買い物デート②

下着を買うことで全てを使い尽くした俺はご飯を提案し、俺たちは食事のエリアをうろついていた。時間も昼だしいい時間だ。

「何を食うか。」

「そうですね…。私たちが二人ともあまり作らないものがいいんじゃないですか?」

一理ある。となると中華か?

「私もそう思います。」

「まだ何も言ってないだろ。」

「中華ですよね?」

「正解。」

普通に怖い。だが当てることはそんなに難しくないか。結局は消去法だ。

「ここの中華は結構有名ですよね。間違いなく並びます。」

「そうだな。コインロッカーに預けるか。」

「賛成です。というか少しは私も持ちますよ?そこまで貧弱じゃないです。」

「そんなことはわかっている。これは癖みたいなものだ。」

「そんな風に言われるとこれ以上は言えませんね…。辛かったらいつでも持ちますから言ってくださいね?」

うん。この子はちょっとやばいところもあるがちゃんと気も使ってくれる。

だが女性に荷物を持たせるわけにはいかない。これはくだらない男の意地だ。

「あぁ。遠慮や気遣いはしない約束を作ったのは俺だが、これは男の意地というやつだ。わかってくれ。」

麗奈はふむと少し考えて荷物を持つ俺の手に自分の手を絡ませてくる。

「男の意地はわかります。でも初めてのデートですし、こうしましょう。」

器用に袋の取っ手に手を入れてきたので俺は拳を開かざるを得ない。

気づけば恋人つなぎになり、一緒に荷物を持つ形になる。自然と距離も近づいた。

女性特有の匂いが鼻腔をくすぐる。近い。距離感がバグっている。これはかなり恥ずかしい。整った奇麗な顔が満足そうに微笑む。

「この距離ならキス出来ちゃいますね。します?」

蠱惑的な上目遣いで顔が近づいてくるが俺はかわす。

「しない。」

「ふふっ。照れ屋さんですね?」

くっ、年下にいい様にからかわれている。

「というかコインロッカーはすぐ先だ。これをする必要があったのか?」

「勿論です。より近づきたいという乙女心ですよ。押してダメなら押し続けろ。です。」

「押してダメなら引くとこじゃないか?」

「相手によってはその戦法もありかもしれません。でも貴方相手には一番やってはいけない戦法ですね。引いたら引いただけ離れていくでしょ?」

言葉に詰まる。その通りだから何も言えない。

「俺の事をよくわかっている。」

「私が誰の親友だったか知ってますよね?」

実の妹の親友だ。成程。美羽がそこまで話すほど彼女は信頼されていたらしい。

はぁとため息を吐く。このままでは年上としての威厳が消滅してしまう。

「免許でも取りに行くか。」

「あら。突然どうしたんです?」

「今こうなっているのは荷物があるからだ。荷物を運搬できればこんな恥ずかしい目にあうこともない。迷っていたが合宿免許に行くことにする。」

口にしてから思い出す。確かカップルプランというのが安かった。美羽に車を運転させるのは危ないから諦めたが彼女なら問題ないだろう。

「夏休みに一緒にどうだ。本当は春休み中に行くはずだったんだがタイミングを完全に逃したんだ。二人で行った方が楽しそうじゃないか?どうやらカップルプランというものがあって安いらしい。一度美羽と行くことを検討したんだがほらあの子は不器用だろ?調べたはいいが諦めたんだ。」

彼女の誕生日は7/7。つまり夏休みには18歳になっている。彼女に行く気があれば俺も安く免許を取れるし、カップルプランは2人で受けなければいけない実技も一緒に受けられる。知り合いならば気が楽だ。

