第5話 路地裏(4)

粉ひき小屋から小麦粉を2袋持って帰ってきた。

その後、パンを受け取った2人は『ル・コール』のマデラおばさんにお礼を言って裏口を出た。

「また明日ね」

そう言って手をぶんぶんと振ってくれたマデラおばさん。

ここで食べて帰るかと聞かれたが、自分たちの住処に帰って食べると言い張った。

橋の下のちょっとしたくぼみのある場所がそれだ。

帰り道、ライアはルートに粉ひき小屋はどうだったかとしきりに聞いていた。

自分とマデラおばさんが何をしていたのかを聞かれたくないために。



実はルートとリックさんが粉ひき小屋に行っている間に店の中でプチ事件が起こっていた。

「いーかげん、脱ぎな!」

「いやだあああ!」

マデラおばさんがライアの服と体を洗おうとしたのである。

ライアの服のすそをガシッとつかみ、上に引き上げてズパッと脱がせた。

「わあっ!」

お腹の部分の肌があらわとなる。

一緒に脱がされそうになった最後の一枚を引き戻してガードした。


壁際にまで追い詰められたライアはぺたんと座り込んだ。これに覆いかぶさるようにマデラおばさんの影が映る。

「もうにげられないわよぉおおおおお」

ライアが涙目になりながら訴えた。

「きれいになったらバレちゃう…」

ぴたりとマデラおばさんの体が止まった。

クマが襲ってくるように両手を広げている状態でフリーズしている。

ライアの瞳をじっと見つめるクマならぬマデラおばさん。

ほっとした様子が見て取れたのを確認して、ゆっくりと両手をおろしながらも距離をつめてサッと近づきガシッと両脇を両手で確保し持ち上げて右肩に乗せた。

「ひゃあっ!おろしてマデラさん!」

足はバタバタ。腕はポカポカと背中を叩いて抗議する。


のっしのっしと担いだまま水桶のある場所まで移動した。

左手のみでタオルを濡らすと軽くつかんで絞り、水桶のすぐ近くに置いた。

「覚悟しなっ!」

ズボンの上から左手でお尻を思いっきり叩いた。

「ふぐっ?!」

驚きとも痛みともとれる声が出た。

マデラの顔の周りに埃が舞う。

即座にライアのズボンを下着ごと脛までずりおろす。

濡れたタオルを遠心力をつけて左手にぐるぐると巻き付けた後におしりから股の間に滑り込ませた。

「ああっ!?」

手を出し入れしながら太ももから股の周辺をふき取ってゆく。

スポンとタオルを抜いたら、左右の腰から前に向かって拭いてゆく。

最後にお尻全体を撫でまわした後、肛門をぎゅぎゅっとふき取り、タオルを樽に投げた。

下着とズボンをいっしょに持ち上げて履かせるとポンとおしりを叩いて床に下した。


はあはあと肩で息をするライア。

顔が赤いし涙目だ。

うつろな目つきで口からよだれが糸を引いていて両腕をだらりと垂らして放心状態になっている。

ふむと一息はくと同時にマデラはライアの肌着をバッと上に脱がせた。

「ひゃあっ?!」

瞳に生気がよみがえり、両腕で胸のあたりを隠した。

その間にタオルを水で軽く洗って絞る。

「ほら、両手を私の肩に置きな」

「できないよ…」

「さっさとしな。でないと旦那とルートが戻ってくるよ?」

マデラが言うと、ボッとライアの顔全体がさらに赤くなった。

「いじわる…」

ふるえる手をマデラおばさんの肩に置こうと伸ばす前に有無を言わさず体を拭き始めた。

「ひぅん」

首、肩、腕、腋、胸、腹、背中。

時々「はうっ」とか「んんっ」という声が漏れる。

「はい、おしまい。ばんざいしな」

両腕を上にあげるとそこから肌着と服をするりとかぶせるように着せた。

床にぺたんと座り込んだまま涙声で講義をするライアを軽くあしらった。

「スッキリしただろ?ライアちゃん」

「ボクはライアくんだよ」

ぷーっと頬をふくらませるライア。

「さっぱりしただろ?せめて体を拭くぐらいはしなよ」

少し心配そうにライアを見るマデラおばさん。

「顔と手と足は自分で洗いな」


忙しそうにパン生地の準備をしているマデラおばさんの背中を見ているライア。

落ち着いたようだ。

「もういいのかい?」

こくりとうなずくライア。

「じゃ、手伝って」

「うん」

「あ、そうだ。ひとつだけ。体は汚れたままだと病気になるからきれいにしときなよ」

マデラおばさんと目が合って、頬が真っ赤になり頭から蒸気が出ていた。



それからしばらくして、粉ひき小屋から2人が帰ってきたのであった。














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