第4話 ふんわりぺたぺた(一年前)その3

 王宮の庭では、優雅なティータイムが行われていた。花々が咲き誇る中、心地よい風が吹き抜け、鳥のさえずりが聞こえる。ドン引きにゃんこは、ぼへーっと無表情で座っている姫にゃんこの隣で静かに過ごしていた。「ここの侍女に配属されて最高だわ。お茶がうまい♪」と心の中で喜びをかみしめながら、太陽の温もりを感じていた。


 しかし、ふと気づくと姫にゃんこの姿が見当たらない。いつも無表情で人形のような彼女が自ら動き出すなど考えにくい。というか目の前にいたのに目にも止まらぬ速さで消えてしまっているではないか。まさか誘拐? いや、彼女は最強の戦闘能力と無敵に近い強靭な肉体を持っている。というかどこ行った!? ドン引きにゃんこは小さな体をさっと動かし、庭の隅々を探し始めた。


「姫様は、一体どこへ・・・?」


 とつぶやきながら庭を巡ると、遠くから叫び声が聞こえた。


「ううっ、姫様、ツンツンしないでください…ロープの数が増えてる、こんなの、あんまりだよぉ~」


 その声の方へ足を運ぶと、信じられない光景に出くわした。


 拘束のロープにかかったメイド騎士が縄で甲羅状に縛られていた。彼女の体は動くことができず、困惑した表情を浮かべている。というかなぜ、自ら縛られている。馬鹿なのかと・・・、それよりもその前で姫様がそのロープを指でツンツンし、魔力を流して遊んでいる。人形姫と言われている姫様にお人形のように遊ばれている。さらに姫様は無表情ながらも、ほんの少し興味深げな表情を浮かべているではないか。


 ドン引きにゃんこはその光景を見て思わず考えた。もし姫様がこの遊びにはまったらどうしよう? 自分もこのメイド騎士と同じように姫様のおもちゃにされるのではないとか。毎朝の挨拶が縛られとかしゃれにならないんですけど。不安が広がり、顔が青ざめていく。


「うわー、ドン引きなんですけど…」


 と思わず声に出してしまうドン引きにゃんこ。頭を抱えつつも、姫様の興味を引くものがこれでは困る。早くなんとかしないと。


 ふと見ると、姫様の尻尾が激しく動いているのに気づいた。「だめだ。これは危険だ。ゴールドフードのときと同じ前兆だ…」と心の中で呟いた。


 密偵ヤンデレにゃんこが、おみやげとして地球から持ってきたゴールドフード――姫様のお気に入りのおやつ。それを姫様が一袋、すべて平らげてしまったことを思い出した。表情には出ないが、耳や尻尾がピクンピクンと動いていた。このままでは自分の人生が終わってしまう。縛られにゃんこになってしまう。ここはスキル使うほかない。


 スキルを使いなんとか99㌫の未来を引きあてた。


 どうやらゴールドフードが必要らしい。まだいくつか残っているかもしれない。今ならまだ間に合う。早速、ゴールドフードを準備するために城内を走り回った。


 息を切らしながら駆けつけたドン引きにゃんこが見たものは、姫にゃんこがまるでゲーマのようにボタン連打しながらロープを突いている姿だった。その指の動きは拘束のロープだけに光速と見紛うほどだ。


「はう~、もう、やめて、くだしゃい・・・らめぇ~」


 メイド騎士が涙目で叫んだ。さらにあられもない状態になった彼女が、姫様に人形のように遊ばれている。


「うわ~、ドン引きなんですけど。こんなのを毎日されるなんてごめんだわ」


 と思いながら、ドン引きにゃんこは姫にゃんこの前に戻り、こう言った。


「はぁ、はぁ・・・そ、そろそろおやつにしませんか、ゴールドフードを・・・用意しましたよ・・・」


 その言葉に姫にゃんこの耳と尻尾がピクンと反応し、遊びをやめた。


「うむ、わかった」


 と無表情のまま答えた。


 やはり、この遊びより、ゴールドフードの方が上だった。


「え、あの、わたしは・・・?」


 メイド騎士が悲しげに呟いたが、ドン引きにゃんこは彼女を無視した。全てが何もなかったかのように二人は去っていった。


「え、ええええ、待ってくださーい! これをほどいてくださいよ。そんなぁ~」


 メイド騎士は悲しげに呟いた。


 結局、彼女はそのまま放置され、一日を過ごすことになった。周囲の草花が風に揺れる中で、ただ静かに横たわり、「うーん、どうしてぺたにゃんこちゃんはあんなに怒ってたんだろう?」と呟いた。理由が理解できないまま、彼女は戸惑っていた。

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