マネージャーは巻き込まれる
「さて、時間は有限だ。早速行こうか?助手くん。」
「そうだな。」
立ち上がって氷華に手を差し出す。
氷華はキョトンとその手を見つめた。
「あぁ。成程。デートだし、そういうことだね?」
そう言って俺の手を握る。
「なんかこそばゆいなぁ。」
そう言う氷華の手にはしっとり汗が出ていた。
「緊張してるのか?」
「そうだね。初めての経験だし。と言っても私は小説の中の私を再現している人格にすぎないわけで、生まれたばかりなのだから当然なんだけどね。助手くんとの距離が今までで一番近いのもあるかな。きっと小説の中の私なら君を蹴り倒しているだろうね。」
「それは怖いな。」
氷華がふふッと笑う。
「大丈夫だよ助手君。君を蹴ったりなどしないさ。小説の中の動きを再現できる保証もないしね。それに麗奈の足に怪我を負わせるわけにもいかない。今日のエスコートは任せるよ。」
氷華の言葉に頷く。
「あぁ。といっても時間制限がある以上、そんなに回れるところは多くない。それを踏まえて一か所をピックアップしている。」
「へぇ。何処だい?」
俺は携帯のマップを氷華に差し出す。
「君の好きな美術館だ。歩いて10分のところにある。」
俺の言葉に氷華は目を輝かせる。
「流石助手君!わかってるじゃないか!」
彼女が小説内でよく足を運んでいるのは美術館と図書館だ。端的に言えば静かなところを好む傾向がある。
店を冷やかしたり等は趣味ではないらしい。
似通っているところの多い二人だが、麗奈は買い物が好きだし、やっぱり違うところもある。
旅に出たら先ずは美術館。そのルーティーン通りに彼女に楽しんでもらおうと俺は考えた。
どうやらそれは正解らしく氷華は輝く笑顔で俺の手を引く。
「後2時間半ほどしかない。案内は頼むよ?」
氷華の言葉に頷きながら俺は歩き出した。
宿を出て、俺は早速氷華の言っていたことを理解することになった。
出て一分もかからない内に子供の泣き声が聞こえてきたのだ。
氷華は俺の手を引いてその子のところに行くと目線を合わせた。まだ小さい女の子だ。
「君。どうしたのかな?」
「お母さんと逸れて宿に戻ってきたけど、お母さんいないよぉ。」
つまり迷子である。俺は黙って成り行きを見守ることにした。変に口を出す方がおかしな方向に進むと直感が告げていたのだ。
「どこで逸れたかわかるかい?」
「わかんないよぉ。」
子供がぐずり出す。氷華は少女に微笑んだ。
「大丈夫。私たちが見つけてあげよう。」
「本当に?」
「あぁ。勿論だとも。」
氷華がこちらを向いたタイミングで俺は携帯で地図を差し出す。
「君の名前を教えてもらってもいいかな?」
「私は亜美だよ。」
「そうか。私は麗奈だ。よろしくね?」
彼女は自分の名前を名乗らず麗奈と名乗る。偶然の出会いとはいえ、また再会しないとも限らないからだろう。
「うん。」
「よし亜美ちゃん。君はお母さんと二人で来たのかな?」
少女は頷く。
「では次の質問だ。君が回ったのはガラス細工、喫茶店、お土産屋さんであってるかな?そして恐らくお土産屋さんからガラス細工の店へ戻る最中に人ごみに流されてお母さんを見失った。違うかい?」
氷華の言葉に少女は頷いた。何故分かったのかと思っていると氷華の目線が彼女の靴に向いていることが分かった。
ガラスのような粉が靴に付着しているのがわかった。ガラス細工の体験を行っているのは一箇所しかない。マップのイベント情報にも載っていた。流石の観察眼だ。
「さて、助手君。お母さんが何処にいるか分かったかな?」
「検討はついた。」
うんうんと氷華が頷く。
「ではお母さんが何処にいるかという謎を解き明かしに行こうか。」
そう言って微笑む氷華は原作を彷彿とさせた。
俺と氷華は間に亜美ちゃんを挟んで手を繋いで歩き出す。着いたのは麗奈と来たところとは違うガラス細工の店だ。
