第2話 反転1st Area

「んん~よく寝た」

 おはよう世界! 素晴らしくも最悪なこの世は少し霞んで見えるぐらいが、

丁度いい。

「おはようございます、最近の若い子はよく寝ますね」

 隣から明るい声が聞こえた。どうやら目を覚まさないといけないらしい。


「えっ?! おはようございます?」

 そこに居たのは、丸イスに腰を掛けた昨日の幽霊だった。

それに、何だ? この目線の高さは。うちは布団だぞ。

「では、ルールを説明しますね」

「簡単です、ここから逃げ延びて下さい」


 本当は、わかっていた。目が覚めたとき、何かに巻き込まれていること。

間仕切りのカーテン、枕元の棚、黒色しか映さない窓、そして、赤い視界。

それに、うちに帰った記憶もないし。

「どこですか? ここは」

「異界ですよ、桐さん」

 TVバラエティーだと思いたかった。質の悪い冗談だと。

「あなたも、私も、この世界では異物にすぎません」

 有無を言わさぬ気迫があった。


「今日は先駆者がいますよ、早く行きましょうか」

 そう言って荷物を突き付けてくる。確かに私のだが。

って、つんつんするな。

「んな、急かされても」

 戸惑いつつも、幽霊から荷物を受け取る。

仕方ないので言う通りにすることにした私は塩あめを一つ、自分の口に放り込んだ。

「その程度でどうにかなると?」

 突然、幽霊さんの手が私の体をすり抜けてみせた。

「おどろいた... まさか本物だとは」

 新手の詐欺じゃあなかったのか。

「これくらい余裕ですわよ」

 ドヤ顔。清々しいほどに。


 気づいたことは三つ、私が寝ていたのは病室の一角だということ。

二つ目、視界が赤いのは赤灯が原因だということ。


「こんなに広いわけがない」

 三つ目、もはや造りから違うと言えるほど大きくなっていたこと。

さながら現代の総合病院である。

 しばらく歩くとエレベーターが二台ならぶ場所を見つけた。

そんなもの、無かったはずだが。


「ところで、この異界とやらの出口はどこに?」

 私は、さも当然という顔をして憑いてきた幽霊に問う。比喩ではない、私の背中に憑いているのだ。

「おそらくメインの出入り口のはずです」

「ここは、あまり改変されていませんから」

 肩に手をかける幽霊が答える。


「じゃあ、このエレベーターに乗ればすぐ出られるかも?」

 横にはフロアガイドが貼ってあり、現在地は2Fの北EVということになっている。

ここから1Fに降りて受付前を通れば正面玄関に出られるはず。そう思った私は呼び出しボタンに手を伸ばしたが、その手が届くことはなかった。

はおすすめしません」

 幽霊さんに手を掴まれた。当たり判定つけたり消したりできるのか便利だね。

「どこに着くか、わかりませんから」


 つまり、どこにでも行けるの? って。


「呼ぶのも避ける方が賢明でしょう」

「ふぅん、じゃあ階段にしよっか近いし」

 そのとき、インジケーターに上矢印。つまり何か上がってくるということ。


「すぐに隠れて!」

 小さくもハッキリとした口調で促される。しかし、咄嗟に判断できず反応が遅れてしまった。隠れられる時間はもう、無い。


「ないよりはマシか」

 ショルダーバッグから特殊警棒を取り出して右腕を大きく振りかぶった。少し攻撃的な中段の構えをとる。いま必要なのは制圧ではなく、排斥だからだ。


 鉄の扉がゆっくりと開く、照明の光で少し目が眩むが視線は逸らさない。

そこに居たものを、一言で形容するのであれば影であった。従業員のように制服を着ているようだが、黒い人影にしか見えない。

 例えるならば、人型ピクトグラムが一番近いだろう。


 、がエレベーターから足を踏み出す。フロアに足を跨いだ瞬間、驚いたような反応、後に動かなくなった。まるで降りるまで私が見えていなかったような。

特に何かしてくる感じではない、ないが、めっちゃ見られてる。


「こっちです、そのまま非常階段まで走って」

 袖を引かれる。そんなこと、されたら後ろ、気になるよね? あぁ!! 気になるなぁ、なぁ? 

