元マネージャーと女優の体育祭と思わぬ事態

麗奈と過ごすようになって1ヶ月。つまり5月になった。ウチの学校では5月に体育祭がある。全学年が入り乱れる1大イベントだ。

芸能科も全員参加するせいかテレビも来る。

その中で一番注目されるのは男女ペア競技というものだ。まさかあの人が!?という組み合わせが注目を浴びる。

去年は俺と美羽が長距離リレー、二人三脚でぶっちぎり学校中が沸いていた。

今年は参加を見送る予定ではあったが、麗奈と参加することになった。

何故そうなったかと言えば海斗が原因である。

そうそれは二日前に遡る。

海斗は大学部の生徒会長。生徒会長はイベントを盛り上げる義務がある。

全てのイベント時に巨大な体育館に一度全校生徒を集めて決起集会を行うのが通例となっている。

「さて皆。今年もこの季節がやってきた。そう全学級、学年が入り乱れる体育祭だ!今回は新たな試みとしてカップル競技の設立を行うこととした!」

会場がざわつく。男女ペア競技と何が違うのか。違いがよくわからない。

「まぁ落ち着け。このカップル競技に参加する条件は壇上から愛を叫び、相手に了承してもらうことから始まる。勿論特典はある。それは特別優秀生徒制度だ!」

海斗の言葉に拍手が巻き起こる。

「現在年に3人しか選ばれない制度。大学部に達していないものは大学部になったときに適用される。そして今回の枠でカップルとなった者たちは無条件で同室を認めてやる!」

ドンと箱が5個海斗の前に置かれる。つまりあれが幼、小、中、高、大とそれぞれの箱ということか。とはいえ幼稚園、小学生、中学生に愛を叫ばせるのは如何なものなのか…。とんでも企画を持ち出してきたものである。

「この箱の中には名前が記載された紙が入っている。」

「では大学部から行くぞ!」

こうして始まった大告白大会。

成功したり失敗したりと大盛り上がりの中、大学部は終了した。

そして高校部の三人目で事件が起きる。

「九条院麗奈!!」

海斗が麗奈の名を呼んだのだ。映っている手元カメラにもはっきりと彼女の名前が書かれている。すでに確実視されている彼女の名前が呼ばれることは彼女も予想していなかったのだろう。椅子に座って本を読んでいた彼女にスポットライトが当たる。彼女は一瞬ぽかんとした後に立ち上がり壇上に登った。

「貝沼先輩。後でボコボコにします。」

マイクが彼女の声を拾う。笑いが起こる。

麗奈はその笑いを無視してマイクを海斗から引ったくり真っすぐに前を見た。

「神原智樹さん!好きです!私とカップル競技に出てください!」

叫ぶような声だった。まさにヤケクソというやつである。俺にスポットライトが当たってマイクを渡された。

「喜んで!!」

断るという選択肢もあったが恥をかかせるわけにはいかない。拍手が起こる。こうして学内での俺たちの立ち位置は確定した。まぁ元々外から見て付き合ってるように見えるように細工していたので何の問題もない。問題があるとすれば既にその制度を使っている俺が1枠潰したことだろう。兎にも角にもこうして俺たちはカップル競技なるものに参加することになったのだった。


