第2話 路地裏(1)
「こらーっ!クソガキーっ!」
テントがずらっと街道沿いに左右並んで張ってある表通りから果物屋店主の怒鳴り声が上がった。
まばらに歩く人を左右に素早くよける少年がいる。
少年の正面からは見回りの兵士2人がそれに気づき、走ってきているのが見えた。
「またおまえか!」
「やっべぇ、今日はあいつかよ。苦手なんだ。あいつは」
少年は左右を目だけ動かしたのちに兵士を見てニヤリと白い歯を少しだけ出した。
そして、急に左側へ方向転換し、街道と並行して続いているテントのひとつに飛び込んだ。
店と店の隙間に入り、天幕をまくり上げて潜り込む。
兵士が少年の入り込んだ隙間を視認した。
「お前は右、俺は左」
こくりと頷いた右の兵士は右からカシャカシャと音をたてながら回り込む。
左の兵士は左から。
しかし、建物とテントの間にある通路に少年の姿はなかった。
挟み撃ちにしようと考えた2人の兵士は逃げられたかという顔をしながらお互い近づいた。
その時、表通りから声が上がる。
「財布がない!」
「わたしも!」
「うわっ、やられた!俺もだ!」
2人の兵士はお互いの顔を見合わせる。
ひとりは肩をすくめて手のひらを天に向け、もうひとりは眉間を右手の人差し指と親指でつまんで溜息をついた。
「ほらよ」
「サンキュー」
投げられた洋梨を受け取った。
服の裾で軽く拭くと早速かぶりついた。
その横で洋梨よりもこっちを先に見ないとと言わんばかりに懐から3つの財布を取り出した。
「今日のアタリじゃん!さっすが俺!!」
それぞれの財布からじゃらじゃらと出すと金貨1枚がそれらの中から出てきたので興奮気味に言った。
普段使われているのは銀や銅、青銅。地方の町では金貨はめったに見られないのだ。
「ねぇ、ルート。その金貨みせてよ」
少し考えたルートの口角が右に少し上がったように見えた。
「ん?どうっしよーっかなー」
「あ、ずるぅい」
ライアは両手を伸ばしてルートの右手に持つ金貨を取ろうとしたが、額を左手で押さえつけられて届かない。
しばらくバタバタと両手を動かしていたが、すぐ動かさなくなり両足を抱えて座り込んだ。
やりすぎたかなと思ったルートはライアの顔の前に金貨を差し出した。
「おぅ、落とすんじゃねーぞ。ライア」
汚い水が流れて臭い川の横で金貨を両手で受け取るライア。
この場所は建物に囲まれていて薄暗い。
時間によっては一筋の光が数か所入ってくる程度だ。
その光にかざしてみた金貨はとても輝いた。
「うわぁ…きれい…」
「そりゃそうだろ!金だからな!」
にやーっとルートの口がゆるむ。
ライアはしばらく金貨をゆっくり傾けて太陽光の反射を楽しんでいた。
そしてくるりと回すと貨幣の表面に肖像が見て取れた。
そこには鐘と葉っぱが描かれていた。
「金色の葉と金色の鐘だ…」
「え?!マジ?」
ルートはライアの手から金貨を奪い取った。
「うわー、初めて見たぜ。昔、親が話してたことがある。金貨にもいろいろと種類があって、鐘が描かれたものは滅多に出ないって。それが王都であってもって話だ。ま、適当に聞き流してたからよくわかんねぇけどな。これがそうなのかどうかもさ」
ハハハハハと笑いながら空になった財布を川に投げた。
ちゃぽんと音がして、2つは沈み1つは浮かんで流れていった。
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