買い物デート③

「わぁ!色々ありますね!」

「そうだな。まさか俺が女性に指輪を渡すことになるとは思わんなかった…。」

「私だってこの展開の速さには驚いてますよ?」

まぁそうか。ちゃんと説明しないとな。

「これにはちゃんと理由がある。だが俺の予定ではネックレス、ピアス、ブレスレットの予定だった。指輪と言ったのは君だ。」

「だって私に希望を聞いたらそうなるって思わないですか!?」

それもそうか。彼女は俺に対しては馬鹿になる傾向がある。

「指輪は指のサイズもあるからポンと決めるものでもないな。ブレスレットにするか。」

指輪は発注から時間もかかると聞いたことがある。すぐにつけれないとその間も彼女は陰口を言われるだろう。それは俺が耐えられない。

「智樹さんはプレゼントの意味とか知ってますか?」

プレゼントの意味。今まで縁がなかったのにそんなの知ってるわけない。

「知らない。」

「ブレスレットは『束縛したいほど強く想っている』ですよ?」

「辞めよう。すまんかった。」

俺の反応を聞いてくすくすと笑う。この子のいいところはだまし討ちをしないところだ。黙っていれば貰えるのにちゃんと教えてくれるところがいい。

「因みにネックレスはあなたは私だけのもの。イヤリングは両想いと確信できる場合や、両想いまでもう一押しです。」

ふむ。選択は難しい。だが意味合いで日和るのは論外か。さっきは思わず辞めようと言ったがそれでは本末転倒だ。

「ネックレスだ。」

「良いんですか?だいぶ意味合い強いですよ?勘違いさせるかも。」

「それが目的だからな。」

麗奈がキョトンと俺を見る。

「君は美人で可愛い。」

「いきなり何を言うんですか!?」

顔を真っ赤にする麗奈。うん。可愛い。

というか何を驚いてるんだ。事実だろう。

「まぁ聞いてくれ。一般的にこういう場合は美人にすり寄る男が陰口を叩かれる。だが君とこのような関係になってから3日間、俺はクラスに普通に溶け込んだ。そして何故か君が陰口を叩かれている。そこで俺は思ったわけだ。」

「何をですか?」

「どうやら俺は過大評価をされている。俺にマネジメントをしてくれと言ってきたのが何人いたと思う?」

麗奈は少し考えると口を開く。

「知ってるだけで25人ですね。」

「うん。惜しいな。正解は29人だ。そして俺は断った。その上でこうして一緒にいる姿を周りに見せている。このままでは良くない。」

「別に良くないですか?アクセサリーなんてつけたらつまりそういう事だと言うようなもので今度は貴方にベクトルが向くかもしれません。それは私の本意ではありません。」

彼女はきっと2年近く俺のことが好きだった。

そして俺を支えるためにこうして俺の横にいてくれている。そんな彼女の気持ちに報いたいと思うのは、男として当然だ。

「俺は俺の過大評価のせいで君に傷ついてほしくない。だからこの際ハッキリさせる。もし俺がマネージャーをするとするなら、相手は君だけだとな。」

これが彼女の行動に報いるために俺が出した結論だ。俺はまだ彼女の事で知らないことが多い。だから頷くことも難しい。

そんな現状をすぐに解決するためには外から見て俺たちが付き合ったと思わせる事だ。

現状付き合ってはいない。未来も未確定だ。だがそうならなかったとしてもヘイトは俺に向くようにしなければいけない。

その後の事は追々考えるとしよう。

「よくわかりました。」

うんうんと麗奈は頷く。

「結婚します?」

「君はふざけないと気が済まないのか?」

「いや本気ですけど。」

「本気なら、なお悪いぞ?」

真面目な話をしたつもりだったが…。

「私は貴方のことが好きです。そして貴方はまだ私を好きじゃない。なのに私を守ろうとしてくれている。私の行動は10割が私欲です。貴方に要らない負担をかけている自覚があります。だから貴方は気にする必要なんてないし、陰口なんて叩かせておけばいいんです。自分の行動の責任は自分で取ります。というわけで放置してもらっていいんですが、これ以上説得の言葉は出せません。だって嬉しいんです。好きな人が私の事を思ってくれる。これ以上幸せなことはありません。今すぐ結婚して欲しいです。」

一気に言って上目遣いで俺を見てくる。

だが彼女の発言の中には一つ勘違いがある。

「何を勘違いしているかは知らんが俺は君の事はわりと好きだぞ?だが付き合うとなるとまだ結論は出せない。もっと君の事を知って、君の人生を背負う覚悟が出来るまでは付き合えないし手も出せない。時間をかけて考えたい。」