「とにかく全力です!!」

 私は、私は走り出す、後ろからズシズシ鈍い足音を立てて何かが迫る。

「はぁっ、はぁ、はぅ」

 慣れない全力疾走で息が切れる。今ほど日頃の行いを悔いたことはない。

嘘、ほんとは、もっとある。


「みつけた」

 私は非常階段の扉を勢いよく開けて、閉めた。安堵したのも束の間、

ドゴッ、バン、ガン、扉が歪み始めた。しかし、流石は金属製の扉、しばらくすると音が止む。どうやら諦めたようだ。

「危ないところでしたね、あと数秒遅ければバラされてますよ」

「ふぅ、全然わからんよ、説明して」

 バラされるて。んなえげつない。


「いま追われたのが医者で、影の方はここの職員です」

「職員は、私たちを発見すると医者を呼びます」

「へぇそうなの」

 脳が理解を拒み始めたので、そういうものだと割り切ることにした。


「普段は1Fにしか居ないはずなのですが... 私としたことが、失策でした」

「で、これからどうすりゃいいわけ? 入ってきた扉は歪んで開かないけど」

「さっき言った通りです、正面出入り口から外に」

「じゃあ下かぁ、やだけど」

 下に向けて歩く。1Fの扉を視認したときだった。傍に何かいる。


「もしかして、アレが先駆者様とやら?」

 そこで目にしたのは扉を背にうつむく若い男性だった。おそらく、高校生か大学生ぐらいだろう。肩口に大きな刃物傷がある。

「脈はありませんし乾いています」

「三人組でしたし、期待していたのですが」

 何だ? 残念か? もしかして私、こいつにコケにされているのでは。

「不安ですか? 大丈夫ですよ桐ちゃんには私が憑いてますから」

 口先だけだとしても安心してしまう、我ながら単純だ。

ちゃん付けされる仲か? というか私、名前教えたっけ。


「急ぎますよ、ここからは職員に気を付けてね」

「うむ」

 いま居るのは南の非常階段、出口にぐっと近い。しかも受付の裏を通れるルート。たとえ気づかれたとしても、走れば間に合いそうな距離だ。運がいい。


 私は亡骸をどけて、それとなく通路に出る。

ヨシ! 何もいない。幸運は続いているようだ。そのとき、前の通路から音がした。北から南にかけて続く通路、角に隠れながら様子をうかがう。

「あれが医者ねぇ...」

 図体は大きく、一応白衣らしきものを着ている。手を伸ばせば天井に届きそうだ。

日本人の体格をしていない、だが何よりも目を引いたのは巨大な桑切包丁。

本当に医者かどうかも怪しい。なんにせよ追われたくはないが。


 ふと誰かに見られている感覚に陥る、まさか。

振り返ると職員と目が合った、やつらに目はついてないが。

「うかうかしない!!」

 背中を叩かれる。正念場だ、私は全力で走った。


「よし」

 目の前には自動ドア、ここの出入り口。

私は全力で突っ込んだ...... が、開かない。センサーは反応している。

ということは、ドアの下部ロックか小癪な。


 しかし、時間は残されていなかった。

その、医者は飛んできた。比喩ではない、体感100m8秒ってとこ。


 あいさつ代わりに桑切包丁が降ってくる。ギンッ、私は何とか一撃目を躱す。

「この医者は魔晄でも決めてんの?!」

 いまから、これと正面切ってやりあうの? そういうのは映画だけで結構だ。

相手は余裕だ、まさしく強者の余裕。この場で絶対的にアウェーなのは私。ふふふ。


「はぁ~終わった」

 我ながら短い人生だったな。こんな状況だからだろうか、あとに残すものばかり考えている。


「そう?」

「今の貴女は心底、楽しそうよ桐さん?」

 と、肩に手を置く幽霊が言う。


「どこが」

 まさに今、死にかけているのに。

ふへっ私が心底楽しそう? そんな、訳がない! そう、そんなはず、ないのだ。


 が、こういう自信に満ちてて、人を見下してるような奴とやりあうのは興奮する。

へし折ってやりたくなる、こいつはどんな表情かおを魅せてくれるのかな?