その入り口付近でキョロキョロとする女性を見つける。女性は俺たちに気づいて駆け寄ってきた。
「亜美!」
「お母さん!」
亜美ちゃんは俺たちの手を離れるとお母さんに抱き着く。その後お母さんは何度もお礼を言って去っていった。
俺達は2人の背中が見えなくなるまで見送った。
「なぜわかったとは聞かないんだね?」
「あんなに露骨にヒントを俺に与えてたらな。でもあえて聞こうか。なぜわかった?」
探偵の回答を聞くまでが物語だろう。聞かないというのはルール違反だ。
俺の言葉に氷華が分かってるじゃないかと笑う。
「私がまずしゃがんだのはあの子を威圧させないようにする為と、気になることがあったからさ。探偵とは少ないヒントから答えに辿り着かなければいけない。普通なら見落とす事に気付くのが探偵だ。あの子を見た時にまず気になったのは靴だ。太陽の光に照らされて一部がキラキラ光っていた。最初はラメかと思ったのだけれど、しゃがんで見たらラメではないと分かったよ。後は助手くんの地図を見れば9割はわかる。アレはガラス細工の作成の時に何かミスをしてかかったガラスのかけらの残りだとね。そしてあの子との会話で答え合わせをした。まぁ面白味のない謎だったのは悲しいけれど、いいチュートリアルだったね。」
成程と思う。子供と話す時は目線を合わせた方が威圧感を与えなくていいと聞いたことがある。それと同時に彼女は少女の姿からヒントを得ていたのか。
「凄いな。」
「私は作られた人格だ。だから私には足りないものがあるんだ。助手くん。より真に迫るために今必要なのはなんだと思う?」
今必要な事?わからない。彼女は既にほぼ完成しているように見える。
俺が次の言葉を発せられずにいると氷華がふふッと笑う。
「謎だよ。私には経験が足りないんだ。」
その瞬間キャーっと女性の叫び声が聞こえた。
氷華が俺の手を取り走り出す。
おかしい。何かがおかしい。嫌な予感がして汗が吹き出す。走りながら氷華が口を開く。
「私はさっき君に事件とは起こるべき人のところで起こると言ったね。つまりはこういう事さ。私は謎を求めてる。全力でやると言った手前、経験値を稼ぎたいんだ。」
俺はまだ混乱が止まらずに口を開けない。
声のした先には人混みができている。
人混みをかき分けると、そこには頭から血を流している女性がいた。
氷華が素早く近づき脈を測る。
野次馬は遠目から写真を撮っているが、このままでは救急車も辿り着けない。
俺は地図アプリで住所をだしてチラリと氷華を見る。氷華は俺の目を見て頷いた。
どうやらまだ息があるようだ。良かった。
急いで救急車と警察を呼ぶ。
氷華は布で被害者の頭を抑えて止血している。
既に傷を見つけたらしい。流石だ。
顔を近づけて息を確認しているようだ。
時期にサイレンの音と共に警察と救急車がやって来て、俺達は色々と聞かれることになった。
ベンチに座った俺達は飲み物を飲みながら駄弁っていた。
「ふむ。1時間以上時間を使ってしまったね。お嬢様口調で話すのは疲れたよ。何はともあれ被害者の方が無事で良かった良かった。」
軽い口調で話す氷華。
対照的に俺は落ち込んでいた。
事件は起こるべき人のところで起こる。
つまりデートをした結果この事件が起こったといえるだろう。
ならば責任は取らないといけない。
「それで?謎は解けたのか?」
犯人は未だ逃走中。現場は警察に押さえられている。あと1時間では解けそうにもない。
「靴のサイズは目算で26〜27cm。中肉中背。男。目つきが鋭く、短髪。面識は無し。腕を掴まれて暗がりに連れ込まれそうになって抵抗したらガツン。頭を押さえている最中に被害者の女性が教えてくれたよ。勿論、警察の人にも伝えた。詳しくは彼女から聞いてくれとね。」
あの短時間で彼女はそこまでの情報を集めていたのかと驚く。
「あと一時間を切ってるね。美術館は諦めよう。着いてきてくれるかい?」
「何処にだ?」
氷華はふふッと笑う。
