第11話 倉庫通り(2)

この町の名はアンカー・ヒッポ。通称ファングス。

日も沈みかけて、あたりが夜の帳の準備をしているような時刻。

建物の2階部分が少し赤く染まっている。

商人たちは中央通りのテント店舗を撤収し、にぎわいがなくなっている。

町中で兵士たちが歩いているのすら見なくなっていた。

各家からは夕餉の煙が立ち上り、一日の終わりを告げていた。



「どっせい!」

最大出力の蹴りをドアにぶつけるSランク冒険者のエノーズ。

わりと頑丈な扉なので割れたりはしないが、簡単なロックは壊すことが出来た。

勢いよく扉が開き、室内に円陣を組んでいた男たちの視線が一斉に出入り口に向かう。

「うわっ」「だれだ」「なんだ貴様」「…」

「ここにいる少年を…お、いたいた」

キョロキョロと回りを見た後、中心にルートが転がっているのを確認した。

「助けにきたぜっ!!」

会話する気は全くないと言わんばかりに一番偉そうな男に飛び掛かった。

しかし、ガードをするように別の男が間に入って防御した。

そのまま男を床に押し付けたエノーズ。

エノーズを見下ろしながら、ボスが低い声で聴いた。

「ふん、同業者が商品を奪いに来たわけじゃなさそうだ。しかし取り戻したいくらい価値があるってことかね?ストリートチルドレンのこいつには」

「さてね?」

ボスがあごをクイッと上げると、男1人押さえつけているエノーズの背後から手下2人が上からかぶさった。

「あ、きったねぇぞ。サシでやりやがれ」

押さえ込まれたエノーズ。

下の男が這いずりだしてロープを使いエノーズを縛り付けた。

その間に手下の一人がルートを担ぎ、ボスと一緒に出ていった。

「待ちやがれー!ムグムグーッ!」

ぐるぐる巻きにした布を口に入れられ、後頭部で縛られて声が出なくなった。

後ろ手に捕縛されたエノーズはさらに柱にくくりつけられてもう身動きが取れる状態ではなくなってしまった。



ライアは一軒隣の小道から様子をうかがっていた。

エノーズが飛び込んだ後に声が聞こえなくなり、扉の所から男が2人出てきた。

そこにはだらんとしたルートが担がれていた。

その後を追いかけようと一歩踏み出したところで気を失い倒れてしまう。

ライアの後ろにはフードを被ったアイボリーチュニックの男が立っていた。



人さらいたちは倉庫のメイン通りに停めていた荷馬車にルートを放り込む。

すぐに別ルートから移動してきた手下2人が合流し、馬に鞭を振り下ろした。

「裏門を突っ切れ!」

「ヘイ!ボス!」

馬の手綱を持つ男が返事をして、さらにスピードを上げた。



いつもなら裏門では門番が2人しかいないのだが、今晩は兵士が3人いて談笑していた。

裏門とはいえ大きな扉は無く、アーチ状の石造りの門があるだけである。

横にはスクトゥムの盾が置かれていた。

兵士が持ってきたものだ。

松明の灯りが4つ周辺を照らしている。

いつもなら2つなのだが。

門番が持つのはハルバード。

勝手に出入りを禁ずるための威嚇の意味もある。

もちろん、殺傷能力はある。


彼らが笑い話をしているところに向かって、駆歩かけあしで向かってくる荷馬車があることに気が付いた。

ドドドッ ドドドッ ドドドッ

顔を見合わせた5人の目つきが鋭くなり、兵士はスクトゥムを持って門の中央に3人並んだ。

その斜め後ろの両端に門番が布陣し、ハルバードを水平に持って待ち構えた。


荷馬車と馬の足音が大きくなってくる。

かなりの砂埃が舞っているのが、遠くにある建物の灯りが見えなくなったことで分かった。

盾を3人が構え、門番2人が叫ぶ。

「止まれ!止まらんか!!」

さらにスピードが増したような音になった。

突撃してくると判断した門番が号令を出す。


「ファランクス!!あと到達まで5・4・3・2・1…アタック!!!」







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