「鍵、頼んだよ幽霊さん!」


 二撃目、懲りずに縦振り、左肩を掠める。はやい。

肩がえぐれ、血が湧き出す。暇すぎて、無為すぎて、忘れていた、生命の実感。

同時に沸き立つ生存への渇望。

 三撃目、横に薙ぎ払ってきた。またしても、ギリギリ躱す。

相手の間合いから外れたが、ドアを陣取られた。

「逃がさないってわけ、賢いじゃん」

 挑発だ。効果は、ないかも。突如、背後の自動ドアが開く。

しめた! 私はスタングレネードを取り出す。本物ではない、大きな音が出るだけのやつ、しかし今はそれで十分だ。

「幽霊さん、先に出てて!」


 仮にも人の型とってるって言うなら、顔面にこいつをくらって怯まないはずない。冷静にピンを抜く、少し粘ってから奴の顔面めがけて、投擲。

「私の鼓膜はお前にくれてやる」

 破裂、轟音、私は走った。結果はどうあれ走るつもりだった。

自動ドアを抜ける、私はやつの表情かおを拝むため振り返った。


 助走、肩の動き、桑切包丁。瞬時に飛びのき地面を転がる。

私の上を巨大なものが通過した。安全を確かめ再び走り出す。


 どれだけ走ったのだろう。次第に私の意識は薄れ、闇に消えた。

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 翌朝、私はとある男性に起こされた。聞けば、この先のイタリアンのシェフだそうだ。通勤途中、意識のない私を発見したらしい。

車で轢きそうになった、とも言ってたがな。


 私はお礼を言いつつ警察やらの世話になりとうないので、足早に立ち去った。

後日、治療を受けに病院に行ったが誤魔化すのに苦労させられた。


 受けた傷も過去のものになりつつある。退屈な日常に戻った私だったが、

ピンポーン、ベルの音。

「何も頼んでないはずなんだけどな」

 カメラなんて大層なものはない、アパートの一角。

「こんばんは~」

 私はドアを開ける。

「少しぶり、きちゃった」

 見覚えのある、その容姿。そっとドアを閉める。


「ひどいなぁ~生死を共にした仲間でしょう?」

 こんな昼間に堂々と、やっぱり人だろ。

「なんで知ってるのさ、住所」

「免許証でみた」

 こいつ、いつの間に。ぐぬぬ。

「はぁぁ... 」

 私は深々とため息をついた。これからを心配期待して。


➡To be continued? 

______________________________________

 ここまで読んでくださった数奇な皆様、初めましての方は初めまして、

また会いましたね、という方はこんばんは【もふ鳩】と申します。

前回に続き、初めて小説というものに挑戦したのですが、いかがだったでしょうか?


 タイトル詐欺? 恋愛? わかっていますとも...... なぜかこうなりました。

作者に技量があれば。でも、そうじゃなかった。なかったんですよ。

だから、この話はここでお終いなんです。


 一応、続きの構想自体はありますが、ダレると私自身思いましたので実質、

打ち切りです。動く駄作製造機もふ鳩。暖かい目で見ていただければ幸いです。


 そこで、このマヌケから皆様にお願いがあります。

【アドバイスをください!!】こうした方が良い、ここはもっと描写を丁寧に、など

 するとどうでしょう、アホが賢くなって内容が面白くなります、【次回作】も期待できます。非常に勉強になりますので是非、お願いいたします。


2024/7/31 もふ鳩





 

 


 

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きまぐれな私と元気な幽霊さん もふ鳩 @mofu_hato26

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