「何処って…それは勿論、謎を解き明かしに行くのさ。」
彼女の言葉に目を見開く。
「特徴に合う男はずっと私たちのそばに居た。きっとすぐに人が集まってきたから紛れるしかなかったんだ。助手くんは焦りすぎだよ。どんな時にもクールでいないと。警察に時間を取られたのは痛かったね。気付いたら見失ってしまって警察にも届けられなかった。小説内の私なら有名人だからその場で謎を解き明かせていたんだけれどちょっと考えが甘かったね。だからほら。行くよ?守ってくれるんだろう?」
俺は頷いて彼女の手を取って立ち上がった。
「あの場に凶器は無かった。それは今も彼が持っているだろう。地図を見せてくれないか?」
氷華は歩きながら口を開く。
俺は携帯から地図アプリを表示して見せた。
「うん。成程…大体わかった。」
氷華は迷いなく歩き出す。
「どこに向かっているんだ?」
「逃走経路を先回りするのさ。まだ凶器は持っているはずだ。処分するのはこの地域を離れてからだと思うね。少なくとも私ならそうする。それを踏まえて最短距離で逃走手段を押さえる。今できる最善をしようじゃないか。タイムリミットが来たら諦める。麗奈の方が大事だからね。だけどきっとその心配はない気がするね。きっと犯人は私たちを狙うから。だから君は常に周囲を警戒してくれると助かる。」
頷いて早足で歩く氷華の横に並ぶ。
氷華はわざと暗がりを狙って進路をとる。
俺は常に周囲に気を配った。
そうして何度目かの裏道に入ったところで目の前から男が現れた。何かを振りかざしながらこちらに向かって走ってくる。
俺は冷静に獲物を持った手を捻りあげると顎に掌底を決めた。顎を揺らされた男はかくんと意識を落とす。
男の上着を剥ぎ取って手足を拘束した。
「お見事。プロの動きだったね。いいものを見せてもらったよ。」
「必ず守るって約束したからな。」
「うん。ちょっとキュンとしたよ。」
氷華の言葉に苦笑いを浮かべつつ男を見る。
男の顔は氷華が言った特徴と一致する。
どうやら間違い無さそうだ。警察へと連絡を入れて電話を切るとタイマーがなってしまった。
「まずいね。時間切れだ。」
氷華は左手を差し出す。
「ここなら誰も見てないし問題ないだろう?私達は道に迷ってたら襲われた。そういうことにしよう。」
「わかった。あとは上手くやっておく。」
指輪をつけるといつものように彼女は意識を失った。俺は麗奈を抱きしめつつ警察の到着を待った。
警察が来たのは麗奈が意識を失っている最中だった。俺は道に迷っていたら襲われたので制圧したことを話した。合わせて麗奈は襲われたショックで気を失ってしまったことと怪我はない事を話した。
警察に同情された俺達はすぐに解放されて麗奈を背に乗せながら宿に戻ったのだった。
「というのが今回の顛末だ。」
ご飯を食べた後、今回起きた事を全て麗奈に話した。
「成程…。起きたら貴方の背にいたのでびっくりしました。何というか…大変でしたね…。」
たった3時間で二つの事に巻き込まれた俺は疲労困憊だった。もう寝たい。
「あぁ。本当に疲れた…。風呂行くか…。」
「メインイベントですね!?」
麗奈の言葉に俺は苦笑いを浮かべながら立ち上がる。麗奈も俺について立ち上がった。
先に浴室に入って体を洗った俺は露天風呂に浸かって麗奈を呼んだ。
衣擦れの音が聞こえてドキドキしてしまう。
そして遂にガラガラと扉が開く音がした。
見ていいのかもわからない俺は、とりあえず海の方を向いていた。月明かりに照らされてキラキラと輝く海が綺麗だ。
麗奈が後ろで体を洗っている音がする。
ドクンドクンと心臓の音がうるさい。
暫くすると音が止んでこちらに歩いてくる音がした。
「智樹さん…。私を…見てください。」
ビクッと自分肩が跳ねるのがわかる。
俺は覚悟を決めて振り向いた。
そこには月明かりに照らされた、一糸まとわぬ麗奈がいた。月明かりで濡れた彼女の肌がキラキラと白く輝いている。
