第4話 路地裏(3)
裏通りから袋小路のT字路に入るところに小さく細い子が周りを気にしながら立っていた。
彼の名はシュー。
体は建物の陰に隠し、片方の目だけを出して裏通りの通行する人を監視していた。あまり見ない格好の人、兵士、眼光が鋭そうな人が近づいてきたら、箱の後ろに見えないように隠れてやり過ごす。
ストリートチルドレンにとって、人さらいや兵士とか保護施設の人はすべからく敵なのだ。
そこへやってきたのはルートとライア。
シューの緊張していた表情が少しゆるむ。
「ルーにぃ、ライにぃ」
「よっ」
すっと通り過ぎるルート。
ライアはシューの前にしゃがんだ。
「シュー、えらいね」
頭に手をのせてよしよしと撫でると、にかっと歯をみせて笑った。
「へっへー」
ふと気配を感じてT字路の奥を見ると、奥から3人が歩いてきた。
「よっ、マージ。なんかあったか?」
初めて見る顔が一人増えているのに気づき、ルートから声をかけた。
「新入りだ。この町に来てから間もないらしい。それより」
マージがルートの首に腕を回してその場から少し奥へ動いた。ライアの姿を横目で見ながら小声でぼそぼそと話す。
「ルート。気をつけろ。最近はこの町で見たことのない大人たちが俺たちを品定めするように見てることがあるらしい」
「見たことのない大人?細い剣を飲み込んだり、素っ裸で走りまわったりする奴?」
「ばーか。あれは大道芸人。それとぼったくり裏酒場でひんむかれた旅人だろ」
「そだっけ?」
「はー…。とにかく気を付けなよ」
「ああ、ありがとマージ」
2人がくるりと回れ右すると、ライアがルッコと新入りにあいさつしていた。
「はじめまして、ぼくはライア。よろしく」
「…よろしく」
か細い声だ。
ライアはルッコに聞いた。
「ちゃんと食べさせてる?今にも死にそうな声なんだけど」
「会ってまだ一日たってないよ。だからここに連れて行くってリーダーが」
「なるほど」
ルッコが肩に掛けているショルダーバッグが膨らんでいるのが見て取れた。
「4個?」
「うん」
「えらいね」
当然でしょと言った感じで胸を張るルッコ。
それを見てライアはクスリと笑った。新しい子はそれをじっと見ていた。
少し離れたところからルートが呼んでる。
「ライアいこーぜ」
「ああ」
「じゃあね」
「あ…うん」
ルッコはまだ話したかったのだろう。開いた口から出そうな言葉を引っ込めて口を閉じた。
ルートのもとに駆け寄ってから少し後ろを見ると、マージがルッコとシューと新しい子に何か話をしているようだ。
4人はT字路から裏通りに出ると見えなくなった。
ルートは店舗の裏口、つまり勝手口のドアをそっと開けて入った。
ここは『ル・コール』の厨房。
ストリートチルドレンにとってパンの配給場所。
「あ~ら、来たわねぇー。ルぅートぉおおお」
「マーさん、いだだだだだ」
小麦粉を扱っていた手で思いっきり抱きしめて頭をわしわしと触った。
「ちょうどやってほしいことがあるのよ~。旦那のリックと一緒に粉ひき場に小麦粉を取りに行ってちょうだい。はい、行った行ったぁ~」
両手をパンパンと鳴らして行動を促すのがマデラさんらしい。
「じゃ、ボクも」
「ライアは私の手伝い。いいわね?」
顔が近い!
バタンと戸が閉まり、二人は出ていった。
一瞬店内が無音になった。
マデラの大きい体がライアをやさしくつつむように抱いた。
「ライアちゃん、大丈夫?」
「ありがと。マデラさん」
かまどの火がぱちぱちと響く音だけがしばらく続いた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます