第3話 ふんわりぺたぺた(一年前)その2

 王宮の朝が始まり、陽の光が美しい庭を照らしていた。庭には色とりどりの薔薇が咲き誇り、その香りが空気を満たしている。ふんわりにゃんこは元気いっぱいに庭を歩きながら、相棒のぺたにゃんことの会話を楽しんでいた。


「ぺたにゃんこちゃん、今日もお仕事がんばろうね!」


 ふんわりにゃんこは明るい声で言った。


「えっ、あ…はい、そうですね」


 と、ぺたにゃんこは少し戸惑いながら返事をする。その時、ふんわりにゃんこは突然思いついたように、にこっと微笑んでこう言った。


「あ、そういえば、ぺたにゃんこちゃんのお胸って、すっごくかわいいよね!」


 突然の言葉に、ぺたにゃんこの顔が驚きに染まった。


「…な、何を言ってやがるんですか!」


 声が震えるぺたにゃんこに、ふんわりにゃんこは全く気にする様子もなく、話を続けた。


「また、大きくなっちゃったかな。うーん困ったなぁ~」

 

 その瞬間、ぺたにゃんこの顔はみるみる赤くなり、感情が抑えきれなくなった。


「まだ大きくなるだと…そんなこと言うなんて…本当に失礼ですね!」


 怒りを抑えきれず、ぺたにゃんこは厳しい口調で言い放った。しかし、ふんわりにゃんこは全く動じることなく、さらに空気を読まず話を続ける。


「でも、ぺたにゃんこちゃん、本当に可愛いと思うんだよね。綺麗で、それに……とっても(顔が)可愛いいし!」


 ふんわりにゃんこは、微笑みながらぺたにゃんこをじっと見つめる。


「(胸が)かわいい……」


 ぺたにゃんこの顔はさらに赤くなり、怒りが込み上げてきた。さらに、ふんわりにゃんこは、気にせず微笑みながら言う。


「あぁ、でもきっとまだまだ(背丈が)大きくなるんじゃない? どんどん可愛くなって、みんなが注目しちゃうね!」


「(胸が)大きくなる……」


 ふんわりにゃんこの言葉を聞いて、ぺたにゃんこは瞬時に「成長の儀式」のことを思い出し、顔がさらに真っ赤になった。毎年行われるその儀式では、成長の証として記録を取られるが、彼女の胸は何年も変わらないままで、そのたびに屈辱を感じていた。その記憶が蘇り、彼女の心に深く刺さった。


「私を怒らせるなんて、大した度胸ですね!」


 ぺたにゃんこは声を震わせながら言った。

 

 ぺたにゃんこは王宮のメイド騎士団の一員であり、常に特殊な魔法のロープを携帯していた。そのロープは持ち主の魔力に反応し、魔力が高いほど強い束縛力を発揮する。怒りに燃えるぺたにゃんこは、そのロープを素早く取り出し、ふんわりにゃんこをぐるぐると巻きつけてしまった。


 ふんわりにゃんこは生まれつき魔力が低く、そのためロープの束縛にはほとんど抵抗できなかった。彼女はあっという間に縛られ、庭の片隅に無造作に放置されてしまった。


「ぐすん、ぺたにゃんこちゃん、ひどいよぉ~、でも、胸が、くいこんで、すっごく、きついかも・・・うぅ、あうぅ・・・だめだよぉ、こんなの…わたしじゃ、とけないよぉ……」


「な、なにを言ってやがるんですか……?」


 胸にくいこむだと・・・


 ぺたにゃんこは、ふんわりにゃんこの胸に食い込んだロープを見て、絶句した。


 目の前の光景は、まるで悪夢のようだった。心臓の鼓動が速まり、息をするのも忘れてしまうほどだ。こんなことが本当にあり得るのだろうか? 目の前の現実が現実でないかのように感じられる。自分の胸元を見下ろしながら、ぺたぺたぺたにゃんこ~♪ さらに嫉妬の炎が燃え上がり、ふんわりにゃんこに向かって叫んだ。


「ち、ちきしょおおおおおお・・・!」そう言い残し、ぺたにゃんこは怒りのままに足音を立ててその場を去って行った。


 その様子を、じっと見つめていたのは、無表情の姫にゃんこだった。姫にゃんこは、じーっとふんわりにゃんこを見つめている。


「姫さまぁ~、助けてください~!」


 ふんわりにゃんこは涙声で叫ぶが、姫にゃんこは微動だにせず、ただ見つめ続けていた。

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