今までの人生でこんなに綺麗なものを見たことがないと言えるほど麗奈は綺麗だった。
「綺麗だ…。」
思わず声に出てしまう。麗奈は頬を赤らめながらお風呂に入ってくると俺の横に座った。
「いい湯加減ですね…。」
「あ、あぁ。そうだな。」
どもりながらも応えて海を眺める。どんな言葉をかけていいかがわからない。
「夏は花火が綺麗に見れるそうです。長い休みになりそうですしこうやって二人でのんびりしながら眺めたいですね。」
「花火か…。それもいい思い出になるかもな。車の免許は来年になりそうだし…。夏もここに来るか。」
来年からは二人とも優秀生徒制度の対象者だ。時間は無限にある。
「はい。お父様にお願いしておきます。またお泊りできると思うと楽しみです。それに氷華に美術館を見せてあげないと可哀そうですし。車の免許を先延ばしにするのは残念ではありますが、今はこの映画を優先ですしね。ところで智樹さんは私に演技を辞めてほしいと考えてますよね?」
俺の考えなどお見通しらしい。麗奈に負担をかけてしまっているのは俺の判断ミスからだ。当然これで終わりにするべきだ。
「そうだな。この映画が終われば引退してほしい。」
「貴方がそう言うならそうします。でも氷華という人格がこうして形成されても特に私に害はありません。勿論人格を増やせば何か起こる可能性もあります。それを加味して令嬢は解き明かすの実写のみであれば私は受けてもいいと考えてます。」
確かに氷華の人格は友好的だ。麗奈を尊重しておりルールを厳格に守っている。だが彼女が表に出る危険性を俺は知ってしまった。彼女は麗奈の作った人格だが、原作同様に事件を引き寄せる危険性を孕んでいる。だがそれでも麗奈が望むなら望むように支えるのがマネージャーとしての役目だ。
「俺は君のマネージャーだ。君のやりたいことを支える。君がそう言うなら実写化の件のみ仕事にしてもいい。正直見通しが甘かった自覚が俺にはある。直感が外れたことは今までなかったんだけどな…。自信を失うよ。」
「直感が外れた…。果たしてそうでしょうか…。貴方の直感はある意味ではあたっていたと思います。氷華の適役は私しかいなかったと思います。だからこそこんなにも不思議な現象が起こっているのだと思います。彼女は小説内の本人と比べてどうですか?」
麗奈は氷華の行動を知覚できない。だからこそ現在の完成度がわからないのだろう。
「間違いなく真に近いよ。もはや本人と言って差し支えないだろう。」
「そうですか。なら尚更無くすのは惜しいですね。」
麗奈はそういうと左手の指輪を摘まむ。
「麗奈?」
「彼女とも話をしてください。私の意見は伝えましたから。それに私の中の氷華はきっと智樹さんに惹かれています。浮気はダメですけど人格を作ってしまったものとして彼女にも楽しい思い出を作らなければなりません。」
そう言って止める間もなく指輪を外してしまった。一瞬ふらりと意識を失う麗奈を抱き留める。柔らかくていい匂いがした。
「これは…どういう状況…いやうん。わかった。麗奈が自分で指輪を外したのか。助手君はこんな形で私を呼んだりしないからね。」
肩に手をかけて氷華が大勢を戻す。
「律儀な子だということは理解できた。うん。私も君を最大限尊重するとするよ。」
そう言って氷華は胸に手を当てた。
「すまないね。助手君。行為に及べなくなって。」
俺は首を振る。
「元々手を出そうと思っていない。麗奈は君と話すようにと言った。ならここで必要なのは対話だろ。」
「話…ね。」
氷華は夜の海を眺める。俺も視線を海にやった。
「私は作られた人格だ。この劇が終われば退場する。それだけの存在だよ。別にこの世界で何かを成し遂げたいわけでもないしね。」
「そうか…。確かに君が何かを成し遂げたとしてもその功績は麗奈のものだ。だけど劇の役者にはなれる。君の役を演じる存在としてな。俺は麗奈がやりたいなら支えるさ。元々この仕事を受けたのは俺だから。」
