘ってくる時の目線だ。

「したいんですか?」

「正直に言うとしたい。だがこんな危険なところで出来るか。外だし、海の上だし。それに今日明日は2人っきりだし今じゃない。」

麗奈が俺の顔をビックリしたように見つめる。

「どうした。」

「初めて貴方からそんなことを言ってくれた…。」

「いつだってリードされてきた。君が俺の手を引いてたな。情けない事に恋愛初心者だったから…いや違うか。恥ずかしかったんだ。でもそれだと君を不安にさせる。俺は君が好きだ。気持ちを隠すことはもうしない。真っ直ぐに愛を囁くと決めた。こんな俺は嫌か?」

麗奈が目を輝かせて微笑む。

「最高です!」

「そうか。」

抱きついてくる麗奈の頭を撫でる。

空は青く、高く、ボートは心地よい揺れを与えてくれる。まるでこの世界に俺たち二人しかいないみたいだ。

「最高の時間ですね。」

「そうだな。」

どうやら彼女も同じ気持ちらしい。

俺は麗奈を抱きしめながらゆっくりとした時間を過ごした。


海を満喫した俺達は別荘に戻ってきた。

「最高の時間でした!誰にも邪魔されずに堪能できましたね!」

「あぁ。だが戻るのが地獄だった。」

元々海岸付近でボートに揺られていた俺たちだが、30分ほど寝落ちした。大変危険な行為だ。

まぁそれはいい。問題だったのは気づけばだいぶ流されていた事だ。

海岸は見えていたが、俺は麗奈をボートに乗せたまま海岸まで泳ぐ羽目になったのだ。

鍛えていて本当に良かった。

「本当に有難うございます。私も泳げますが、あの距離は厳しかったですから。」

「いや鍛えていたおかげで君を守れてよかったよ。流石にちょっと焦った。」

鍛えているとはいえ足がだるい。麗奈が落ちないように気を遣いながらだったのでフルマラソンを走り切った気分だった。

「ですよね…。ご飯は私が作りますからゆっくり休んでくださいね!」

本当は偶には一緒に料理をしたかった。だが今日はその言葉に甘えることとする。明日もあるし楽しみはとっておく事にする。

「頼むわ…。ちょっと疲れた…。」

「はい!お任せください!」

麗奈は笑顔でリビングから出て行った。

俺は鞄の中から一冊の本を取り出す。

これはこの前香澄さんから貰った番に関する本だ。この先どうなるかわからない。だからこそ俺はもっと知らなければならない。

そう思いながら大事なことを見逃さない様に俺はじっくりと本を読むのだった。


「智樹さん。」

名前を呼ばれて顔を上げるとそこにはエプロンをつけた麗奈がいた。

なんだか新婚生活みたいだ…。

「ふふ。新婚みたいですね?」

「おんなじこと思った。」

立ち上がると麗奈が本に視線を落とす。

「何か見つけました?」

「いや。新しい情報はないな。」

「そうですか。私はもうそれを見る気にはなれません。何かわかったら教えてくださいね?」

俺も麗奈にこれを読ませる気はない。

九条院家の者には辛い話が並んでいる。

「あぁ。隠し事はしない。」

いい匂いがして俺の腹が鳴る。少し恥ずかしく、俺は頭をかいた。

「ふふ。食べましょうか。」

「あ、あぁ。楽しみだ。」

「えぇ期待してください!お義母様に習ったものも沢山ありますよ?」

笑顔で手を引く麗奈の横顔を見ながら、やっぱり好きだなと思った。


食卓を見ると豪勢に料理が並んでいる。

ハンバーグは俺の母さん。パスタとホットサンドは麗奈の母。それ以外にも俺が教えたサラダや揚げ物まで並んでいた。

「凄いな。食べ切れるか?」

「好きなものフルセットです!まぁ残ったら明日の朝ごはんですね。今日の夜はたくさん愛してもらうので精をつけてもらわないと!」

そう言って麗奈は蠱惑的に微笑む。

「君はブレないね。」

「はしたないのは嫌いですか?」

ちょっと不安そうな顔をする麗奈に苦笑する。

「そういう君も好きだよ。」

麗奈は嬉しそうに微笑む。

『いただきます。』

声が重なって俺達はまた微笑みあった。


食事が終わって俺は一つの袋を取り出した。

大きくはないがこの日の為に用意した特注品だ。このプレゼントにプロポーズと今後も守るという誓いを込めた。

「誕生日おめでとう。麗奈。」

「わぁ!有難うございます!開けてもいいですか?」

俺が頷くと綺麗な箱をそっと開ける。

「綺麗…!」

麗奈の目がキラキラと輝く。箱の中にはキラキラと輝く簪が入っている。素材は最高級のものを厳選した。モチーフは月。そしてダイヤモンドの星空。

「洋装にも使えるように気を配った。古来より簪にはあなたを守りたいという意味が込められてるらしい。俺は一生君を守りたい。ずっと一緒にいてくれるか?」

麗奈は簪を箱に戻してテーブルに置くと、俺をソファーに押し倒す。

「私も貴方と一生一緒にいたい。覚悟してくださいね?絶対に貴方を逃しませんから!」

彼女の愛は重い。だけどそれが愛おしい。

「はは。俺も君を離さないよ。」

抱きしめてキスをする。

これから先何があっても彼女を守り切ると想いを込めた。

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