伝説の職人組織 ブルーベル工房

鎮守乃 もり

第1話 あらすじ

勇者一行や英雄たちが華やかな表舞台であれば、職人は彼らを支える裏舞台の主役である。

悪魔・反逆者と呼ばれるものを相手に戦いは終わりが見えない。

勇者一行や英雄たちも代替わりは避けられない。

長く続く争いや戦いの中で武具は摩耗してゆく。

そして、伝説の武具は王家や国家が代々受け継いでゆく。

簡単には折れたり、曲がったり、欠けたり、切れたりはしない伝説の武具は現時点で最高クラスと言われている。

そんな世界の中にあって、それに準じるものを作れるとまことしやかに噂されている工房があった。


それが

『ブルーベル工房』

なのである。


その中でも噂されるのがヨードと言われる鍛冶師。

彼は武具全般に精通していると言われており、特に剣に関しては伝説の剣は彼が作ったのではないか?と伝わっているほどだ。


ん?伝わっている??


そうなのだ。

昔話の本に登場するその人を指しているからである。

ただ、この国の前々王が会ったことがあるとかないとかという噂話が昔ながれてきたということなので否定はできないだ。


さらに驚くのは、この『ブルーベル工房』がどの街にも無いのである。


だから伝説とか幻とか何かに化かされた奴の世迷い事として酒の肴にされることが多い。


ただ、あるのだ。

『ブルーベル工房』の印が入った武具が。


事実、Sランク冒険者はほぼ全員がこの武具を身にまとっている。

彼らはどこで手に入れたのかは口を開かなかった。

「あと少しじゃねぇか。強くなりな!そうしたら教えてやれるぜ」

Aランクの冒険者がSランクの冒険者からそのように聞いた話もあるという。


そんな幻影のような『ブルーベル工房』だが、冒険者の中にはグループを組んで工房探しをする輩がいたりする。金がある者はこれらに出資したりするという話もあるようだ。

また、『ブルーベル工房』の武器をさわってしまった職人の中には、工房で働いてみたいと願い、探し回ることがメインとなって鍛冶場から破門された話が後を絶たない。


『ブルーベル工房』の武器を探し続けて30年経ち、Bランク冒険者を廃業したという話も酒場でよく聞くという。


さらに『ブルーベル工房』の武具を盗んで売ろうとする輩が出てきているという。

Sランク冒険者を闇討ちする、毒殺しようとするなんて話もちらほらささやかれていた。

Sランク冒険者の後をつけて『ブルーベル工房』への糸口をつかもうと必死になる輩も多数見受けられた。



Sランク女魔術師はなまめかしい唇で言う。

「あなたにはもったいないわぁ。手にしても使いこなせないわよ?」

左指の人差し指を自分の上唇から下唇にゆっくりとなぞるように動かした。

そして、Cランクの冒険者のおでこをトンと軽く押した。

続けてこうも言う。

「んふ。しっかりと腕をあげてSランクになればいいのよ。それが近道。」

酒場で酔った勢いもあり告白しようとした彼だが、彼女を目の前にして思わず別のことを聞いてしまった。後ずさった足がもつれてしまい、床にへたり込んだ。

友人らしき2人が別のテーブルから寄ってきて、彼を立たせて元のテーブルまで連れて行った。かなり凹んでいるように見える。友人らしき2人は背中を叩いたり、同情の言葉をかけていた。


彼女の言葉を聞いてしまった酒場の連中の腹の内はこうだ。


E・Fランクの冒険者は他人事のように聞いていた。

「ふ~ん、そうなんだ」


B・C・Dランク冒険者は

「はぁぁぁ~。それができれば苦労はしねぇ」


Aランク冒険者の考えは少し違う。

「ウッス!もう少しで手が届く!やってやるぜ!」

目の輝きが他とは全く違うのであった。


鋭く輝く瞳でじっと見つめてきた数人に彼女はにっこりと微笑みを返した。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る