第5話 ヤンデレにゃんこ

その頃、ヤンデレにゃんこはエルフィンから呼び戻され、再び帝国の一員として活動を再開した。狙った獲物を追いかけられないことに苛立ちを感じながらも、ドン引きにゃんこの命令に縛られる首輪のせいで、その狂おしいほどの愛情を抑えこんでいた。


 ヤンデレにゃんこは、幼少期に孤児となり、荒れた生活を送っていた。にゃんこ帝国の外れにある小さな村で、彼女は「ヤンデール団」を率いてボスとして名を馳せていた。その組織は小規模ながらも、強力な戦闘力を持っていた。


 ある日、彼女の部下である濡れにゃんこが村に止まっている馬車を見つけて叫んだ。


「おい、見ろよ!ここに豪華な馬車が止まってるぜ。中にはきっとお宝が山ほどあるんじゃねぇか。ひゃっはー!」


 その言葉にヤンデレにゃんこの部下たちは歓声を上げ、狂喜乱舞した。「ヤンデレにゃんこさん、これで俺達もうはうはっすね!」と口々に叫び、意気揚々と馬車に向かっていった。


 ヤンデレにゃんこは馬車を見て、不敵な笑みを浮かべた。「これは大物だにゃ」と呟き、目には獲物を狙う猫のような鋭い光が宿っていた。


 しかし、彼女の運命を変えたのは、その馬車がたまたまドン引きにゃんこと姫にゃんこを乗せていたことだった。馬車の故障で立ち往生していた二人は、専属御者のキャリにゃんと共に村で修理を待っていたのだ。


「命が惜しかったら、さっさと金目のものを出すんだにゃ!」ヤンデレにゃんこは笑顔を浮かべ、ドン引きにゃんこと姫にゃんこに迫った。


「ちょ、まじですか。ドン引きなんですけど…」ドン引きにゃんこは驚いた表情で呟いた。


 一方、姫にゃんこは、ぼへーっと興味なさげに近くを飛ぶ蝶々を眺めていた。まるで自分たちが襲われていることなど気にも留めていない様子だ。メルヘンの世界にひたっていた。


「ちょ、姫様、なにしてるんですか! 頭がお花畑にでもなってるんですか。盗賊ですよ、しかも特盛なんですけど!」ドン引きにゃんこが焦った声を上げた。


キャリにゃんが周囲を警戒しながら呟いた。「これは厄介ですね。ドン引きにゃんこさんをお守りしながらでは…」


 ふと周囲を見ると、ヤンデレにゃんこの団員たちが50人近く取り囲んでいた。その目には敵意と狂気が交じり、武器を構えている。


「さあ、行くにゃ! 獲物を逃がすな!」ヤンデレにゃんこが部下たちに指示を出すと、彼らは一斉に突進してきた。


 その瞬間、ドン引きにゃんこは素早く姫にゃんこの背後に隠れた。「はぁ、やれやれですね。姫様、こらしめてやりなさい」と姫にゃんこの背中にぴったりと寄り添った。


「姫様を盾にしていいんですかい、ドン引きにゃんこさん…」キャリにゃんが思わずツッコミを入れる。


 姫にゃんこは無表情のまま、自分の近くに飛んでいる蝶々を見ているだけで、まるで戦闘に興味がないようだった。その蝶々が彼女たちの殺気にあてられたのか、どこか遠くへ飛び去って行った。姫にゃんこは無表情ながらも尻尾をぺんぺん叩いて少し不機嫌になっている。姫にゃんこは彼女たちのせいで蝶々が逃げたのだと理解した。


 その瞬間、姫にゃんこがヤンデレにゃんことその部下たちに振り向き、じーっと視線を向けた。彼らは一瞬、絶対零度の世界に引きずり込まれたかのような恐怖の悪寒を感じた。彼女の瞳には、まるで巨大な悪魔のような冷酷さと無慈悲さが宿っていた。その視線だけで、彼らの心は凍りつき、身体が動かなくなった。


 ヤンデレにゃんこはその冷たい視線を受け、戦慄を覚えた。「こ、これは・・・ただのにゃんこじゃない・・・なにものにゃ・・・?」彼女の声は震えていた。


 部下たちも同様に恐怖を感じ、動けずにいた。中には気絶し倒れそうになる者もいた。


 姫にゃんこはその場をじっと見つめていたが、その一瞬の間に、彼らは全身を冷たい汗で濡らし、恐怖で息を飲んでいた。次の瞬間、姫にゃんこは小さな手をゆっくりと持ち上げると、デコピンの姿勢をとった。その動きだけで、空気がピリピリと張り詰め、周囲の温度が一気に下がったように感じられた。彼女の瞳が無表情の中に一瞬の鋭さが光った。


「こ、これは・・・やばいにゃ」


 ヤンデレにゃんこが声を出す暇もなく、姫にゃんこはその手を弾いた。


 デコピンの衝撃波が放たれると、その圧力はまるで嵐のように周囲を巻き込み、ヤンデレにゃんことその部下たちを一掃した。彼女とその部下たちの身体は空中に舞い上がり、まるで人形のように無惨に地面に叩きつけられた。音もなく、ただ静かに崩れ落ちる姿は、戦場の静寂をさらに際立たせた。


 ドン引きにゃんこは倒れているヤンデレにゃんこに近づき、ツンツンとつついた。


「アイテムも無しで姫様の闘気に耐えられるなんて、意外とこいつら、使えるわね」と冷静な表情で言った。


「今がチャンスよ。従属の首輪をつけてしまいなさい」


「いやいやいや、手続き同意もなしじゃ無理でしょう。犯罪者に従属の首輪をつけるには法律が厳格で、通常は裁判を経て適用されるものですからね」とキャリにゃんが反論した。


ドン引きにゃんこはキャリにゃんの言葉を聞きながら、「姫様がいるから大丈夫よ、って…」


ふと姫にゃんこを見て驚愕した。「姫様、ちょ、ちょおおおおおおおおお」


いつの間にか姫にゃんこは、身体中に蝶々で覆われた蝶々怪人になっていた。


その後、ヤンデレにゃんこと彼女の部下たちはドン引きにゃんこのパシリとして従属契約を結ばれ、彼女の指示に従うこととなった。ヤンデレにゃんこには逆らえない理由があるため、彼女は仕方なく従っていたのだ。


「今は仕方ないにゃ。マーキングだけはしてるからいつでも追えるにゃ」と、ヤンデレにゃんこは狂気じみた笑顔を浮かべながら、にゃんこ帝国へと帰還した。


 彼女の心は狂気と執着で満ちていた。ドン引きにゃんこの首輪に縛られていることへの激しい怒りと、追いかけられない愛する人への狂おしいほどの執念。その二つの感情が彼女の行動を支配していた。しかし、今はドン引きにゃんこの命令に従うしかなかった。

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