第7話 路地裏(6)
ライアは目を覚ますと部屋の天井が見えた。
ベッドの上に寝かされていたのだ。
ベッドなんて久しぶりだな…なんてぼんやりした頭で考えていた。
ここは宿の2Fの一室。
Sランク冒険者が借りている部屋である。
ベッドと机があるぐらいで、他に目立ったものは無いシンプルな造りだ。
部屋をぐるっと見渡すと机の上に荷物と装備品の一部らしきものが置かれてあった。
なにやらドアの外で誰かが話しているみたいだ。
Sランク冒険者ともう1人。だれだろうか。
「だからぁよ~、渡してくんないかなぁ~」
「何度来ても無駄だとおまえのボスに伝えな」
「後悔すんぞ~。今と後では対応が変わってくるからよぉ~。また来るから準備しときなぁ~」
「ふん」
ドカドカと床を歩き、階段を下りてゆく。その足音が遠のいていった。
2人の会話がよく聞き取れなかったライアは聞き取りづらかった部分を適当に言葉を当てはめて文章を作ってみたらとんでもない内容で青くなった。
『えっ?!銀貨何枚積むつもりかボスに伝えろ?』
『今と後で金額が変わってくる?さらに銀貨を積むから準備しとけだって?』
頭の中で警報が鳴り響く。
『逃げなきゃ!』
ベッドから起き上がって開いている窓へ手をかけた。
二階の窓から見下ろしたら垂直な壁で降りられそうにない。
洗濯物を干すためのロープは張ってあるけど、無理っぽい。
となれば、あとはドアしかない。
『開けた瞬間にすり抜けて逃げれるかな?いや、無理。すでに一回よけきれずにぶつかったし、ボク』
なにかないかと探すと机の上に置かれた籠手(こて)を見つけた。
ドアから入ってくる男にぶつけようと手に取った。
するとどうしたことだろうか。
持った籠手が光り出したのである。
「うわわわわわわっ」
溜息をついたSランク冒険者がノブに手をかけて部屋に入ろうとしたときに室内から子供の声が聞こえてきた。
「どうした」
何事かと急ぎドアを開けると、まばゆい光が目に入った。
冒険者は目の前に手をかざして光をさえぎると、子供が持っている物から発光しているのが分かった。
「なにをやってる!」
「なにもしてませーん」
「手を放せ!早く!」
「はいっ」
ぱっと両手をばんざいするように放すと籠手はガシャンと床に落ちた。
光の量は段々と弱まってゆき、いつもの装飾つきシルバー籠手に戻った。
冒険者が床に転がっている籠手に近づき、つんと指で軽く突いた。
熱くはない。ビリッともこない。
持ち上げるといつも使っている防具だ。
冒険者はすぐ横で固まっているライアの片腕を引き寄せて籠手に触らせてみた。
すると、先ほどではないがじんわりと光るではないか。
「魔法付与できるのか?」
ライアは首を横に振る。
籠手を見ながら「ふむ」と唸った。
そしてニカッと笑ってライアの頭に左手を乗せて撫でた。
「すごいなお前。この防具が光るの初めて見たわ!はっはっは。これがブルーベル工房の防具なのか」
Sランク冒険者の籠手をにぎる手がかすかに震えていた。
ライアにとっても、『ブルーベル工房』『まぶしく光る籠手』『熱くない』という単語が脳に刻み込まれた瞬間であった。
Sランク冒険者はライアの両肩に手を置いた。
「オレの名前はオビケン・エノーズ。冒険者やってる。Sランクだ。‥で、お前の名は?」
「ら…ライア…」
「よし、ライア。お前『ブルーベル工房』って知ってるか?」
「知らない…」
「超絶すげー鍛冶師が集まっているらしい。お前、そこに行け」
「えっ?!」
ライアの目が点になった。
ボクが鍛冶師?なんで?
どうしよう、ルート。
そうなるとルートどうなるの?
ルートも鍛冶師になるの?
教えてよルート。
ハッとルートのことを思い出した。
「あの」
「ん、なんだ?」
「ルートが捕まって、探しに…」
ここまで口から出たところで気づいた。
この冒険者、人さらいと交渉してたよね。
お金を上乗せしてボクを売ろうとしてたんだった…。
どうやって逃げよう…。
ここまで考えたところで、エノーズがライアの背中を叩いた。
「よし、探しに行くか!」
にかっと笑うエノーズ。
ライアは混乱した。
『どういうこと???』
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