俺の言葉を聞いて麗奈は目をぱちくりとした後に嬉しそうに微笑む。

「もう一回言ってください。」

「…好きだ。」

「ふふ…。アクセサリーはありがたく頂きます。だから覚えておいてくださいね。私がいつでも貴方のものになる準備がある事を。」

麗奈が妖美に微笑む。

俺は頬をかくと視線を逸らした。


アクセサリーと言ってもブランドは様々だ。

ネックレスは手頃な価格も多い。

「本日はどんなものをお求めですか?」

「そうですね。一般的に大学生カップルがつけそうなものを考えています。」

麗奈が口を開く。こういう時には女性に任せた方が話が早い。

「そうですか。お予算はおいくらをお考えですか?」

麗奈がチラリとこちらを見る。

「一人当たり4万でお願いします。右手の薬指につけるペアリングもいくつか見せてもらいたい。因みにペアリングは完成までにどれくらい時間がかかるかも知りたい。」

「ペアリングは在庫によりますね。今在庫があるものであれば刻印に1から2時間。こだわりがあるのなら二週間ほどいただきます。」

なんだ。今日できるものもあるならリングでもいいな。

「そうですか。どうする?ペアリングでも今日中に出来るならいいぞ。」

麗奈に聞くと首を振る。

「いえ。それは婚約の時に堂々と左手の薬指に付けますから。」

そういうものかと頷く。

「ネックレスをいくつか見せてください。」

「わかりました。少々お待ちください。」

店員が後ろに下がると同時に、俺たちは個室に通された。

「ん?こんなところに通されるものなのか?てっきり店頭で選ぶのかと思った。」

あんまりジュエリーショップというもには来ないからよくわからない。

「さらっと貴方が選んだこのお店はハイブランドのお店です。私たちは服にもブランド品を入れてますし上客になるかもと思われても仕方ありません。貴方の時計は高級時計ですし。」

あぁ。そうか。そういえばこの時計は100万を軽く超えていた。

妹からのプレゼントなのだがこういう場所ではステータスとして見られることもあるのか。勉強になるな。

そんなことを考えていると店員が何品か持って入ってきた。見てもよさはわからない。

「任せた。」

小声で麗奈に伝えると麗奈は頷いて。一つ一つ手に取って確認する。

「一番高いのはこれですね?」

「はい。流石のご慧眼ですね。」

「間違いなく一人頭15万は超えるでしょう。ついてるのはダイヤ。それに一級品です。これは下げてください。」

ダイヤっぽいなぁとは思ったが、全然わからなかった。成金だとでも思われたか?

店員は微笑みながらネックレスを下げる。

「誕生石…。こちらは見る限り細かな装飾がありますね。予算内の最高額がこれでしょうか。逆にごてごてと宝石がついているように見えるこれは見た目重視の安いものですね。私としてはリングがついたやつも悩ましい…。」

最終的に麗奈は三つ残した。

「誕生石、リング、ハートで迷います。どれがいいですか?」

俺の方を振り返る。なるほど。そういうことかと納得してじっと見る。

「そうだな…。」

やはり目を引くのはダブルリングのネックレスだ。これなら男がつけても違和感はない。

それに離れることのないリングの意味など調べなくてもわかる。

「これにするか。」

「はい。私も賛成です。」

おそらく俺がこれを選ぶことは彼女も理解していた。要は最終決定を俺に任せる事で俺を立てたわけだ。

「刻印はどう致します?」

「2人のイニシャルをお願いします。」

麗奈の言葉に店員さんも頷き、俺達は諸々済ませた。

「2時間ほどかかりますのでお買い物が終わりましたらまたお越しください。」

店を出て少し歩く。

「凄いな。ぱっと見では全然わからなかったぞ?」

「慣れですよ。これであそこで指輪を買う際には少しは有利になりましたね。私の事も覚えたでしょうしね。」

頼もしい女の子である。

「次はどうするか。」

「お揃いのマグカップが欲しいですね。」

「付き合いたてのカップルみたいなことを言うんだな。」

「いいじゃないですか。私の事好きなんでしょ?」

頬をかく。まぁこういうのも最初の一歩としては悪くないか。

「あっ!今日は引越しの関係で買い物デートになりましたが次回は私主体のデートですよ!行き先は某有名キャラクターのショップです!目的はぬいぐるみです!」

「あぁ。喜んで付き合おう。」

彼女は楽しそうに笑う。

それはあの日にしたデートの約束。相互理解のためのデートだ。遠慮もなく好きなところに相手を連れ回す自分本位のデート。

うん。今から楽しみだ。

今はもっと彼女の事を知りたい。

隣で笑う彼女の色々な表情をもっと見たい。

俺たちはゆっくりと歩く。

俺たちのペースで、俺たちの歩幅で。

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