沈黙が落ちる。横顔を盗み見ると氷華は何かを考えている様な難しい顔をしている。
「私は謎が好きだ。作られた人格だとしても知りたいという欲求が溢れてくる。それだけじゃなく、外に出れば厄介ごとを引き寄せるようだ。百害あって一利なしだと自分でも思うけどね。」
その目は少し悲しそうだった。
だからこそはっきりと伝えなければならない。
「それを決めるのは麗奈だ。君でも俺でもないさ。」
俺の言葉に氷華は少し驚いた顔をして微笑んだ。
「そうか。では麗奈には君に全て任せると伝えてくれ。」
そう言って突然近づいたかと思うと俺の唇を奪う。驚きから目を見開くと、いたずらをした子供のようにはにかんで氷華は意識を失った。
俺は抱き寄せて指輪を嵌めなおすと、寝てしまった麗奈をお姫様抱っこして風呂を出た。
今日の制限時間を過ぎての入れ替わりだ。数分だったとしても、いつ目覚めるかわからない。
色々と全て見えてしまっていたが、恥ずかしがっていては麗奈が風邪をひくかもしれない。俺は心の中で謝りながらちゃんと体を拭いた。
下着まではどうしていいかわからず浴衣を着せて布団に寝かせる。
一息ついて、俺は麗奈の横で麗奈が起きるのを待つのだった。
「ん…。」
寝ていた麗奈が声を出して体を起こす。
目を擦りながら目線を下に落とした後に部屋を見渡すと俺を見つけて微笑む。
「服。有難うございます。」
「いや…すまん。色々と拭くときに見てしまった。」
麗奈が少し顔を赤くする。
「別に問題ありません。いつかは子供を作る関係です。見られて困ることも無いです。それよりも氷華とは話を出来ましたか?」
「あぁ。君に任せると言っていた。」
麗奈は少し考えるように俯いて俺に微笑む。
「決めました。私は今後一作限定の女優になります。そのようにマネジメントしてくれますか?」
「わかった。君の望むようにするのが俺の役目だ。だが仕事が偏るぞ?」
「いいですよ。私子役時代からの貯金があるので。私と智樹さんはあまり贅沢をすることも無いでしょう。偶に二人で旅行に行くくらいできればいいです。」
確かにそう考えると俺たち二人で豪邸を建てる程度の貯金はある。家は冬夜さんが用意してくれているし、今後困ることも無いだろう。
料理だって俺たちは別に高級食材を使いたいという欲求は無い。
今後大きな金がかかる場面は節目のプレゼントと旅行くらい。後は子供が出来たときの養育費くらいだ。
海斗の話では少なくとも3人は授かるのかもしれないがそれを加味しても余裕はある。
贅沢をしなければ何も問題は無い。
「そうだな。子供にお金がかかっても問題ない貯蓄もある。親からは美羽の貯金まで全部俺に渡されてしまったしな…。」
「美羽の貯金を当てにする気はありませんが私も浪費癖はありません。普段着ている服だって別にブランドものではないですし。芸能人として外に出るときのみの服は流石に仕方ないにしても普段は質素がいいですね。私派手なのは嫌いなんです。」
「そうか。君が婚約者でよかったよ。ところで言い辛いんだが…。」
俺はなんと口にしていいか迷う、だが隠し事はしたくない…。
うん。正直に言おうと覚悟を決める。
「氷華にキスされた。」
俺の言葉を聞いた麗奈の目が見開いてぷくっと頬が膨らむ。
麗奈は立ち上がると横に座る俺を押し倒す。そしてそのまま馬乗りになった。
「すまん…。油断していて…。」
「私の体だからかろうじて許せます。しかし上書きは必要です。」
それは許せていないのでは?と口に出す間もなく俺の唇はふさがれる。
その後、約一時間の間、俺は唇を奪われ続けた。気持ちいいような苦しいような感覚に襲われながら俺は麗奈からの行為を受け入れ続けるのだった。
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