「どういうつもりですか!?」

今、俺の部屋には海斗が来ていた。

「仕方なかろう?クジは不正がないよう映像で撮られていた。流石に引いた俺も面食らったがな。まぁ…なんだ?流石の運命力だな。麗奈嬢?」

あの海斗が苦笑いを浮かべている。これは珍しい光景だ。写真を撮りたい。

「仕込みはないと?」

「無論だ。貝沼の名にかけてな。」

麗奈は力が抜けたように椅子に座り込む。

「麗奈嬢は確実視されていても確定はしていない。クジが入っていたのも当然だろう。」

それはそうだ。万に一つもあり得ないだろうが彼女が何かの拍子に成績を落とす可能性だってある。だから当然確定はしていない。

「私はいいけど智樹さんを巻き込んでしまいました。穴があったら入りたい。」

麗奈は完全に頭を抱えてしまう。

「と言ってるが?」

麗奈がを指差しながら海斗がこちらをみる。

「寧ろこれで学校の奴らは俺たちが付き合ってると認識するだろ。それはそれで計画通りだ。願ったり叶ったりで問題などないさ。そんなことよりカップル競技ってなんだ?」

俺の言葉に麗奈がばっと顔をあげて明るくなる。何を心配してるかは知らんが迷惑とは思ってない。

「高得点競技だ。今回はお前達兄妹という広告塔を失ってしまった結果の苦肉の策だ。カップルリレー、カップル二人三脚、カップル騎馬戦で争う。そしてベストカップルとなった2人には特製のリングと海外旅行が進呈される。因みに芸能科の者がカップル競技に出る場合は学校としてイメージの維持をサポートする事になる。つまりお前たちにも益はある話だ。」

成程。テレビが入る以上は芸能科の人間はやり辛い。そこを学校がサポートしてくれるなら安心できる。

「賞品はともかく、やるからには九条院の名にかけて負けられません。」

「まぁ俺も彼女に恥をかかせる様な事はしない。全力でやらせてもらう。」

「うむ。期待している。」


ではな。と手を上げて海斗は俺たちの部屋から出て行った。俺たちはそんな海斗を見送る。

「とはいえかなり厳しいですね。智樹さんが出る以上、私が足を引っ張るわけにはいきません。」

俺と美羽のペア競技は中高6年間で確かに体育祭の目玉となっていた。バイタリティの塊である彼女が学力を犠牲にして全振りしたのが運動神経なのだから、当たり前と言えば当たり前である。

かくいう俺も妹に恥をかかさない為にそれなりに体を鍛えてはいた。最近だって寝る前の筋トレは怠ってはいない。だが夜の時間を麗奈の過去出演ドラマの鑑賞に充てているのも事実であり、その分衰えていると言えばそうなのかもしてないが…。

何にせよ前回の活躍をすることは現状不可能だ。何故ならば長い付き合いである美羽とのペア競技には当然ながらそれにブーストかかっている。

俺たちはお互いの癖を理解している。ペア競技というのは息の合い方が全てだ。例えば俺たち兄妹は二人三脚の時に肩を組まない。そんなことをすればスピードが落ちるからだ。肩を組むという行為は体の動きから相手の動きを察知するためにやることだ。俺は美羽の考えや力を入れるタイミングなどを把握していた。だからその行為を省いていた。だが麗奈との二人三脚ではこれも使えない。

勿論全力ではやるがそれは彼女に合わせた全力になる。

「だが…度肝を抜いてやる方が楽しいか…。」

誰もが恐らく美羽と俺のペア競技程上手くいくわけがないとわかっている。

だがそんな前評判を覆す活躍を見せた方が面白い。

「智樹さん?何か悪い顔をしてますよ?」

「どうせなら俺と麗奈のペアが俺と美羽のペアの記録を抜いたほうが楽しくないか?」

「それはまぁ…。そうですね。ですがお二人の記録は私も知っています。運動神経全振りの美羽には勝てる気がしません。」

「いやそうとも限らない。これも一種の相互理解だ。つまり特訓だ。そうと決まれば今週末は俺のデートに付き合ってもらうぞ。土日の二日間俺の実家と実家付近に行く。泊りになるから冬夜さんに連絡しておいてくれ。勿論俺からも連絡しておく。」

俺はそう伝えてリビングを出た。探さなければいけないものがあるからだ。どこにしまったか全然覚えていない。

トレーニングメニューどこにしまったっけ。

「と、泊り!?ご両親にご挨拶!?」

扉の先から麗奈が何かを言っていたが考え事をしていた俺の耳に届くことは無かった。


.

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る