第6話 路地裏(5)

路地裏やさらに奥の路地が騒がしくなっていた。

兵士の鎧が上下にこすれる音があちこちから聞こえる。

Sランク冒険者とライアも走っている。

アイボリー色のチュニックの服装をした複数の者も走っている。

人さらいは身を隠していた。




空き倉庫が続く建物のひとつにルートは両手両足を縛られ、さるぐつわをかまされていた。

ルートの前にはダークブラウンのチュニックを着た男が4人立っていた。

「こいつは力が強かったからな。いい値になりそうだ」

「ムグムグーッ!」

ガチャリと音がして、更にいかつい男が入ってきた。

「もう1人はどうした」

転がっている子供が1人なのに気が付いて声をあげた。

「すんません、こいつが暴れまくるので取り逃がしました」

「なにやってんだこんなガキに!」

「リーダー、邪魔がはいったんでさ。あいつ冒険者だ。たぶん、AかBランクだと思いやすぜ」

「ちっ。邪魔だな。‥いいこと思いついた。おい、おまえ。ちょっとこっちこい」

倉庫の隅に連れてゆくとぼそぼそと話をしていた。

「では、いってきやす!」

バタンと戸が閉まり、男が走っていった。




事の起こりはこうだ。

ダークブラウンのチュニックを着た人さらいがストリートチルドレンを狙っていた。

まず目をつけられたのは3人グループと2人グループ。最初に3人グループを襲う手はずだったが、人数が1人増えて4人になったことでこちらは断念。代わりに2人グループを捕まえて売った後に仲間を増やしてまたこの町に来る計画だった。つまり、ルートたちが先に狙われることになったのである。




ライアの後ろを追いかけるSランク冒険者。

「キミ、待てよ。ケガ治してないだろ」

「うん、でもそれよりルートを探さないと」

「ルートってのは暴れてるところを麻の袋に入れられていた彼か」

「あいつらいきなり襲ってきたんだよ」

「さっきも宿まで来てたが、あの男はナニモンなんだ?」

「知らないよっ。見たことない」

「1人でどうするつもりだ」

走っていた足が止まり、振り向いてSランク冒険者の顔を見る。

「どうって…、じゃあ何もしないでルートを放っておくの?」

今にも泣きそうな顔になっているライア。

「もういい」

走り出そうとしたライアを引き留める。

「まぁ待て。提案がある」

「?」

「あの子の名前…ルートってのか…。‥実はな、オレの財布取ったヤツなんだわ」

「えっ?!」

瞳の瞳孔が小さくなった。バレないようにしなきゃと思うほどに体の震えが大きくなってくるのが分かった。

あえてそれを無視して話を進める冒険者。

「ふーっ。それで困っててな。その中にある金貨はニセ金貨でな。あれを使ったら即牢屋行きとなるんだ。だから回収しないといけないんだよ。それさえあれば他のカネはいらない。返してもらえるように頼んでもらえないかな?たぶん、噛んで確かめたんじゃないか?歯形がつかないから本物じゃないと分かってると思うんだが」

動揺するライアの視線が定まらない。

「そう…なの…」

「ああ。そういうわけでニセ金貨を返してくれるならあの子を助ける手伝いをするぞ」

他にも気になることがあるのだが、それは今はまだいいと考える冒険者だった。




人さらいが現れたのは裏路地だった。

小さい幌馬車を準備していた。

パン屋『ル・コール』勝手口のある袋小路から裏路地に出たところで待ち構えられていた。

この男4人組に襲われたのである。

ルートをひとりが羽交い絞めにしてもう一人が麻の大きい袋を持ってかぶせようとした。

ライアにも同じように飛び掛かられた。

ルートは後ろから羽交い絞めしている男の腕に噛み付き、するりと抜けるとライアを助けるためにライアを押さえつけている男の背中からとびかかって首に腕をからませた。

ライアを押さえつけていた腕が緩むとライアは這いずり出た。

「ライア逃げろ!早く!ライアーっ!」

ぺたんと座り込んだライアの上から麻袋が口を空けて近づいてきていた。

はっと我にかえり横転して袋から逃れると、そのまま走り出した。


裏路地を走り、街道につづく道を曲がろうとしたときに思いっきり人にぶつかった。

「はぐっ」

まるで壁にぶつかったかのようでライアは後ろに転がってしまった。

転がった状態で目を開けると先ほどの男がひとりこちらに走ってきていた。

その後ろでは暴れるルートを3人がかりで袋に入れようとしているのが見えた。


「すまんな。大丈夫か?」

冒険者は転がっているライアの前にヒザを立てて座った。

鎧がところどころ光っていた。

足がガクガクして立てそうにない。男は走って近づいてくる。怖い。どうしよう。ルートが連れ去られる。なんで?どうして?手、チカラがはいんない。怖い。だれか。誰か助けて。だれか…

「たすけて…」

かすれる声にならない声で冒険者を見上げた。


「いやー、すいませんね。ウチのが逃げちまって。助かりやした」

へらへら笑いながら歩いて近づいてきた。ライアの髪をつかもうと手を伸ばしてきた男の手首を冒険者が掴んで阻止した。

「おまえ、どこの商会だ?」

「へっへっへ、どこだっていいだろ。商品が逃げ出したから回収に来た。それだけでさ」

「ここらではあまり見ない顔だな。どこから来た?」

「うるせぇな!あんたには関係ないだろ!」

「そうもいかない。助けを請われた以上、ギルドで確認させてもらう」

ギリッと力をこめるとミシミシと音がした。

「いでででで!放せ、放しやがれ!」

「ギルドに一緒に来るか?それとも兵士宿舎に行くか?」


ドサッ

ライアが気を失って完全に倒れる音がすると冒険者は思わず腕の力を緩めてしまった。パッと離れた男は距離を取って叫んだ。

「ちっ。あんたの顔は覚えたぜ。あばよっ」

裏路地を来た方向に戻って走っていった。






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