俺の提案に麗奈が目を輝かせる。

「いいですね!言質取りましたよ?」

言質取ったは口癖なのか?まぁ嘘は吐かない。

この数日で彼女といるのが楽しいと感じる自分がいるのも確かだ。

「あぁ。俺も助かる。」

すっと麗奈が離れる。

「カップルプラン…。つまり同室…。何も起きないはずはなく…。」

何かをボソボソと呟いているが聞き取れない。

「どうした?」

「いえ!楽しみですね!」

そういいながらまた俺に体を寄せてきた。忙しい子だ。それに何を言っていたのかわからんが怪しいな…。まぁいいか。

コインロッカーを開けて中に物を入れて立ち上がる。また手を握って2人で中華料理店の方に歩き出した。

「どうせなら予約をしておけばよかった。すまん。気が利かなくて。」

「待ち時間があるということはゆっくり話す時間があるということです。これもデートの醍醐味だと思いませんか?」

「確かに。そういう考え方もあるのか。君は俺とは違う視点を持っているから勉強になるよ。」

麗奈が手を重ねてきたので手を握る。自然と恋人つなぎになっていることに気付いたが、突っ込むのは面倒だから放置することにした。

「あれ。智樹と…九条院…?なんでお前が智樹と…。」

目の前から歩いてきたのは和樹だった。人当たりのいい彼らしくない反応だ。

「あら白濱先輩。こんにちは。」

涼しい顔で挨拶をする麗奈。だが俺との関係をアピールするように俺の腕に自分の腕を巻き付けてくる。

「もう一度聞く。なんでお前が智樹と一緒にいるんだ?」

「あら。美羽に相手にされなかったからって私に当たるのはお門違いかと思いますよ?私は真っ当に智樹さんにアピールをしているのです。まだ答えはいただけてませんが順調です。」

冷たい微笑み。うん完全に学校モードだ。

違うのは俺の腕に抱き着いて、離れる気が0とうところくらいか。

本気か?と和樹が俺を見るが苦笑いで返すしかない。この状態を短く説明するのは難しい。

「はぁ…。まぁいい。だが傷心中の智樹を利用しようと思ってるなら俺は許さないぞ?」

「何を馬鹿なことを。私は本気で彼を愛しています。」

麗奈が和樹を睨む。これは本気で怒っている。

「まぁ待てお前ら。冷静になろう。ここはショッピングモール。そして今から昼食の時間帯だ。良かったら3人でご飯でもどうだ?」

腹が減っては戦ができない。相性の悪そうな雰囲気があるが、和樹は俺の幼馴染だ。そして麗奈は美羽の親友であり俺の友達だ。冷静になって会話をしてほしい。

「いや今日は辞めとく。俺はお前に迷惑をかけたいわけじゃないしな。」

「そうですね。私もそれは本意ではありません。それに今日は初めてのデートです。楽しい思い出だけで終わらせたい。」

二人は睨みあいながらお互いを牽制する。

「わかった。お互いの主張はバラバラに聞かせてもらう。」

こうなってしまっては俺が上手く仲を取り持つしかない。今日はとりあえず麗奈だ。今はデート中だからな。

俺は和樹にすまないと片手を挙げると彼もばつが悪そうにこちらに片手を挙げた。


「で?何があった?」

「喧嘩をしてるわけじゃないですよ?彼のチームの男性を振っただけです。まぁ彼が私を警戒するのは私の男嫌いを知っているからでしょう。美羽のお兄さんとはいえ、男性嫌いの私が突然男性に靡くとも思わないでしょう。貴方を傷つけないか心配してるんだと思います。だからさっきの態度に反省している部分はあります。彼とは幼馴染なんですよね?」

「あぁそうか…。成程…。」

彼女を知らない和樹からすれば、現状は俺をマネージャーにするために麗奈がすり寄っているように見えるのか。もしかしたら和樹以外の第3者からもそう見られていてもおかしくはない。

「早急にやらなければならない案件ができてしまったな。」

「どうしたんです?」

「どうしたもこうしたもない。麗奈。クラスで何か言われてるんじゃないか?」

俺の言葉に麗奈がバツの悪そうな顔をする。

「女生徒は何も言ってきてませんよ。男性は陰口を叩いている人が増えてるみたいですけどね。といっても智樹さんを悪く言う人などいません。いたとしてそれが私の耳に入れば叩き潰しますけどね。」

彼女は自分が何を言われても気にしない強さはあるが、言われていい陰口などない。

はぁとため息を吐く。人間関係というのは生きていれば避けて通れないことだ。

であればこの中途半端な関係を形だけでもそれなりの物に仕上げなければならない。

考えがあるが今はまだ難しい。万全整えてから始めるために、今できる手っ取り早いことは俺も矢面に立つことだ。

例えばお揃いの物を身につける。そして昼休みに彼女の教室に彼女を迎えに行く。朝は彼女を教室に送り届ける。帰りには教室まで迎えに行く。

彼女が俺に擦り寄っているという今の認識を逆転させるのは俺が彼女に恋をしてるように見せる事だ。傷心の俺が恋に溺れるというのはおかしいことではないはず。やるなら徹底的に。泥を被るべきは中途半端な俺だ。

この行動が彼女を守ることに上手く作用すれば安心して学校にも通えるだろう。

よし。やるべきことは決まった。

「どうしたんですか?」

「ネックレスとピアスどっちがいい?」

「え?」

キョトンと俺を見る麗奈に俺はお揃いだよと伝える。麗奈は目を見開いた後に顔を赤くして指輪でと呟く。ぶれないなぁと苦笑いを浮かべつつ、午後はペアリングを選ぶことを決めるのだった。





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