第8話 路地裏(7)

屋根上から下の裏路地の様子を観察していた数人の男たちがいた。

アイボリーのチュニックを着た者たち。

1人が右手で何かの合図をすると全員屋根上から姿を消した。

2人はルートを乗せた幌馬車を馬で尾行。

1人はライアとSランク冒険者を監視することにしたようだ。

合図を送った1人は別の町の屋敷に馬に乗って戻っていった。


豪商の屋敷にある主人の部屋にはアイボリーチュニックの男が1人立っている。

机で書類を書き続けているのは商人。

「なんだ?」

「ルートぼっちゃんを発見しました」

頭は動かさずに瞳が書類から男に向けられた。

「どこにいた‥いや、それはどうでもいい。いますぐ連れ戻せ」

「はっ。」

目を書類に戻す。

しかし男の気配が動かない。

「なにか問題が?」

「人さらいに捕まっています。現在部下がひとりついています。ただ…」

「ただ…、なんだ?」

「ライアさまとSランク冒険者がルート坊ちゃんを閉じ込めている倉庫に向かってきているそうです。町の兵士も異変に気付いたみたいで動いています」

「ライアに”さま”などとつけなくていい。」

「はっ。失礼しました」

「だれよりも先にルートを連れてこい。兵士が関わってくると厄介だ。ライアが冒険者と一緒?どういうことなんだ。まったくあのバカ息子は勝手なことばかりしおって!」

「ところで、ライアはいかがなさいますか?」

何かを考えていたようだが、ニタリと口角があがった。

「ふむ…。まだ使いようはあるか…。連れてこい。」

「わかりました。それでは失礼いたします」

流れるように後ずさりして、ドアから出ていった。



街中を兵士が複数人走り回っている。

1時間前に町の中で人さらいが勝手気ままに動きすぎているという話が兵舎に届いたからだ。

隊長が吠える。

「他所でやるなら何も言わないが、ここでするなら話は別だ。1人残して全員行くぞ!」

「またっすか?」

「くそだりぃ」

「どうせ口頭で『注意』するだけでしょ?無罪放免じゃん…」

「やる気でない‥」

「危険手当くださいよ」

「そんなものはない!!兵士となった時点で危険手当は元から含まれている」

「んじゃ、隊長が隠してるワインおごってください」

「おまえら…1本だけだぞ」

「「「サー・イエスサー」」」


この町では大きい犯罪を堂々とやりだすと取り締まられるのだ。

だからギリギリスレスレの犯罪が増加していた。

石壁に囲まれたこの町は都からはすこし離れており、ならず者・浮浪者・人さらい・詐欺師・犯罪者などが割と多い。

アンカー・ヒッポという地名だが、通称ファングス(水虫のごとく居なくならない)と呼ばれている。



そんな町中ではルートが人さらいに捕まっている。

ライアとSランク冒険者はルートを探して奔走していた。

兵士たちは人さらいが町中で仕事をしていることを折檻しようとローラー作戦中である。

ルートの父親はルートを捜索していた諜報員から連絡を受け、救出作戦に動き出した。


日が傾きかけて、中央通りのテントは店じまいが始まっている時間帯であった。










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